哀愁のヨーロッパ ミラノ・ヴェネツィア篇 第1話

団体旅行はあまりに楽ちん

なぜか当たった

えー、実は懸賞に当たったんですね。それで、あまり気乗りはしなかったものの、行くことにしたわけです。行きたかったから応募したんだろうって? いやいや、なんか登録すると自動的に応募しちゃうシステムなんです。というわけで、いつもの「哀愁のヨーロッパ」とはちょっと趣を変えて、旅行術なんかを考えながら、雑感をお伝えしましょう。

ただではない

当選通知がきて、オプションの参加(もちろんしない。自由時間こそ命)とか保険はどのクラスにするか(一番安いクラス)トラベラーズチェックを購入するか(しない)とかを返事し、パスポートのコピーを同封すると、参加しますという意志表示。さて、問題は旅行日程。4泊6日というのは、ヨーロッパ旅行では最短、なのに2都市を回るわけで、これはきつい。そしてやっぱり、「市内観光」という名の団体行動。ほとんどフリータイムがない。そしてきっとあるに違いない免税店タイム(わたしゃ、買い物に貴重な時間を使いたくない)。まあ、ただですからね。と思いきや、費用が発生するんです、これが。まず旅行保険。これは入ります。とくに携行品保険には入った方がいいです。現金の紛失・盗難はカバーされませんが、カメラとかバッグとかは購入額に応じて返ってきます。これが最低で7000円。成田空港の使用料が2040円。当然、必要。最後が「渡航手続き代行料」4200円。これは頭にくる。出国カードへの記入なんか自分でできるわい。しかも、必須なんですよ。旅行会社にクレームつけようかとも思ったけど、やめときました。

ただ待つだけ

あとは、請求が来て、振り込みます。そして最終連絡を待つわけですが、これが出発の1週間前になっても来ない。もしかして、旅行自体がなくなったのかと不安になって旅行会社に問い合わせの電話をしました。さすがにポシャッたわけではなく、出発日の集合時間とキャリアー(航空会社)を確認してきりました。エアーはスイス・エア。初めてです。丈夫そうだけど、機内食はどうだろう? その日会社から帰ったら、封筒が着いてました。日程表には宿泊ホテルのアドレスなど、留守宅用のデータがあり、コピーを会社の上司に渡すことにしました。しかし、知りたかった何人のツアーなのか(100人とかだったら怖い)、同室は誰か、市内観光とはどこのスポットに行くのか、とかは不明なまま。

計画のわくわくがない

いつもならば、旅行に行くとなったら、徹底的に調べるのが癖なんですが、今回は何にもしなかった。ガイドブックすら買わず、4年前の『地球の歩き方 北イタリア』とトンボの本の『ヴェネツィア』を引っぱり出しただけ。読みもせず、「機内でいいや」とほっといた。観光局への問い合わせもせず。観るものリストも作らず。作ってもむなしい。サッカーとかオペラとか、そんな時間はありそうもないし、食事もみんなで取るのがほとんどだから、レストランの当たりをつけるのもなし、もちろん、どこのホテルにするかなんて考える必要はない。旅の前の「どこに行こうかな〜」というどきどき、わくわく、が全然ない。これは不幸です。それでも立てた目標は2つ。

1. ヴェネツィアでヴァポレット(運河を行く水上バス)に乗る 

2. ミラノでミケランジェロの《ロンダニーニのピエタ》を見る

これくらいなら、なんとかなるか。あとは、ヴェネツィアのアカデミア美術館でジョルジョーネの《ラ・テンペスタ(嵐)》を見るとか、パドヴァでスクロヴェーニ礼拝堂をたずねるとか、マントヴァに行く(こいつは全然無理)とか、いろいろやりたいけど、難しいだろうなあ。どっちにしろ、もう1回来ないと駄目と割り切って、ここは大体の感じだけつかむことにしよう。

さあ、出発

事前準備で買ったのはフィルム(コダックISO400、36枚撮り6本)と手帳代わりのメモ帳(150円)だけ。11月29日(土)出発当日、4時10分に起床。それから荷造り。手回り品(サニタリーセット、薬セットなど)については私は国内の出張でも海外旅行でも持っていくものはほとんど同じなので、いつものバッグに放り込んであるのです。ただし、「携行品リスト」は必ず新規に作成します。これは、前回の旅行時の携行品リストから、不要だったものを削り、あればよかったものを足し、季節と日数、行き先を考えながら作ります。これを旅行のたびに続けると、必要なものはほとんど見当がつきます。このリストは手帳に書いて、旅行中にコメントを入れます。また、新品の手帳の冒頭にはまず旅行日程の概略を書き、最後のページには自分の住所・勤務先・非常時連絡先(姉)・パスポート番号・健康保険証番号・クレジットカード番号・銀行口座番号など、重要な情報を書き付けます。また、手帳とは別に、このimportant listを小さい紙に書き出してパスポートと一緒に貴重品保管袋に入れておきます。ここまでの作業はさすがに前日までにやっておきます。今回は結局、チャックのついたビニールの小袋が足りなくて(小物、小銭の仕分け用)空港で買い足すことにしました。

荷造り

ついでですから、持っていくといいものを書きましょう。

まず、貴重品袋。誰も信用してはいけません。たとえ、一流ホテルの貴重品預かりであっても。とくにパスポートは命の次に大事です。私はパスポートの他に帰りの航空券、さっき書いたimportant list、クレジットカード(2枚あるうちの1枚)、旅行保険証、健康保険証のコピー、非常用の現金(円または現地通貨)を入れています。ちなみに財布には現金(現地通貨)、クレジットカード(2枚のうちの1枚)、パスポートのコピーを入れます。これとは別に帰国してからのための財布に円、テレホンカード、IOカードなど、さらに別に小銭入れ(ベルトから鎖でぶらさげる)を持ちます。

方位磁石。街の中、通りはわかっても方角がわからないことがあります。ロンドンの公園で迷って以来、ベルトからいつもぶらさげています。軽いし、なにより安心できます。もっとも今回は果たして登場するかどうか。

バンダナ。ハンカチより丈夫で大きい。小雨なら頭に巻けばよい。急にネクタイが必要になったら首に巻いてタイにする(やったことないけど)。少々の切り傷なら包帯代わりにも。

ボールペン。私はいつも手帳にメモしているので必ず持ち歩きます。駅で言葉が通じなかったら、書いてみせる。市場で値段が聞き取れなかったら書いてもらう。地図に印をつける。買ったばかりの絵はがきにカフェで文面を書く。結構、活躍します。

ヘッドランプ。ヨーロッパのホテルは暗い(新しいホテルとか、アメリカ系ホテルなら大丈夫ですが)。しかも秋冬は夜が長い。読書や書き物にはランプがあると便利です。しかもヘッドランプなら暗い夜道もOKで、両手が使える。山歩き用に買ったものですが、重宝しています。予備の乾電池も忘れずに。

ビーチサンダル。ホテルにはスリッパはまずありません。靴を脱ぎたい日本人としては何か上履きがほしいところ。なぜスリッパでなくサンダルかというと、シャワー室にそのまま行けるから。シャワー共同という安ホテル宿泊が多い身ではありがたい。しかもかさばらない。濡れても平気。

スプーン兼フォーク兼ナイフ兼缶切り。これも山歩き用の小さなものです。お惣菜屋でおかずを調達し、缶詰やワインやチーズやパンで簡素な夕食、という場面で使います。いつもレストランならいりませんが。機内食で出たナイフ、フォーク、スプーンを持ち帰る手もあります。私は料理用に携帯セット(ハサミからまな板まで!)も持ってますが、さすがにあまり使ったことはありません。ワインオープナーぐらいかな。

成田空港へ

30分で荷造り終了。時間が余ったので台所を掃除してゴミを出しました。新聞は止めてあるし。さて、このホームページの更新。1週間後にはもう帰っているわけで、休止なし。ベースギターの練習(帰国の翌々日にスタジオ入りなのだ)までやって、7時10分に家を出ました。バスとJRを乗り継いで上野へ。ここで朝食。なにしろ空港内はすごく高いからね。いつもの鶏がゆ560円。京成の駅で切符を買い、時刻表を見ます。あくまでもローコストをめざし、スカイライナーではなく特急に乗るところがいじましい。京成の特急は青砥、船橋、津田沼、勝田台、佐倉とか、とても特急とは思えない停車駅の多い電車で、通勤・通学・行商(!)が多い。成田空港に通勤する人も当然多い。それから、途上国の方々が膨大な荷物(段ボール箱とか)を持って乗っています。空港まで1000円、1時間15分。8時28分発に乗車。人生模様を眺めつつ、第2ターミナル到着。集合時間は10時55分なので、楽勝です。売店でチャックのついたビニールの小袋2個を買い、2万円だけ東京銀行でリラに両替。ここのレートはあまりよくないので、もし多額の現金を両替したいなら、現地の市内の銀行がいいでしょう。もっとも、そんなに多額の現金は持たないようにする方が賢明です。大きな買い物はカードをおすすめします(もっとも私はほとんど買い物をしませんが)。

さあ、チェックイン

集合カウンターの近くで待ち時間に『歩き方』を読む。余談ですが、この『地球の歩き方 北イタリア』は不出来ですね。とくにホテル、レストランは有名な(つまり高い)ところを羅列してあるだけで、役に立ちません(ちなみに、『歩き方』に出ている地図は例外なく不正確です。目的の都市に着いたら、ツーリスト・インフォメーションなどで最新の地図を入手しましょう)。集合時間前だが、たぶん、もうやってるだろう、と行くともう並んでいました。すでに10人近い列。時間がかかっているのは、いちいち説明があるから。私と同室の人は45歳、とどうやら年齢が近いということでグルーピングしたらしい。なにしろ、懸賞で当たったツアーだから、メンバーの属性はバラバラなんでしょう。受付してくれた担当者はHさん、女性。どうも、添乗員ということのよう。現地係員が案内ではなく、添乗員同行とは。ここではまだ搭乗券は渡されず、11時15分に大時計前に再集合。チェックインする荷物は私はなし。なにしろ、スーツケースなんかは友達のところに10年以上あずけっぱなし。いつもは機内持ち込み荷物だけですから、乗り換えがあろうとホテルを探して歩き回ろうと苦になりません。

どんなメンバーかな?

というわけで大時計前になんとなく集まるわけですが、このへんの様子眺めがちょっと変な気持ち。15分遅れで搭乗券配布。説明があまりにていねいすぎてチェックイン手続きが長引いたもよう。説明によると東京で31人、大阪で30人のツアー。見た感じは女性の中高年がやや多いか。年齢はバラバラ。おそらく職業はもっとバラバラ。いったいどんな人々なんでしょうね。添乗員のHさんはエネルギッシュに両替レートやこれからの出国手続きについて解説。さすがにパスポートは各自持つにしろ、途中の乗り換えの搭乗券や旅行保険の書類なんか全部持ってこの31人を連れて行くなんてご苦労なことです。みんな添乗員さんを頼りにするんだろうしなあ。

もしかしてビデオ・オン・デマンド?

X線検査、出国手続き、免税店街(いやはや、早くもここで化粧品を買い込む人あり。ミラノよりも成田の方が品揃えがいいということらしいけど)を経て搭乗。機はMD11。それぞれの座席のテーブルの裏が液晶画面になっていて、「SWISS AIR ENTERTAINMENT SYSTEM」と出ている。これとは別に機内のところどころにTVモニターあり。離陸して水平飛行に移ったところで、謎の液晶画面を探索。どうやらウィンドウズの端末で、ビデオ、ゲーム、音楽などのメニューがある。劇場映画もあるが、こちらは有料。エコノミーだもんな。ゲームにはオセロともぐらたたき風のふたつ。もうちょっとコンテンツが充実してれば、ね。ネットサーフィンできれば文句ないけど。『歩き方』もあっという間に読み終わり、イタリア語会話に励んだのでしたが、使う機会はあるのかな?

ミラノへ

12時間強のフライトで、チューリヒ着。ここでミラノ行きに乗り換え。今度は実に小さい飛行機。A321の旧式か。3-3列で、クッションの堅い座席。実質30分のフライトなのに、サンドイッチと飲み物が出る。出す方も忙しいが、食べる方も気がせく。なんやかんやで、夜8時15分に着陸。空港は意外にもマルペンサ空港でなく、リナーテ空港。ここが、ヨーロッパ・国内の発着らしい。国際便はみんなマルペンサ空港だと思っていた。入国審査はパスポートの表紙を見せればOKと思いきや、列がしばしば止まる。どうも偽造を疑ってランダムにチェックを入れているみたいでした。

早くも行方不明

バゲージ・クレームで集合。スーツケースはまとめてポーターが運んでいく。団体旅行では、こうして自分でスーツケースを運ぶことがないようにつくられているので、荷物が重くてもいいわけだ。しかし、身に付いた習慣は改めにくい。さあ、みんな揃っていざ出発(ここまでで着陸から35分)という時に「いない!」という人が。奥さんをおいてだんなさんがどっか行っちゃったらしい。それもトイレとか両替とかじゃないらしく用事が不明。大阪組でも1人行方不明が出たらしい。とにかく待つ。出口ではお迎えの人々が。赤ん坊に頬ずりしているおじいちゃんとか、やっぱりイタリアらしくまだまだ家族の絆は強い。

添乗員はとっても親切

ようやくみんな揃ってバスへ。行方不明のおじさんからはなんの挨拶もなし。見たところ極端な亭主関白のもよう。それで自分の面倒を自分でみられる人ならいいのだけれど。バスのなかでは添乗員のHさんがイタリアの水について詳細な解説。硬水、石灰質多し、ミネラルは炭酸でないものがよい、等々。また、チップの目安。泥棒に気をつける。絵はがきは渡してくれたら切手を貼って投函してくれるそう。また、テレホンカードも頼めば入手してくれる。ふ〜ん、そこまで親切に世話してくれるんだ。明日の予定も簡単に発表。まずヴェローナに向かい、昼食と市内観光。ヴェネツィアには午後4時過ぎに到着予定。おお? これはパドヴァに行けるかもしれない。20分でホテルに着く。これは、市内中心部ではなく、空港付近の新市街にホテルが位置することを意味する。まあ、団体行動だから関係ないか。いつもなら、私はロケーション重視で宿を決める。主要な広場か駅の近く。これだと、疲れたらホテルに戻って休めるし、忘れ物も取りに戻れる。オペラの前には着替えもできる。足の便は、重要だ。空港に近くても、乗り継ぎ1泊ならともかく、市内に用があるなら不利だなあ。という風に、ホテルの場所は行動予定を立てる時の前提条件なのだけど、どうせみんな一緒なんだから、いいか。

部屋割りを発表

ホテルのロビーでルームキーの配布。なんだか修学旅行を思い出してしまう(もっとも最後の修学旅行は中学2年の時だったからずいぶん昔だけど)。キーは薄いカードキーで、しかも翌日フロントに返却する必要なし。そうか、毎日変えるのか。明日は6時30分 モーニングコール 7時30分までに スーツケースを部屋の外へ 7時30分から 朝食(全員まとまって) 8時15分 出発、という予定。説明が終わってようやく部屋に入ったのは午後9時50分。もしも単独行動で同じホテルを予約していたら、1時間は早く着いていたと思う。というか、こんなに遅く着く便は選ばないだろうけど。

さあ、相部屋だ

というわけで、同室は45歳のM氏。とりあえず名刺交換。交代でシャワーを浴びる。Hさんから電話。一応「Pronto?」と出てみる。異常なし、お疲れさまです。それにしても、遅くまですべての部屋に電話するなんて大変です。早くも同情してしまいます。M氏はなんとピアノの調律師。一度、研修旅行でオーストリア、ドイツに行かれたそうで、これは話題が合って助かった。ただ、海外旅行は得意ではなく、日本人が全然いないところへは、怖くて行けない、という話でした。私は持っていたみかんを出し、Mさんはせんべいを出してしばしなごみました。そうそう、なにか軽食は持っていた方がいいです。私が好きなのは果物(現地の市場で調達)、チョコレートバー(スニッカーズとかですね)、長期旅行用にカロリーメイト。それにミネラルウォーターの小瓶にホテルで水道水を詰める(冷えているのを買ってもどうせすぐぬるくなりますから)。西ヨーロッパでは水はまずいけど、死ぬわけではありません。けっこう平気です。なお、実は一番おなかがすくのは、着いた当日の夜です。そのために、日本から食料と水を持参するのは正解です。とくに水は機内が乾燥するので、有効です。ただ、私は山歩きの訓練とトイレに頻繁に立ちたくないために、水分を節制していますが。

そんなこんなで第1日目は終了。なんだか、いまだ旅行している気分にならないんだけど。さて次の日は果たしていい日になるのか?

哀愁のヨーロッパ ミラノ・ヴェネツィア篇 第1話 【団体旅行はあまりに楽ちん】完

text by Takashi Kaneyama 1997

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