だんご3兄弟のひみつ

→ 音楽とは何か

「だんご3兄弟」の人気の原因を考えたんだけど、歌の文句も背景の漫画もシンプルというか簡単というか単純で無駄がない。無駄がないだけにかえって爆発的なヒットの明確な理由になるような要因も見えない。よく聴いてみると「だんご」の連呼が耳に残るが、それ以外にも「3兄弟、ならんで、長男、三男、自分、けんか、あんだんご」というように「ん」のつく言葉が多いことがわかる。言葉を意味で捉えていると、案外こういうことは気付かないものである。しかし、この曲を気に入った子供たちにとっては、歌は意味よりもまず音なんだろうと思う。ちなみに、この段落の最初の文も「にんきのげんいんをかんがえたんだけど」というように「ん」を多用してみました。

「ん」の付く言葉が多いといえばパフィーのデビュー曲「アジアの純真」(詞:井上陽水、曲:奥田民生)である。「ペキン、ベルリン、ダブリン」で始まり、その後も「気分、イレブン、イラン、アフガン、多分、香港」が並ぶ。題名からして「純真」である。この曲でも明らかに「ん」が付く単語が選ばれている。そして、単に「ん」を使うだけでなく、「ん」を前の音にくっつけるように歌ってメリハリがある。しかし、言葉数が多いとそんな細かいメリハリは埋もれてしまう。だから、「ん」の効果を生かすためには、歌詞の言葉数を極力少なくしなければならない。そういうわけで「アジアの純真」の歌詞はシンプルである。シンプル過ぎて単語の羅列になってしまった。「だんご3兄弟」も同じようなことが言える。「一番上は長男(です)」「今日は兄弟げんか(をしました)」というように文章を削ってしまい、いわゆる体言止めになっている。

「だんご3兄弟」と「アジアの純真」に共通する点がもう一つある。それは「歌い出しが半拍遅れる」ことだ。「*くしにささって」、「*ペキンベルリン」というように小節のアタマに8分休符(*)がある。小節のアタマというのは普通一番強いアクセントがある場所で、そこに休符を持ってくるとちょっと力を抜いてリラックスした感じになる。「だんご3兄弟」の場合はこれが徹底していて、連呼される「*だんご3兄弟」のところも「*今度生まれてくるときも」というBメロも半拍遅れである。一方、「アジアの純真」のBメロは一拍遅れである。「だんご3兄弟」も「アジアの純真」も、伴奏は拍子のオモテを強調しながら歌はウラから始まるという「はぐらかし」の技を使っているのである。そういえば「おじゃる丸」の主題歌「詠人」の歌い出しも半拍遅れている。

同じ半拍ずらすのでも、昔のヒット曲「黒猫のタンゴ」は半拍前倒しである。前倒しでは小節のアタマは休符にならずアクセントは逆に強調される。前倒しというのは、先を急いでいるのである。遅らせる方はのんびりと構えていること、つまり気楽さを表現している。「だんご3兄弟」の歌詞は気楽そのものだし、「アジアの純真」のパフィーの振りつけは脱力モノだった。「詠人」も「まったりまったり」の世界を歌っている。「黒猫のタンゴ」から30年経って時代のノリは変化し、「だんご3兄弟」はそれをうまく捉えたのだ。