6月5日(エクスレバン・フランス)


 日本代表は5日、W杯期間中の本拠地となるフランス・エクスレバンにバスで移動し、午後には、現地での初練習を行った。
 この日は、エクスレバンから近いリヨンで合宿を行っているアルゼンチンの報道陣も詰めかけ、岡田武史監督、中田英寿(平塚)へのインタビューを行うなど、14日の初戦を控えた緊張感が漂い始めた。この日の気温は33度、湿度も70%近く、むし暑い気候だったが、フィジカルコーチのフラビオ氏は「ここまで3つのステージでコンディションを考えてきている。1の御殿場、2のニヨン、とほぼ予定通りのしあがりだった。ここでは100に限りなく近い状態にしてアルゼンチンから1か月を維持したい」と、調整には自信を見せていた。

 アルゼンチンの新聞、ラジオ、テレビ局が練習後、日本の報道陣よりも早く岡田監督をつかまえ、質問を浴びせた。監督は英語での受け答えに応じ、「アルゼンチンは選手個々の能力が技術でもフィジカルでも大きく上回っている。しかしベストを尽くしたい」とし、これまでチームとしてあげて来た目標の1勝1敗1分けについても基本の目標としながらも、「難しいとは思うが、2分け1勝をも狙っている」とさらに攻撃的な姿勢をのぞかせた。

 ここに来て国内では、カズ、北澤に対する同情的な意見、さらに、指揮官として失格「非礼なやり方」などといった「向かい風」が吹き始めているという。
 しかし、国内とここではかなりの「温度差」があるのも事実だろう。誰かが欠けることはカズであっても、誰であっても確かに非常に寂しいことである。しかし、選手に動揺がある、という意見には大きな疑問はある。現地で取材する限り、動揺どころか、自分が22人に残ったこと、次に試合に出るということ、この2点に集中していることが痛いほど分かるからだ。
 今回の25人から22人枠への削減方法は、実は今回の代表国の中では主流の手法である。10以上の国がこの手段で6月2日を前に選手をカットし、22人で最初から登録した国とほぼ同数になる。岡田監督は「監督とは」という質問に一環して「人を切ること」を話してきた。「ぼくの決断が選手を傷つけ、家族を傷つけ、周りを巻き込んでしまう。それがつらいし嫌になる」と、4月のアルゼンチン戦視察(ダブリン)でも聞いている。
 「全員がプロとして自分も3人に入るかもしれない、という覚悟で戦ってきて、落ちた人に、かわいそうです、などと言うのは、それこそ非礼ではないでしょうか」
 5日、日本での騒ぎを耳にした若手選手が毅然とそう言っていた。カズがどういう態度をとっても、北澤や川崎の関係者が何を言っても、全く問題ではなく、それぞれの立場がありそれは自由なずだ。しかし、現場は前に進むだけ。終わったこと、居なくなった人をあれこれ考える余裕など、少しもない。
 岡田監督は監督の仕事をし、選手がどうなるか、それを考えていないはずはない。そして「責任を取るのはすべて自分」という。ほかに何が足りないのか、現場で選手を見ている限りは思いつかない。

 中田がアルゼンチン記者の強烈な「プレス」を受けた。この日は4社10人ものアルゼンチン記者が練習に訪れ、中田にもインタビューを行った。もっとも質問は、「なぜ金髪なのか」と、彼の嫌う、「つまらない質問」もあったようだが。
 それでも「中田はもっとも注目されている選手。パサレラも要注意と言っていた」と証言。練習後中田は、「体は大丈夫。特にフランス、だからということはないよ」と、笑顔を見せていた。

 スイスから移動してもっとも変化したのは、警備だ。
 フランス入りしてからは、CFO(組織委員会)の警備管理下におかれ、日本にもマークさんという私服のフランス警察警備担当が24時間で帯同する。ダブルのスーツに、ピンクのワイシャツと、一見おしゃれなフランス人とだけ見てしまいそうだが、実際には、拳銃が腰に下げられていた。このほかに5人の警備担当者が常時つくことになり、こんなところに本番への緊張感が漂っている。

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