6月11日午前(エクスレバン・フランス)
どしゃぶり、気温15℃
練習メニュー:午前9時半から(GK練習のみ)


 GK練習が、またも激しい雨の中で行われ、主にクロスボールの処理と、跳ね返りのボールの処理に重点が置かれていた。
 これで2日連続の雨となり、さらにかなり気温が下がっているため、コンディションが心配される。しかし、川口は「気にはなりません。第一、トゥールーズも雨かもしれませんしね」と、気にはしていない様子。契約メーカーの担当者によれば、雨用のグローブも含めて用意してあるという。
 11日夜の会見では、ふと、「マリオの足が心配」ともらしていた。マリオGKコーチは、「3人のキーパーは必ず同じモチベーションにしておくことが大事。それが自分の仕事」と常に話し,シュート練習でも1人に100本以上は打つ。つまり一日、どんなに少なくても300本のシュートを「1人で」打っており、今回の遠征に出てからすでに4500本から5000本のシュートを打っている計算である。
 「足が痛いことはあるが、強靭な肉体のおかげで翌日には回復しているんだ」とマリオは言う。トレーナーによれば、アイシングなどもせず、ただ、消炎剤を服用するだけなのだそうだ。
 マリオ、本名ジョゼ・マリオ・ソアレス
ド・プラド。44歳。ブラジル・サンパウロ州出身。高校時代からパルメイラスのジュニアユースbに在籍し、ジュベントス、パウリスタなど名門クラブで活躍して来たGKでもある。日本にGKコーチという役割を浸透させる先駆者にもなった。
 川口には、清水商業時代からエジ―ニョというGKコーチがついていた。プロになったのと同時に横浜Mに移籍し、いわば川口にとっての「育ての親」となった。そのエジーニョが95年、マリノスが優勝した年、ついに半月板損傷で手術をまでひざを悪化させたことがある。
 「マリオのことも時々心配にはなります。でもシュート1本を大事に取って行こう、という気持ちはほかの国のキーパーには負けないと思う。アルゼンチン戦では、とにかく最初のボールタッチ(ファーストタッチ)を大事にすること。それがシュートでも、何でも必ず丁寧に最初のボールを触ること。今はそれだけ考えています」
 川口は今心身ともベストの状態だと自信をのぞかせている。さて、ブラジル戦を観戦したマリオコーチは、母国のサッカーをどう見たか。
 「タファレル(GK)は非常に頭がいいし、落ち着いていた。開幕をあれだけ普通にやる、というのは並みのGKにはできない。W杯最初の試合というのは、ブラジルでも日本でもアルゼンチンでも同じ。川口にはそれを話してやろうと思っている」
 選手は午後2時半からの練習を最後に、12日昼リヨンからトゥールーズに出発する。

「小野コーチ会見から」

 小野コーチが11日昼会見に応じ「選手は落ち着いている。岡田監督とこの半年練ってきた、相手の良さを奪い、自分たちのよさを最大限に発揮するそういうサッカーは十分にできる」と、出発前に自信をのぞかせた。開幕戦となったブラジル、スコットランド戦にも触れ「自分たちと似たような対戦だった。参考になることは2、3あったし取り入れるが、内容は言えません」と笑った。記者は基本的に小野コーチの話しを聞くことを楽しみにしているが、たいてい、「それは言えませんよ」と口にチャックをされてしまう。何とか口を割らせたいところだ。

6月11日午後(エクスレバン・フランス)
どしゃぶり後晴れ狐の嫁入り、気温13℃
練習メニュー(午後2時半から):体操→非公開でセットプレー
監督によれば、プレッシャーの中でのプレーでも意識統一できるように、狭い自陣の中でのボール回しとのこと。


「先発決定、ペップトークは?」

 エクスレバンで行われる最後の練習は、非公開の中静かに終了したようだ。
 練習後岡田監督は「アルゼンチン戦のスタメンはもう固めました。後は(体力的に)抑えるだけです。試合当日、パっと解き放つようにするだけ」と、熱い口調で話した。
 監督はスイス入りしてからの第一の課題は「3バックをどこまでこなせるか」だったとし、「ここまでよくこなせるようになったと思う。たいしたものだ」と、途中、4バックのオプションを使うかどうか迷ったこともあった、と告白していた。
 そして、選手をピッチに送り出すときの言葉について、「何をいうかは決めています。ちっとは、かっこいいことも言うつもりです」とニヤリ。選手に試合直前にかけるゲキを、アメリカのスポーツなどでは「ペップトーク」と呼ぶ。アメリカンフットボールでは多用される言葉で、たとえば、オフト元代表監督が、日韓戦を前に、ロッカールームで、韓国のメンバー表をひきちぎり、「こんなものは忘れて、目の前の敵だけを潰せ」とゲキを飛ばした話などが有名である。最終的に選手を鼓舞するには必要な監督能力の手腕のひとつで、岡田監督、最後にどんなゲキを飛ばしてくれるのか、早く聞いてみたいところだ。

「井原テープ取る」

 いずれにしても、これでアルゼンチン戦を前にした戦術的な練習はすべて終えたことになる。井原も「本当に大丈夫」と動きには自信を取り戻したようで、練習後、締め切りの扉が開いた際には、2日以来初めてテープを取って(練習中はしていた模様)引き上げていた。ただ単に「汚くなったから取った」と話していたが、それでも、テーピングのない井原の足が力強く見えた。かばったり、使わないことで、トップ選手の筋肉はあっという間に落ちてしまうが、井原の太ももには変化がなく、期間中、水面下で、いかにほかの筋肉を落とさぬようにトレーニングを続けていたかうかがえる。開幕戦については、「開始直後のセットプレー(ブラジルFK)は本当に参考になった。ああいう失点だけは絶対に許してはならない」と肝に銘じているようだった。

「サッカーは頭脳のスポーツ」

 FW陣では監督に「中軸の選手」と自ら使命された城が、ここに来て調子を上げている。サウナウエアで、汗を出し、水を飲むという「前園直伝」の調整方法が成功したというが、やはり大きいのは歯の影響ではないか。
 こちらに来てからの悪化に備えて、城は日本で抜歯をしていた。こちらに来てからしばらくは顔が少し腫れ、何よりも、サッカー選手に大切な、踏ん張り、力をこめる際の「歯のかみ合わせ」がうまく行ってなかったように思う。
 現役時代の王貞治氏がシーズン中には歯の治療はしない、と言っていたのは、有名な話し。城もこれで、歯を「くいしばって」力強いシュートを打つことができるはずだ。
 アルゼンチンのバティストゥータは元ラグビーのジュニア代表選手。彼に代表されるまでもなくアルゼンチンは体力的にタフである。その辺りの恐怖感などを179センチ、72キロの城はどう考えているのか。
 「核心をつく問題ですね。なぜかと言うと、いつもそのことを考えてるからです。でも最近わかったのは、サッカーは頭脳の競技だってことですね。スピードスピードってみなさん言いますが、これは、何も走るスピードとかパスのスピードではない。頭の中のスピードなんです。つまり、瞬時に全員がすばやく意思統一して動く、そういうスピード。だからアルゼンチンのことは怖くないし、日本人の体のことを言っても、何の意味もない」
 アルゼンチンは恐らく、ボールを持たせる前にかなり厳しいプレッシャーをかけてくる。厳しいというより、汚い、というべきか。城、中山が、これにどう対処するか、カメラには映らないシーンになるかもしれない。しかし2人がどう戦うか、それを見たい。

「ユニホームも戦闘態勢」

 日本代表のユニホームが9日無事届けられ、移動を前にした11日には、最終的にどのユニホームを持って行くのか、準備が忙しくなった。トゥールーズの14日の天気は(11日現在)23度、曇り、微風になった。しかし、地中海と、ピレネー山脈両方をもつ県だけに気象予報が当らない地域で有名だそうだ。
 エキップメント(用具係)によれば、半袖、長袖両方を持ち、飛行機便と車輸送便と両方にわけるそうだ。また青白白、(シャツ、パンツ、ソックス)のコンビネーションにも万が一に備えてすべての組み合わせが可能なように準備して行く。この組み合わせでの試合はまだない。新しい歴史は、どんな1ページで始まるのか。

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