私がKスペ杯3時間耐久に参戦した理由

子供のころに読んでいた少年ジャンプのヒーローものでは,主人公の強敵がいつのまにか仲間になってもっと強い敵に立ち向かっている,ということが良くありました.今もそうかもしれませんが,なにせ界王様が出てきたあたりで「もういいじゃん」と思ってジャンプからは離れたので,今どうなっているのかはわかりません.スレッカラシなオトナとして作者や集英社の都合を考えると(笑),ジャンプの事情が変わっているとはあまり思えないのですが,とにかくそういうのはマンガの世界だけの話だとは思っていました.しかし,そうは考えない方もいらっしゃるわけで…

正月に年賀メールを読んでいた中に,こんなのが1通ありました.

実は今年の春ごろに軽自動車耐久レースに参加する予定なんですが、腕自慢がいないのでトディではやいツチヤさんにドライバーをお願いしようかと考えていたんですよ。
もし、のっていただけるようでしたら、連絡をくださいまし。近いうちに打ち合わせの予定などをたてますので。

差出人は,と見ると,あの,酔猫庵氏でした.前回の平塚のときはほとんど剣豪小説のような挑戦状で本サイトの筆者に衝撃を与え,読者に旋風を巻き起こした氏が,伝説に更なる色合いを添えるべく戻ってこられたようです.しかし,私は去年の引退宣言以来,クルマの運転に対する興味が薄れまくり,運転そのものもヘボまりまくっています.これを書いたときに「走るのやめちゃうんですか」というお問い合わせを各方面からいただいたのですが,本人のつもりとしては「走ることは続けても,文章にはしない.アップロードもしない」というくらいのつもりでした.ところが実際には意識していないところではモチベーションが下がりまくっていたようで,つまり文章と読者は最初からわかっていたのに,本人だけが全然わかっていなかったという,何とも不思議な話ではあります.ともあれ,

乗るべきか
乗らざるべきか
立ち向かうべきか
逃げるべきか

さんざん悩んだ末に「乗ります」と返事したのですが,妻にはやっぱり訊かれました.

妻:モチベーション下がりまくってるって言うのに,何で乗るの?
私:んー,酔猫庵氏のサーキットでの腕前を見たいとか,まだ彼に伝えてないことがあるんじゃないかとか,こじつければいろいろあるんだけど,ホントのところ理由は良くわからないんだよね.

すこし,ごまかしました(笑)


さて

問題の耐久レースは Kcar special 杯の3時間耐久の第1戦で,筑波サーキットのコース 1000 (TC1000) で行われます.当日現場に行ってみると,参加台数 23台は良いとしても,不況による経費節減のため肝心の Kスペの取材は無く,業界のどうしようもない行き詰まりな状況をうかがわせていました.走る車も新規格 (幅 1480ミリ) 車はほとんどいませんし,人間はどう見てもマニアばかりで,酔猫庵氏や私がシロートに見えるくらいです(ホントか?)

そんな中,今回の私たちの戦闘車両はこちら

白い軽自動車と青いツナギの男性ホンダトゥデイ 550cc とオーナーの酔猫庵氏

周囲の行き過ぎちゃった改造車の中,このクルマはサスペンションとブレーキパッド以外はほとんどホンダの工場を出てきたままのようで,つまりほとんど竹やりで B29 を撃ち落とすようなものらしいです.とはいってもそういう状況だということに気がついたのが当日の朝のパドックの中なのですから,もうどうしようもありません.前日までは「もしかしたら入賞も」などと超甘な話をしていたのですが,現実を認識して酔猫庵氏は
「……」
酔猫庵氏のお友達で,今回のセカンドドライバーの N 氏も
「……」
私も
「……」
3人でヘコみました.

予選アタッカーは酔猫庵氏でタイムは 50秒台.これは車の仕様を考えるとかなり立派なタイムなのですが,前のクルマと1秒ぐらい離れたダントツのビリ,1位のクルマとは8秒差となると,タイムがいいとか悪いとか,そういう問題ではないような気もします(苦笑)

そしてレース.もう竹やりなのは間違いないので,3人ともブツけないようにブツけられないように,慎重に後ろを見て周回を重ねます.なにせバンバン抜かれるので,前を見ていてもあんまり意味は無いです.

コントロールライン上の白い軽自動車全開(…なんだけど)

もう面倒なので順位しか書きませんが,それでも 21 台中の 13位でゴールしました.つまり,トラブルが出たクルマが8台ぐらいはあった,ということです.あまりの結果に3人とも目はうつろ,口数も少なく,表彰式ではなにやら険悪な雰囲気まで漂ってちょっと大変でした(大ゲサ)


帰宅して,妻と反省会.

妻:それにしても遅かったわね
私:周りがあれじゃどうにもならないよ.
妻:酔猫庵さん,最後機嫌悪かったみたい
私:んー,そうだね.
妻:お友達に聞いたら,なにか思い通りにならないことがあるとすごく機嫌悪くなるらしいんだけど,ワタシどっかで似たようなヒト知ってるはずなのに,思い出せなくて…
私:目の前にいるじゃん?
妻:あ,そっか(笑)

細かく言うと酔猫庵氏の方が実行力があって,なおかつナイスガイでもあるという違いはあるのですが,最初にお会いしたときから,私は酔猫庵氏にどことなく自分と似た匂いを嗅ぎ取っていました.

そしてそのことこそが,妻には言わなかった本当の参戦理由だったり…

おことわり:この稿のうち,妻との対話部分についてはフィクションであり,実在の妻の発言・思想・信条および性格を反映したものではありません.

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