悪役な一日

立志篇

こりゃ,今回は悪役するしかないな.
酔猫庵なる Web Site を読み終えた私は,そう思って覚悟を決めた.

その前日,私は未知の読者の方からメールをいただいた.この文章はなかなか味わい深いので,ぜひ全文引用したい(本人許諾済み).

こんばんは。同じ志を持つ44CHことフジサキと申します。
ワタクシ「酔猫庵」というH.P.でトディによるジムカーナの話を続けている者です。
さて、土屋氏といえば今日の自動車マニア(ヲタク)の中でも腕自慢と知られ、 そしてポルシェに撃墜された事で知らぬ者はいない程に聞こえの高い事を敢えて踏まえて 一手御指南頂きたいと思いキーボードを打ち据えた次第であります。
 前置きが長いのであれですが、7/20日曜日に神奈川平塚でジムカーナの練習会があります。 安いのですが人気のイベントなので申し込みが殺到しております。 御暇よろしければ御手合わせ願いたいと思います。

内容には若干事実誤認のところもあるような気がするが,ともかくどうやらこれは果たし状らしい.しかし,「同じ志」とはいったい何のことだろうか.

サイトを読んでみると,この方は JW2 トゥデイでジムカーナをやっているとわかった.しかも恐るべきことに,この方の成田モーターランド持ちタイムは 50秒 8 という.私はその 3秒も手前で挫折して JA4 トゥデイに乗り換えてしまったけれど,世の中上には上がいるものだと,感心した.

問題はそのもの凄い方から挑戦されていることである.私はここのところジムカーナはあまり練習していないので,コース設定次第では負ける可能性が高い.といって逃げれば,このメールの文脈上「臆したか」と言われるに決まっている(笑).もちろん臆しているのだけれども,それを他人に指摘されるのは実によろしくない.

今回の場合はフジサキ氏が 550cc トゥデイ,私が 660cc ビートだから,世間的には私が勝って当たり前である.ヒーロー物の文法で考えるとあちらがヒーロー役でこちらが悪役といったところか.しかし,悪役がいなければドラマが盛り上がらないのも事実である.

そこまで考えて,結局受けてたつことにした.が,怪人抜きでショッカー戦闘員しか出てこない仮面ライダーがあり得ないように,弱い悪役では話にならない.負けるにしても,無様な負け方だけは避けなければ.

風雲篇(午前の部)

決戦場は平塚の青果市場である.珍しい立地にも驚いたが,コースの狭さにも驚いた.歩測すると長辺(写真の左右方向)が 80 歩,短辺(同奥行き方向)が 39 歩しかない.しかも周りの塀やら生け垣やら,あるいは塀際に置いてあるパレットやら台車やらに突っ込まないように,周囲にはたっぷりと(でもないか)エスケープゾーンがとってあり,走る部分はほとんど競泳用 50m プールほどしかない.これではサイドターンのうまさだけでタイムが決まってしまう.なのに,私はサイドターンがヘタだ(泣).

市場の建物コース(市場的には駐車場)とパドック(市場的にはセリ場?)

パドックで準備をしていると,修行僧のような風貌の背の高い人物が現れたが,その方こそ,今回の主役のフジサキ氏であった.聞けば,パドックが隣に割り当てられているという.主催者のご配慮か天の配剤かは知らないが,あまりのありがたさに思わず涙した.

仲良く?ツーショットトゥデイとビート

午前のコース午前のコース図.未だかつて経験したことがないほど狭いコースなので,対策を練る.とにかく小回りできないと話にならないだろうから,屋根を閉めて重心高と前輪荷重を稼ぐことにし,タイヤ空気圧はコーナーで踏ん張ることを考えてちょっと高め(前 2.5kg/cm^2,後 2.7kg/cm^2).あとはなんとしてもサイドターンしないと…

1本目:ミスコース.一つ目のフリーターンへ行くところで間違えた ^_^;
2本目:40秒 35.どうもうまくサイドターンができず,サイドブレーキ減速になってしまう.
3本目:40秒 16 + パイロンタッチ 1.サイドターン不発が続く.しかも,サイドターン前提のライン取りなので,失敗した時のリカバリができない.何か根本から間違っている気がする.
4本目:39秒 82.べたべたのグリップ走行ラインで走ってみた.フリーターンはまだしも,最後の 360度がとてつもなく遅い.
5本目:39秒 14 + パイロンタッチ 1.最後の 360度だけサイドを引いてみる.クルマは一瞬スライドしかけるが,すぐに後輪のグリップが回復して,プッシュアンダー状態に入ってしまう.いかん,何とかしないと.
6本目:38秒 74.ふと思いついて後輪の空気圧を 2.5kg/cm^2 まで落としたところ,なんとかサイドターンできるようになってきた.やはり後輪の限界を高めすぎたらしい.反省する.

ただいま走行中屋根を閉じて走るビート

6本走ったところで走行枠は終了.この練習会では参加者を 3つのグループに分けて,それぞれを 1時間交代総入れ替え制で走らせる.つまり,私は最初のグループに入っていたので最初の 1時間で 6本走って午前の走行は終了.一方フジサキ氏は 2つ目のグループに入っているので,私が走り終えた次の 1時間で走ることになる.というわけで,フジサキ氏の走行をみまもることにする.

フジサキ氏1本目:38秒 86.

もう泣きそうである.上手にサイドターンを決めていくのはもちろんウデなのだけれども,よく見るとサイドターン後半でアクセルを踏み,クルマを前に進ませている.L.S.D. が入っているのかと思ってそう聞いたら,ソレは入っていないけれども代わりにバネが 4kg/mm だという.そういう手法があるのは知っていたし,自分もそういうクルマに乗ってもいたのだけれど,ここまで有効に使いこなしているヒトは初めて見た.もっとも,見たことがないのは普通はそのレベルに到達すると L.S.D. を買ってしまうから,なのかもしれない.

フジサキ氏2本目:38秒 13.
フジサキ氏3本目:38秒 16.
フジサキ氏4本目:39秒 14.
フジサキ氏5本目:37秒 89.
フジサキ氏6本目:38秒 63.
フジサキ氏7本目:37秒 66.

いきなり 1秒以上差がついてしまった.ダメだ,これじゃぁ戦闘員レベルだ.

怒濤篇(午後の部)

午後のコース午後のコース図.やっぱりサイドターンは必須である.というか,この会場だとどうコース設定してもサイドターンの回数は多かろう.

1本目:47秒 86.後輪空気圧は下げたままなのに,サイドターン不発病が再発する.
2本目:47秒 67.不発病続く.

これ以上このまま走ってもどうにもならないと思ったので,賭に出ることにした.そもそも,これまでビートでジムカーナしたときには,屋根は開けていたのである.今回はつまらない色気を出して屋根を閉めて走っていたが,やっぱりこれがマズかったんじゃないだろうか.クルマの中央に重さが集中していると,クルマが回り出すのも早いだろうがそれを止めるのも簡単なはずである.クルマの端が重ければ,いったん回りだしたらそう簡単には止まらないだろう.

3本目:45秒 00.

屋根を開けたのが奏功して,サイドターンがバシバシ決まるようになった.やっぱり慣れないことするモンじゃないな.

4本目:46秒 61.
5本目:46秒 69.
6本目:46秒 94.

どうも最後の 360度のところでパイロンにつけずに,遠回りのサイドターンをしてしまっている.これじゃぁ 45秒ってのがフロックにしか見えないので,精神衛生上あまりよろしくない.ともかく,フジサキ氏の結果を待つことにする.

フジサキ氏1本目:46秒 31.
フジサキ氏2本目:44秒 84.

2本目にしてやられてしまった.ボク,もうおウチに帰りたい (T_T)

フジサキ氏3本目:44秒 96.
フジサキ氏4本目:45秒 67.
フジサキ氏5本目:45秒 36.
フジサキ氏6本目:46秒 55.

私と違ってタイムはフロックではないようである.トップタイム差だけを見ればどうにか下っ端怪人クラスといえなくもないが,平均取ったら,つまり,その… (T_T)

落日篇(まとめ)

そんなわけで,悪役な一日は終わった.

あまりにあっさりヤられてしまったので,勝負的にも物語的にもあまり盛り上がらなかったのは,実に申し訳ない(笑).しかも,フジサキ氏はあまりにイイ人なので,

なーんだ,Web でカッコイイこと書いてる割には大したこと無いですね

などとは絶対に言わないのである.むろん私とて,そう言って欲しいわけではない(笑).言ってほしいわけではないが,言われれば今ドキのプロレスみたいに遺恨戦で盛り上がる,かも.

しかし,この物語を盛り上げる方法は別にある.それは,読者のあなたがフジサキ氏に挑戦することである.あるいは,あなたの友人をけしかける…じゃなくて,教えて差し上げても良い.どちらにしても,JW2 トゥデイか,それを下回るスペックのクルマで挑戦する方が,話としては盛り上がるであろう.

その勝負の時は,是非私も呼んで下さい (見に行きます ^_^;;;;)

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