Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
遠い軸足が物語る 平野の強烈キックの秘密


 質問を浴びていた山口素弘と楢崎正剛が去り、呂比須ワグナーも帰った。
 冷え込んだ駐車場にポツンと残っていた車の持ち主は、クラブハウスでどん尻まで、トレーニングとケアに集中していたようだ。
「いろいろな発想で挑戦したい。もっと可能性を追求したい。まだまだ上手くなりたい。今年の目標をあげたらキリがないんだ」
 グランパスが今季最初の練習をスタートさせた1日、MF平野孝は最後にクラブハウスをあとにした。
 左足から繰り出される強烈なシュートには、独特の特徴がある。強烈だが、足の振り出しは小さい。いわゆるテイクバックが小さいにもかかわらず、シュートが速く豪快さと、相反する動作によって、観る者により強い印象を与えるシュートだ。
「流れる動作のなかで一点をつかむようにする。感覚としては走りながら蹴る、というくらいのシュートになるんだと思う」
 一般的なセオリーでは、立ち足がボールの横にくる。それを支柱にして利き足を振るわけだ。
 ボールの、どちかといえば後ろに立ち足を置く。グラウンドで試合を見ながらでもよくわかるのだが、一見するとかなり、ボールから遠い地点で軸を立てる。届きそうもない、それほどの地点である。なるべく詰めないようにするのだという。
 ポイントになるのは、正確な、しかも効率的な「体重移動」だ。体重はあまり前にのめらさずに打て、と基本的には言われるが、これもまた少し違う。体重をむしろ思いきり前にかけで、できるだけ後ろに残さずにボールを追う。左足からのシュートは、こんな逆転の発想から繰り出される。
 この「体重移動」に今李さらに磨きをかける。数々の五輪選手を手がけてきたトレーナーを、今オフ訪ねてみた。体重のかけ方、フォームの徹底解析など、ボールな蹴るだけでは気付かなかった新発見があった。
 同じジムに来た100メートル日本記録保持者・伊東浩司(富士通)と走る機会もあったそうだ。
「走り方、手足の使い方ひとつ、すべて効率とパワーを追求できる。彼と走ったら、すべてまったく違うんだ」
 さすがに伊東とは違って当然だが。
 初優勝を狙う名古屋で、密かに、しかし一番熱く現状突破にかけているのは、平野かもしれない。

(週刊サッカーマガジン・'99.2.24号より再録)

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