美しいライン取りとは?

走行会が終わっていつものように石下のココスで軽く食事をしていると, 目の前に座っていた山崎さんが「そういえば」と切り出した.

土屋さん, きれいなラインで走ってましたね.

山崎さん (Web site) は, 私が普通に話をしてもらえる範囲では最高のドライバーと言って良い. 愛車 FD3S (RX-7) は山崎さんのドライビングでクルマから UFO へと進化する. なんでも, ある走行会で山崎さんの運転を見たドリキン土屋圭市氏が,そのマ シンコントロールを称讃したこともあるとか. その山崎さんに「きれいなラ イン」と言ってもらえたのは, もちろん嬉しいことではある.

山崎さんに誉められたのは, これが二回目である. 一回目は白トゥデイ 550ccで 第一回の fj.rec.autos. meeting に出た時で, 確か「きれいに (クルマを) 回していましたね」という感じの評 価だったと思う. 当時私の意識は「非力なFF 車をコーナリングスピードをか せぐことで速く走らせる」というところにあり,そのためにアンダーとオーバー の使い分けをどうするか, という点に重点を置いて走っていた. だから, 山 崎さんの評価は単純に嬉しかった.

今回の課題もライン取りである. 白トゥデイがビートになったところで,エン ジンパワーが絶対的に不足している事には変わりはない. 問題はビートがMR (mid-ship rear drive) であることで, 免許をとって 15年, ずっと FF 車に 乗っていた私にとって, MR のライン取りは未知の領域である. 正直言って, グランツーリスモ (ゲーム) ではいつも NSX で苦労している. FR はテール スライドしても止められるけれど, MR のテールスライドを止めるのは大変な ことである.

ビートの場合, エンジンパワーが無いからアクセルだけでテールスライドに持 ち込むのはまず無理である (サーキット走行時). 慣性の力を借りれば可能で あることは 前回の走行会 の時にわかったけれど, それはつまり時速約 100km/h でアクセルをそーっと踏んでリアに荷重を渡し ながら 25R の右コーナーに突っ込んで行くということで, そこで 5ミリ余計 にアクセルを踏んだらクルマはたちまちスピンを始めて制御不能になるという ことである. ビートはオープンカーであり, ロールバーは後付けしているけ れどシートベルトは純正 3点式のままだから, スピンしながらコースアウト, そこで足 (タイヤ) をとられて裏返り, 人間が外にこぼれたら首の骨を折って 終了, である. もちろん必ずそうなるというものではなく, 実際前回も外に 飛び出して足をとられなかったことはあるけれど, 可能性があることは否定で きない.

だからここ度胸試しはしないことにする. 25R には 80km/h ぐらいまで減速 してから入れば何も問題はなくて, ただ遅いだけである (80km/h はマージン 取り過ぎのようにも思う). 度胸を試さないとすれば, ラインを工夫して 「寿命を縮めなくても済む速度」を上げていくしかない. ラインがへぼな 分を運転技術で取り返すのは, 見た目は派手で恰好は良いし, 本人の満足度 も高いだろうけれどあまりアタマは良さそうではないと思う.

純正足のクルマでラインを工夫していくと, 結局教科書通りに落ちつくものら しい. グリップの良いタイヤにきっちり堅めたサスペンション, それにそこ そこ力のあるエンジン (超大馬力は不可) の組み合わせだったら, ラインには いくつかバリエーションが考えられる. が, 普通のタイヤに純正サスペンショ ン, くそ重たいボディに非力なエンジンではラインは一種類しかなくて, それ はつまり教科書に書いてあるラインである. 純正足は反応が鈍いので急激な ラインの変更はできないし, 柔らかいから横Gが最小になるところしか通れな い. 非力なエンジンは一度減速したらそれがずっと後をひくから, コーナー リングスピードはとにかく高く保つ必要がある.

だから.

山崎さんに「ラインがきれい」と言われた私は, 「ありがとうございます」と 言ったあとこうつけ加えた.

でもこの場合, 他に通るところ無いんですよね.

山崎さんも, 何事かを察したように, 黙った.

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