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00.03.28

「飲みニュケーション」補遺

 どうも、ぼけてきたのか、一度採った用例がさっぱり記憶にないということがあります。
 「ノミニュケーション」について最近書いたのが、今月初め。ノミニケーションという語形が、カッコ付きでなく使われている例を示して、どうやら定着しているらしいことを指摘しておきました。
 しかし、「標準形の地位を確立した」というのは言い過ぎだった、と反省しています。注意して探せば、別の語形も見つかるかもしれません。
 何しろ、前記の文章を書く何日か前、週刊誌で「ノミュニケーション」の例を僕は拾っているのです。それをまったく忘れたまま、前記の文章を書いたのでした。
 今、たまたま用例を見直していて、気づきました。
 その記事では、某百貨店で「フロアチーフアドバイザー」を務める60歳の男性の次のような談話を紹介しています。

「何と言っても社内に仲間が大勢いますから。そのつながりを保ちつつ豊かな生活を送りたいのです。休日に同僚と行くゴルフは最高に楽しい。そうそう、この二十日からは同期などと台湾へゴルフ旅行に行くんですよ。週一回はいろいろな仲間とノミュニケーションも楽しんでいます」(「週刊朝日」2000.03.03 p.23)

 原文では「ノミュニケーション」の部分に傍点があります。
 うーん……、「ノミュニケーション」か。これには驚きます。この形は、まず出てこないと思っていて、この間もそう書いたんですがね。
 「ノミュニ……」では、「飲み」とかけたしゃれになりません。たしかに、何度も言うように英語では「communicaton」であり、そのことからすれば「ノミニュ……」よりは「ノミュニ……」のほうが英語に忠実だ。でもそれは理屈であり、しゃれが分からなくなっては仕方がありません。
 百貨店の男性は、きっと実際には「ノミニュケーション」か、せいぜい「ノミニケーション」と言ったと信じたい。それを、記者か、校閲者がさかしらをして、「ノミュニケーション」に直したのではないでしょうか――何でも校閲のしわざにしてしまうのは、勘ぐりすぎかもしれませんが。
 そうだ、今、ふと思い出しましたが、さきほど大学院の男性2人と食事をしているとき、K氏が「ノミニケーション」ということばを使ったような気がします。その時は、話の流れを乱すことを控えて、「今、何て言った?」と聞き返さなかった。しかし、彼の発音はたしかに「ノミニ……」であったと思います。

●この文章は、大幅に加筆訂正して拙著『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波アクティブ新書 2003.06)に収録しました。そちらもどうぞご覧ください。

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