資本主義の矛盾

我々の生活が経済活動で飽和してくると、それ以上経済活動を増やす余地が無くなるわけだから、経済成長はそこでおしまいである。経済が成長しない時代には、売上を増やして利益を出すのが難しいので、会社は人件費を減らして利益を出そうとする。人件費以外もいろいろな費用のコストダウンを追求するのだが、そうすると仕入先の会社の売上が減ることになって、結局よその会社の人件費を下げることになる。支出というのは、たどっていくと最終的に全て人件費なのだ。なぜなら、お金を受け取って働くのは人間だけだからである。

経済成長の無い定常的な社会では、会社が利益を出すために人件費が削られることになり、社会の大多数の人々の収入が減って格差社会になるというわけだ。多くの人々の収入が減っていく社会では、経済活動が活発になるわけがないので、ますます経済成長しにくくなる。

「売上が増えないのなら人件費を減らしてでも利益を出すのが株主に対する会社の責任だ」というのが資本主義の理屈だ。個々の会社としてはそうするのが合理的だとしても、多くの会社がそれをやると社会全体で見れば経済成長を妨げることになる。人件費を削って利益を出すというやり方は、資本主義の原則に忠実にやっているつもりでも、結果的に資本主義の首を締めているのである。

なぜそういう矛盾が生じるのかというと、経済成長が限界に達したのに、経済成長を必要とする資本主義システムが今までどおりに動き続けているからだ。何がなんでも利益を出せというのが資本主義システムである。利益の出ない収支トントンの会社であっても、社会の需要を満たして従業員の生活費が払えているわけだから存在意義があるのだが、資本主義の論理はそんな意義を認めない。利益を出さないと投資を続けてもらえくなって会社は潰れる。

この矛盾は簡単には解決しない。問題を解決するためには、経済成長には限界があることを認めなくてはならないが、今のところ「経済成長を続けるにはどうすれば良いか」という方向でしか議論されていない。

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