不況に負けるな!! 五輪への夢

    女子サッカー日本代表


「こんな愚問は失礼かと思ったのですが、小学生の子供が……」
 先週、ホームページに読者からこんな質問が届いた。何といっても弱いのは、この「小学生の子供が」という枕(まくら)ことばである。
 小学生の子供じゃ仕方ない、ビシっと答えてあげましょう、と余裕の笑みを浮かべてメールを読む。
「オリンピックがなぜ4年に1度なのか……」
 ナヌ? 余裕の笑みを浮かべている場合ではない。なぜ四年に一度かって? そんなことはいいから小学生は宿題をしなさい、と言いたいところだが。
 しかし指摘通り、五輪はなぜか4年に1回である。スポーツ選手にとって4年間というのは特別なサイクルであり、彼らの体の中に息づく、いわば体内時計の単位でもある。
 このサイクルで生きてみなければ、彼らの4年を本当の意味で実感するのは難しいだろう。一般の人間は何かあっても「4年後を目指します」などとは言わないはずだ。
 五輪各種目で、来年のシドニー五輪に向けての予選がスタートしている。世間が注目するのは五輪本番だが、選手には予選こそが勝負をかける場所である。
 男子に比べれば気の毒なほど小さな扱いではあるが、女子サッカー日本代表も、シドニー五輪出場権(上位7位が第1条件)をかけて6月、3度目となる世界選手権(米国)に挑む。
「確かに厳しい大会ですが、後戻りはできないんだと覚悟して行きます」
 5月30日の壮行試合(対韓国、1−1)後、エース沢穂希(さわ・ほまれ)は言った。
 日本女子サッカーは、世界選手権に連続出揚をし、第2回大会ではアトランタ五輪出場権を獲得している。本番では3敗に終わり、シドニーに雪辱をかけていた。
 しかし4年後を迎えようという時、予期せぬ敵がまず現れた。不況である。
 今年までで、女子リーグのうち実に4チームもが廃部されてしまった。そんな中で招集され、五輪を狙う彼女たちには、今回の勝敗が、女子サッカー自体の存続にかかわる、という強烈な危機感と使命感がある。
 廃部でサッカーを、五輪を、あきらめた仲間が大勢いる。ここで負ければ、企業はさらに撤退するかもしれない。次の4年は、決して約束された年月ではない。
 だから後戻りはできない。
 壮行試合では、ある選手は鼻骨骨折を押し、別の選手は切れた腕のじん帯をテーピングで補強し、彼女たちはそれでもボールを追っていた。しかも、悲そう感ではなく、凛(りん)とした強さをみなぎらせていた。
 4年の重みが、彼女たちの体の中に染みついているはずだ。
 彼女らにどうか力を!
 さて、古代ギリシャでは太陰暦を使用しており、重要な祭典はすべて8年に1度だったそうである。後に半分の4年になり、それが五輪にも当てはめられた、というのが「4年に1度」の通説である。
 しかし私が小学生に知ってほしいのは、なぜ4年かでなく、選手にとって4年とはどういうものか、そちらの方である。

(東京新聞・'99.6.1朝刊より再録)

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