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04.04.16

「設置」の反対は?

 テレビ東京の「TVチャンピオン」という番組(2004.04.15 19:30放送)で、「親子漢字王選手権」を催していたのを最後の方だけ見ました。漢字にやたらに強い子どもとその家族が1チームとなって、家族対抗で漢字クイズに挑戦します。

 その最終ステージは「親子漢字王選手権対義語パネル勝負」というもので、出題された2字熟語の対義語を答えるものでした。一般には「反対語」という分かりやすいことばが使われていますが、番組では「対義語」と言っていました。「登校」に対する「下校」、「開始」に対する「終了」などが対義語です。

 ところが、その答えには首をかしげたくなるものが少なくありませんでした。

 「尊大」の反対は? 答え「卑下」
 「整頓」の反対は? 答え「乱雑」
 「安易」の反対は? 答え「至難」
 「幼稚」の反対は? 答え「老練」

 これらは反対語辞典にどう載っているのでしょうか。「尊大」の反対は「卑屈」だろうと思います。「卑下」と答えて解答者は点をもらいましたが、ことによると局側の用意した答えは「卑屈」だったのに、まけてもらって「卑下」が正解になったのでしょうか。「尊大な」と言うのに対し、「卑屈な」とは言っても「卑下な」とは言いませんから、どうも「卑屈」のほうが反対語としてより適当のようです。

 「整頓」は「整頓された部屋」と使うから、その反対はたしかに「乱雑な部屋」でよさそうです。しかし、「整頓」は「する」をつけて「整頓する」と動詞性のことばになります。それにそろえようとすれば、「攪乱(こうらん)」とか「紊乱(びんらん)」とかがむしろ近そうです(いずれも「攪乱する」「紊乱する」と言える)。でも、どんぴしゃりの反対概念のことばはちょっと思いつきません。

 「安易」の反対は「至難」(これは局側の用意した答え)ではないでしょう。「安易な考え」という場合、その反対は「周到な考え」のほうが近くはないでしょうか。

 「幼稚」の反対は「老練」で誤りではないかもしれませんがが、「幼稚な絵」の反対は「巧緻な絵」、「幼稚な犯罪」の反対は「巧妙な犯罪」と行きたいところです。「老練な政治家」の反対は「未熟な政治家」がぴったり来ます。

 こう考えると、「反対語とははたして何か」という問題が浮かんできます。今見たように、反対語は、その文脈によって異なる場合が往々にしてあり、必ずしも1対1で対応しているものばかりではありません。

 クイズの最後の方で、ある家族は「設置」の反対語が何であるかがついに分からず、涙をのんで敗退しました。答えは「撤去」。とはいえ、これも、設置するものによっては「撤去」と言わないものもあります。「捜査本部を設置」の反対は「撤去」ではなく「解散」です。「行政機関を設置」の反対は「廃止」です。

 「撤去の反対語」といってもこのように状況によって複数あるものだから、解答者は反対概念のイメージが固まらず、答えられなかったのではないでしょうか。局側は「解散」とか「廃止」とかいう答えが出ることを想定していたでしょうか。

 反対概念が1つに定まらないということは、なにもむずかしい2字熟語に限ったことではありません。「あたたかい」の反対は、空気の場合は「すずしい」であり、水の場合は「ぬるい」であり、人の心の場合は「つめたい」です。「のぼる」の反対は、木登りであれば「おりる」であり、太陽であれば「しずむ」であり、隅田川の舟人であれば「くだる」であり、「話題」(「話題にのぼる」)であれば「はずれる」(「話題からはずれる」)です。

 このように、思わぬ反対語が出現するところが、反対語を考えるおもしろさです。反対語辞典のたぐいでは、きっと、このあたりのことにも周到な目配りをしていることと思います(が、じっくり読んだことはないので分かりません)。

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