たき火

僕が小さい頃、田舎のおばあちゃんの家では風呂を薪で沸かしていた。夏休みや冬休みに祖母の家に行くと、よく風呂の火の番をしたものだ。新聞紙に火をつけ、細い枝を燃やし、だんだんと太い薪に火が移っていくのを眺めているのは楽しかった。火遊びをすると叱られるが、風呂の番なら正々堂々とできる。20年くらいたって祖母の家に行ったら、もう風呂はガスで沸かすようになっていた。僕が薪のことを言うと、祖母は「あんたは火の番をするのが好きじゃったなあ」と言った。僕は誰でも火の番をするのが好きなんだと思っていたが、たくさんの従兄弟の中で、僕だけがそうだったのだ。

中学生の頃には、家の近くの海岸でよく焚き火をした。大きな石を拾ってきて風向きを考えながらカマドを作り、砂浜に流れ着いた草や木を集めて燃やすのだ。乾いた流木はよく燃えた。風の強い時にやらないこと、生木は燃やさないこと、プラスチックを燃やさないこと等、焚き火をするといろんなことを身体で覚える。風の強い時にやると火の粉が飛んで熱いし、生木を燃やすと煙が目にしみるし、プラスチックを燃やすと臭いうえにススが出て服が汚れるのだ。

焚き火は五感を刺激する。火の熱さ、炎の色、燃える木のはぜる音、煙の匂い、それらがいっぺんに感じられるのが焚き火のいいところである。火の様子をぼおっと見ていると、ゆっくりと確実に変化して飽きない。火が燃え広がるのに合わせて木を並べ替えたりしていると、知らないうちに時間が過ぎていく。

火は生き物のようである。火は刻々と形を変えながら熱を出す。そのために、燃料と酸素を供給する必要がある。人間もご飯を食べ酸素を呼吸することで温度を保っている。人間は何年も燃え続ける焚き火である。焚き火を見ていると腹が減る。焚き火をもっと楽しむためには何か食べ物を料理したい。そうすれば、焚き火によって五感の全てが満たされることになる。大人になってからは、時々炭火でバーベキューをするようになったが、やっぱり僕はいつも炭火の番をしている。