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98.07.31

総理と呼んで

 30日に小渕恵三内閣が発足。夏風邪の僕は、喉の痛みと微熱、腫れて充血した眼に苦しみながらテレビニュースを見ていました。
 野中広務官房長官が、閣僚名簿を読み上げている。「運輸大臣」と言おうとして、思わず「運輸だんじい・川崎二郎」なんて言っている。
 それはいいとして。
 以前から、記者が大臣に向かい、「宮沢大臣」などと呼び掛けるのが気になっていました。今度の記者会見でもそう言っていた。何か違和感があるんですね。たとえば「大蔵大臣」は、財政や予算の問題をつかさどる大臣だ。ということは、「宮沢大臣」というのは、宮沢をつかさどる大臣かね?
 もっとも、歴史的には平安時代にも

太政大臣基経の大臣{おとど}(「栄花物語」)

などと言っていたらしいので、「宮沢大臣」も呼称としてそれほどおかしいわけではないのかしら? いや、ちょっと事情が違うような気がする。
 戦前はどう言っていたのか、政治家の日記を読んだことがないので知りません。常識的には「閣下」と呼び掛けていたのではないかと思います。
 総理大臣に対して「総理」と呼び掛けるのも、不思議といえば不思議です。小渕総理大臣が「小渕総理」なら、宮沢大蔵大臣は「宮沢大蔵」なのか。「総理、総理」と呼び掛けるのと同じ調子で「大蔵、大蔵」と呼び掛けたら、頭オカシイと思われるに違いない。それとも、正式には国務大臣だから「国務、国務」と呼び掛ければいいのかな。
 「総理と呼ばないで」と言ったのは海部首相でした。1989年に就任したときに、記者団に「その『総理』と言われるのは、慣れないなあ。『海部さん』と呼んでくれよ」と言っていた。ところが、1年も経つと態度が変わって、

(略)が、六日午後、たまたま記者団が質問の中で「海部さん」と言ったところ、「海部さん? ああ、オレのことか」。一瞬、ムッとした表情に。質問が北川環境庁長官のパーティー問題に触れたためか。それともサミットへの出発を目前に「世界のカイフ」を意識するにつれ、「総理」の晴れがましさに、すっかり慣れてしまっていたためか。(「朝日新聞」1990.07.07 p.2)

というふうになったのだそうです。


追記 総理大臣をやめても「総理」と呼ばれるそうです。ということは宮沢氏は今回「大臣」に格下げとなったわけだ。(1998.09.04記)

 審議の初めのころ、質問者がしばしば宮沢喜一蔵相のことを「総理」と呼び間違えていたのがおかしかった。妙なことだが、永田町には元首相に対しては、退任後もずっと「総理」と呼び続ける慣習がある。当人には少し面はゆいかもしれない内輪の席での敬称が公式の場にポロリと出てしまった。(ポリティカ日本・早野透=「朝日新聞」1998.09.01 p.4)

関連文章=「フランスの大蔵大臣

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