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00.03.27

マスコム・マスコン

 マスコミュニケーションを「マスコミ」とする省略のしかたは、ちょっと変わっています。ふつうに初めの4拍分をとるならば、「マスコミュ」となりそうなところ。でも、「マスコミュ」じゃあんまりなので、「ュ」を落として「マスコミ」にしたのでしょう。英語の mass communicaton に「ミ」にあたる音が入っていないのはもちろんです。
 「マスコミ」ということばはいつから使われ始めたのか、手許のあらかわそおべえ著『角川外来語辞典』を当たると、1954年の例が挙げてあります。「マスコミュニケーション」は1946年の「ユネスコ憲章」にすでに使われているようです。
 この辞典には、また「マスコム」という言い方が挙げてあって、これも「マスコミュニケーションの略」とあります。しかし、用例なし。「マスコム」ということばはふつう聞きません。この辞典の初版(1967年)が出たころは使われていたのでしょうか?
 雑誌「言語生活」の古い号を見てゆくと、マスコミュニケーションということばは何度も出てきます。多くは略さずに使われていますが、中に

〔薬の商品名を〕もし群を抜いて大衆に覚えてもらおうと思うならば、現在の何十倍かの資本をマス・コンの媒介に投資しなければなりますまい。マス・コミュニケーションに適したもっと別の名〔商品名〕が望しいと思われます。(「言語生活」1953.07 p.20 森岡健二「名」)

と、「マス・コン」の形で出てくるのがあります。これは「マス・コンミュニケーション」の略と考えていいのではないでしょうか。
 「マスコン」は『角川外来語辞典』にはなく、楳垣実『外来語辞典』には master control(主幹制御機)の意味で出ています。でも、これは別語と考えていいでしょう。
 「マスコム」の形は、翌年に出てきます。

▼ちょっと古いが、九月十四日づけのマス・コムから(「言語生活」1954.01 p.43「耳」)

 何の説明もつけず「マス・コム」としてあるのは、この略し方がもうある程度認められていたのでしょう。「マス・コム」の形は、その後も、ぽつぽつと使われていますが、どちらかというと「マス・コミュニケーション」とあるのが大多数。
 次に省略形で出てきたのは(というより、僕が見つけたのは)、3年後で、使用者は、上記の引用の筆者と同じ森岡健二氏です。

 どうもアメリカという所は、想像外に広い所で、ある大学ではマス・コミに専心し、ある大学では一般意味論、話し方に熱中しているかと思うと、〔下略〕(「言語生活」1957.05 p.58 森岡健二「「ことばの技術」の再吟味(一)」)

 1953年から57年の間に、森岡氏が「マス・コン」から「マス・コミ」に方針転換をしたとみていいかどうか、詳しく調べてはいませんが、『角川外来語辞典』に1954年の例として「マスコミ」が出ているのと矛盾はしていません。これより後の「言語生活」でも、「マス・コム」をさっぱり見かけず、「マスコミ」に変わってきているようです。


一言メモ NHK「ニュース10」本日放送開始。キャスターの堀尾正明アナは、「明日からも厚いメッセージを」と発音。「アイ」ではなく「アツイ」でした。

追記 「マスコム」ということばが旧『国語学辞典』に出ていることについて、岡島昭浩氏がすでにウェブで触れられていました。僕も以前拝読したのですが、うっかりしていました。岡島氏ご自身からご指摘をいただきました。
 同辞典の初版は1955年ですから、1954年の「言語生活」とほぼ同時期、やはりこのころは「マスコム」がよく使われていたとみえます。(2000.03.31)

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