4月17日


ボストンマラソン2日前
(ボストン、米マサチューセッツ州)

 3年ぶりのレースを2日前に控えた有森裕子(32歳=リクルートRC、自己最高=2時間28分01秒)は、17日早朝から、最後の調整となる軽いジョギング練習に入り、ハーバード大学に向かう川沿いのコースを約1時間走った。この日から、レース用のシューズも新しくおろし、万全の点検を行うなど少しずつ緊張の度合いも高まっているようだ。
 また、17日午後には、岡山から両親も駆けつけ、リクルートから重役を含む大応援団が復帰戦を全面支援する。

「ここに来られてうれしい」

 16日には、アトランタでもメダル争いをしたロバ(エチオピア)ら招待選手の会見も行われ、有森も出席した。「ここ(ボストン)に来られて幸せだと思う。3番でも2番でもそれはそれで、自分にとってはひとつの収穫です」と挨拶をし、後は、会見に同行したガブリエル氏も記者からの質問にリラックスした様子で答えるなど、32歳での復帰戦には、どこか穏やかな雰囲気が漂っていたようだ。
 それにしても、アトランタ五輪から3年たって、ボストンのスタートラインに立つとは、女子ランナーの隆盛を見てきただけに、これだけでも大変なことではある。
 1か月前には、ボルダーでの練習中坂道で転倒し、追い込みの大事な時期に丸々1週間練習を休むことになってしまった。ランナーには、最悪のアクシデントのひとつである。
 17日早朝練習に同行した。久々に会った有森の左目、こめかみ部分には大きな痛々しい「アザ」が今も残っており、「結構真面目に転んだんだ」と聞くと、「もうマジもマジでした、瞬間お岩さん状態」と苦笑していた。
 ボルダーの3月は気温もまだマイナス5〜10度にもなる。そういう中での練習だったために、転倒の瞬間、ガードすべき手がスムーズに出ずに、ひじが地面にかすって、そのまま左顔面から転倒。顔もひどいはれ方で、結局、左肩、左ひざも打撲と、アクシデント、というよりも怪我と表現したほうがいいくらいだったそうだ。
 マラソンランナーにとって大会前の大事な時期での様々なアクシデントは、いわば「通過儀式」とまで言われる。恐怖心や、不安、緊張が何か別の形で表に出ることも多く、急な発熱だったり、原因不明の足痛だったり、有森のような転倒、であったりもする。
 しかし、有森によれば、今回は「ただでさえ、未知の部分ばかりなのに、あの時期の1週間の休みについては答えがない」と、スタートラインまでも引っ張る「検討課題」を残したという。
 過去には有森だけでなく、多くのランナーがアクシデントを「幸運」にかえてきた。もっとも重要な時期での転倒、休養、けがといったものがどんな形で影響をするのか、2度の五輪とメダルを手にしたベテランにとっても、初めての体験である。
 有森はそれを、「不安でもあり、しかし、なにかうれしくもある」とスタートを心待ちにしている。
 難コースだが、今朝の調子、話しぶりからは、2時間30分を切ることは可能だと見えた。

「ディフェンディングチャンピオン」

 ファッツマ・ロバ(27歳=エチオピア、自己最高=2時間23分21秒)は、昨年は2時間23分21秒、おととしは2時間26分23秒で、2年連続優勝を果たしている。
「今年は、調子も非常に良いし、YUKO(有森のこと)と走るのも楽しみ」と会見では話していた。このマラソンを主催するジョン・ハンコック保険では、選手とユニークな、まさに保険的発想の契約を結んでいる。
 変動の激しい招待選手の奪い合いだが、ここでは5年、6年、或いはロバは2000年まで、というように契約を結んでしまう。もしも怪我などで出場できない場合には、市民ランナーへのランニング教室、サイン会、スポンサーとの懇親会などで仕事をしてもらう、という方法で、長い期間、選手にとっての「目標大会」となるやり方である。
 103回目を迎える伝統のレースは、一方では最新式の契約方法を取り入れながら、選手と質の確保をしているといえる。

「17日の朝刊から……」

 こちらの今朝の朝刊では、16日の会見の中から記事が作られている。
 なかでもボストンヘラルド紙というダブロイドでは、「日本のスター(有森)、ライジング、サン、イン、ボストン」と長い記事を掲載。日本ではマイケル・ジョーダン並みの人気もので(誰がこんなことを教えるのか??)、結婚しても非常に騒がれる。
 この中で「ボルダ―での生活はとても静かで、この3年自分を見つめることができた」という、米国移住者としての有森のコメントも掲載され、ガブリエル氏も「彼女がボルダ―で望んだのは、静かな環境と自立すること。ぼくはそれをサポートしたいと思った」と紹介されていた。
 今回、ガブリエル氏も同行しており、有森にとっては精神安定剤の役目を果たしてくれているようだ。

☆Special Column☆

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