6月28日(パリ・フランス)


 日本代表と同じ日、スイスのニヨンという湖畔の街に到着してからちょうど1か月になりました。この間、代表と遠征をし、毎日、それこそW杯の華やかさや、良く言われる「これが世界のサッカーだ」などというシーンにもお目にかかることなく、地味で、ともすれば退屈な練習取材に終始することになりました。
 たまには息抜きも、とアルゼンチンの合宿場に行き、アルゼンチン時間の朝の4時から、パサレラ監督の会見を生中継するために置かれた中継車の数に圧倒されました。「だれがこんな時間からパサレラの顔なんて…」と聞くと「番組の中に特番で入れるんだ」とスタッフに真剣に言われ唖然としました。
 キップのないサポーターはもちろん、アルゼンチン側にもあふれているわけです。でも彼らは泣かない、というよりそんなことは気にしてない。
 「買えればラッキーでいいよ。日本人ははじめてのW杯のくせに切符を買い占めたな」とジョーク混じりに笑って、合宿所の前にある広場でサッカーをやっていました。今回は米国大会のようには移動も費用がかかり過ぎるため、前回の6割くらいの動員ではないか、と言っていました。
 アルゼンチンの警備は厳しかった。会見でホテルに入ったものの、トイレさえも使わせない、トイレは3キロ先のガソリンスタンドだ、と言われ、ほかの国の記者と激怒したこともあります。 
 クロアチアの合宿場は、あの水で有名なビッテルにあるのですが、このビッテルという発音が全く通じない。道を聞くにもビッテル、といってもわからないから、水を飲む真似をしたら、本当にのどが乾いたかわいそうな日本人と思われたのか、水をもらい、ほかの記者と笑って道端にうずくまりました。
 ジャマイカの練習では、結局なにひとつ予定通りに行われず呆れました。呆れましたが、あれに負けたのだから、今となっては規律とは一体何か、と首を傾げざるを得ません(笑い)

 当初、ホームページでの速報については正直なところ、あまり重き置いてませんでした。速報というのはかなり面倒なもので。しかし、毎日増えるアクセス数とメールに励まされて、えらく大変な仕事に熱中してしまいました。
 みなさんには心からお礼を申し上げます。残念ながら、28日日本に戻ります。 一口に取材、と言ってもここでは移動に片道400キロを走ることもざらでしたので、時間もなく、原稿にも追われ、いただいたメールに返事を書くこともできませんでした。どうもすみませんでした。
 このHPでは誰を外せ、誰を入れろとか、岡田ではだめだ、とか、善戦ではだ
めとか日本はよくやった、とかやってないとか、そういうわかり切った、いわゆる「テレビ観戦的批判」略して「テレ判」をするつもりはまったくありませんでしたし、私自身そういう仕事には興味がありません。
 しかし、これだけの方にアクセスしていただき、「現地での情報が全然わからなかったのでうれしい」と指摘いただいたことは、代表の3敗による、トホホの落胆状態を、補ってあまりあるご褒美でした。本当にありがとうございます。日本に戻りましたら、スタッフと相談し、また新たな形で発信して行くつもりです。

 今回、日本代表は1勝もできずに帰国します。本当にこの1か月を思うと、「トホホホ」という気もします。しかし、練習と、ミーティングと試合だけを、地味に積み重ねた1か月に、私たちが到底知ることができないスポーツの事実というのもぎっしり詰まっていたのです。初めてW杯を取材した本当の楽しみはこれからかもしれません。
 次は「何が起きたのか」を取材し、面白い原稿にしたいと思っています。できるだけ多くの話しを、できるだけ深く、そしてできるだけフェアに取材して行きたいと思っています。

 とりあえずフランスからの「スタジアム実況中継」は終了します。みなさまの健康を、シャルルドゴール空港でお祈りして。

増島みどり

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