Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
「立ち姿」に見る川口の あるたくらみ


 小さなものを、実際の寸法よりも大きく見せるためには、一体どうすればいいのだろうか。
 さしずめ忍法には、そんな目の錯覚を誘い出すような忍術もあるに違いない。
 さて、この「目の錯覚」をどうサッカーに生かすか、これを今年のひとつのテーマに据えた選手がいる。
「小さいものを、より大きく見せるには、小さな構えから、一瞬にしてパッと弾くように動ければいいわけです。つまり、動きの可動械を広げることで相手に威圧感を与えることができるのではないでしょうか」
 F・マリノスのGK川口能活は、今季初戦となったプレシーズン・マッチ(0−1でレイソル)後、そんなふうに今年の抱負を説明してくれた。
 川口を評するときによく使われる「体が小さい」、つまりゴールキーパーにしては身長が低い(179センチ)という意味だが、この評価はあまり意味を持たない。
 例えば身長が高くとも、少しも威圧感のないキーパーもいれば、その逆もあるのではないか。
 相手に錯覚を起こさせるかのように、最小から最大へ体を転じるための重要なポイントは、「構え」である。
「小さく構えて、大きく動く」
 これが川口の、ゴールキーパーとしてのたくらみ、である。
 ゴール前で構える姿勢を、人団当初から見比べていくと違いが歴然とする。以前は、腰の位置が高い。その構えでは、ボールに飛びつく範囲も狭ければ、相手に威圧感を与えることもできない。
 それが、2年、3年と体を作り、代表GKとしてワールドカップを戦った昨年を経て、写真でもわかるように、重心が大幅に下がっていることが確認できる。低い重心での構えが安定すれば、当然のことながらスムーズに動くことが可能になり、シュートに対する連続動作の精度を増す。
「久々に見たが、構えが以前よりも大きくなったのではないか」
 レイソルとのプレシーズン・マッチで(14日、鹿児島)で最初にそう指摘したのは、何か月ぶりかで再会したマリオ前代表コーチ(現・レイソルGKコーチ)だった。
 ゴールキーパーは、極端に言えば「構え」だけで相子と戦わねばならない。ファインセーブの一歩手前にある静かな構えにこそ、彼らの意図や、鍛練のすべてが隠されている。
 たまにはボールを見ずに、彼らの立ち姿を凝視するのも悪くない。

(週刊サッカーマガジン・'99.3.10号より再録)

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