2003年12月10日

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サッカー

サッカー東アジア選手権
日本×韓国
(横浜国際総合競技場)
天候:晴れ、観衆:62,633人、19時16分キックオフ

日本 韓国
0 前半 0 前半 0 0
後半 0 後半 0
 
 
 

 日本代表にとって今年最後の試合は、初タイトルをかけ、最大のライバル韓国との決戦となった。すでに総得点差で負けていたために(日本は2試合終わって3点、韓国は4点)、引き分けではタイトルを手にできない日本は、香港戦で決定機を外し続けた大久保嘉人(C大阪)にゴールの期待を託して試合をスタートさせた。しかし、前半15分、大久保はまず反スポーツ行為で警告を受け、直後の18分にはエリア内でDFに足をかけられたために転倒。これが攻撃側の反則となる「シミュレーション」と判定され2枚目の警告を受けて退場となった。序盤で早くも数的不利を背負った日本は、3バックのまま韓国に7本ものシュートを浴びたが前半を凌ぎ、後半、DF中澤佑二(横浜FM)に変えて本山雅志(鹿島)、ボランチを2枚から1枚に変えるため福西崇史(磐田)と藤田俊哉(ユトレヒト)を交代し、中盤でボールを配給する小笠原満男(鹿島)とのコンビネーションからゴールの奪取にかかった。
 小笠原が孤立せずに藤田、本山とつなぐことで、久保竜彦(横浜FM)が高い位置に戻り、再三のチャンスを作る。後半25分過ぎには、本山がミドルシュートを放って勢いを生み、ここから猛攻が始まる。3分後、小笠原のCKからゴール前の混戦から久保が頭で合わせたが、これがポストに当たり、跳ね返ったボールに宮本恒靖(G大阪)が飛び込んだがこれも入らず、またも1点が奪えない。この後も久保が、左足でロングシュートを放つがこれもゴールからそれ、ロスタイムの3分間にも実に3本のシュートを放ったが結局無得点のまま。数的優位を持った戦いに、逆に慎重になってしまった韓国のミスもあり試合は0−0で、勝ち点でともに7と並びながら、香港戦20本のシュートを打ちながらPKによるわずかに1点に終わった詰めの甘さがタイトルを取りこぼす結果となった。
 終了間際には藤田が韓国選手の治療のために一度出したボールが、日本のスローインからスタートするなど、シンガポールのナガリンガム主審らの混乱もあった。ジーコ監督は「表彰は選手のもの」と理由を説明したが、表彰式には出なかった。

韓国/コエリョ監督「このタイトルは、選手、私自身、チーム、韓国協会にとっての『自信』となるものだ。今日の後半、最後は特に日本の攻撃が激しさを増した。正直、無得点では物足りない、という声もあるだろう。しかし何より重要なのは、我々が、この東アジアの初代のチャンピオンになったことだ。3戦を通じ、その栄光にふさわしい戦いをしたことを確信する」

ジーコ監督「これはFIFAに抗議をしたい。自分もFWとしてこれだけ長い間プレーをして、本当にエリア内に入った瞬間、ちょっとしたことでバランスを崩すものなのだ。それを転倒するとすべてがシミュレーションというのでは選手はやっていられない。また後半の(藤田が出したボールから、なぜかサントスがスローインし、そのままスタートした)ミスも、冷静ならやり直しをさせなくてはいけない。もちろん、負けた理由はこれらではなく、あれだけのシュートを外したからだ。つまりあと1点が入っていれば今笑っていたのだ。予選ではこういうことがあってはならない」

サッカー協会/川淵キャプテン「うーん。勝てるような気がしたんだが……。マリノスの(優勝が決定した試合)ように、1人少なくなると動きが活発になって、逆に相手はスローになる。最後の15分には何度もチャンスがあった。1人少ない中で、そういう期待を持たせた、ということは良かったということと考えたい。何とか勝ちたいという気持ちはよく伝わったし、久保のああした思い切りのいいシュート、プレーは評価に値する。
(大久保について)ノーコメントだ。試合後、本人に『ちゃんと(やったことが)わかっているんだろうな』、と聞いたら、わかっています、と言っていたが、本当にわかっているんだろうか。こういうことを続けることが、いかにチームにとってマイナスか。問題であるし、このまま代表でいることもおかしいと思わないでもない。こういう経験を通じて、そこから再起を促したい。(ジーコの1年は)60点というところだろうか、かろうじて合格点ではあるが、65点は行っていない。今日は10人でそれなりの戦いができたこと、これを次につなげて欲しい。(課題として)マイボールになった時のつなぎが丁寧すぎて、相手に読まれていることに気が付いて欲しい。僕らは(ドイツ人の)クラマーさんに教わった時代、『きみたちのパスは電報パスだ』と怒られた。相手に、ここにパスしますよ、とまるで電報を打ってからパスをしている(読まれている)ということで、これを今は『ホスピタル・パス』と呼ぶそうだが、今日の代表は明らかに電報パスだった。結局は香港の時に取れなかった1点がこういう結果になった。ドーハの悲劇だって前の試合で決めていれば(W杯に)行けたんです。だからこういう経験を生かしていくしかない。
 審判の判定には一切文句を言うなとしている信条は曲げたくない。主審は高く評価されている審判だが、それがかえって、シミュレーションを取ろうといったシビアな笛になった面はあるかもしれない」


「顔をあげろ、1.5倍走れ」

 大久保の退場は、ジーコ監督の、チームメイトの、平日にもかかわらず6万人もがかけつけたサポーターの、すべての期待や希望といったものを一瞬にして奪うものとなった。しかし香港戦で何本ものシュートを外した大久保に対して、「韓国戦こそ、大久保のゴールで勝つのだ」と、誰よりも大久保に信頼を置き、チャンスを与えたはずのジーコ監督はそれでも落胆せず、彼をなじることさえなかった。それどころか、ライン際まで大久保を出迎え、頭をぽんとなでながら、一瞬、何か声をかけた。

 大久保は試合後、ミックスゾーンで答えた。
「ジーコ監督には、顔をあげろ、と(言われた)。ロッカーでは勝ってくれ、勝ってくれ、とそればかり考えていた。(シミュレーションは)イエローではないと思った。今大会は、リーグとは違って、どんな判定でも絶対に何も言わないと決めていた。文句は一度も言わなかった。残念です。(アジアのヤングプレーヤー賞について)とても嬉しい。チームに戻って頑張って、またやり直す」

 今大会、大久保がもし1本でも香港戦で決めていれば、韓国戦のわずか15分で退場することがなければ、と欠点と敗因ばかりを考えたくはなる。短気な欠点を、最悪の格好で、これほどの舞台で披露してしまったことは残念だが、不思議なのは、こういう試合で、逆に残った10人は、普段はなかなかクローズアップされて見ることのできないような長所を、存分に発揮していたのではないか。
「あの時間に退場になってしまって、やるべきことがどれほど多いかひとつずつ頭の中で整理して実行するしかなかった」と、宮本は振り返っていたが、数的不利の中、最悪の状況の中、3バック、4バックのフレキシブルな対応を見せる。

 後半になって投入されたサブである本山の勇気や藤田の知恵、久保の大胆さや、小笠原の闘志、楢崎の冷静、こうした部分が最大限に発揮されていたことは間違いない。監督は「最後の最後までバランスを崩さず、あれだけのチャンスを作った。選手のプレーには本当に感謝する。確かにタイトルは取れなかったが、ではこれが敗北かといえばそうは思っていない」と話し、大久保についても「彼ほどの才能を、今後(もう使わないという選択で)台無しにするつもりはない」と断言した。

 この日、代表はもっとも苦しい劣勢に追い込まる非常時の中で、チームの「忍耐力」の数値を、それは想像よりも高いものだったが、それを十分に示すことはできた。そのことは高く評価できる。
 一方では、監督も「タイトルを取れなかったのは、審判の判定のためではなく、あれだけのシュートを外した当然の報い」と、シビアな判断をする。流れの中での形を作っておきながら、自滅、詰めの甘さは、予選では、相手国やアウェーの環境以上の敵となる。

 後半、監督は「後半は、普段の動きに加えて1.5倍走ってくれ」と選手に要求したという。監督就任以来、初めて10人となった非常事態で、顔を上げ、1.5倍走りきったことは、ドイツにつながる何かだったと思いたい。初めて経験した10人での試合が、大久保が受けたのとは違った意味でシミュレーションになったと思いたい。でなければ、3試合で43本も放ったシュートが、切り開いた局面が、ただのまぐれに終わってしまう。



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