優勝戦線に踏みとどまる暫定2位(勝ち点26)となった横浜Mの柳想鐵は、「3連勝? それよりも、1試合ごとに、どんどんいい状態になっていることが嬉しい。いよいよ後2つ。大事なのは集中力で、その差で優勝が決まるだろう」と話し、緊迫感溢れる状況にもなぜか楽しそうに、実に軽快な雰囲気で取材に答えた。
これで、チームに柳が合流したリーグ再開以後一度も負けず、アウェーで4得点を上げるなど、マリノスは1万メートル競争のラスト1周の鐘が鳴った途端、集団からするすると抜け出し、絶好のポジションをキープしているかのような状態に見える。
巧妙なラストスパートの仕掛け人は、もちろん柳である。
洪、黄、柳らのサポート役として長年通訳を務めている高橋氏によれば、「緊迫していればしているほど、そこに優勝がかかっていればなおのこと、彼は楽しい、こんな贅沢な時間はないよ、と話しています。彼は日ごろの練習から本当に視野が広く、選手それぞれやチームの色々な状況を見て、貢献しようとしている」という。
以前在籍したとはいえ、考えてみれば「前とはまるで選手が違っている」と、柳さえ苦笑するチームの大一番に、これだけスムーズに溶け込んでしまうことは驚きではないか。
「前線のターゲットが増えるだけではなくて、バランスが非常によくなっている。コンビネーションも問題がない。優勝うんぬんというよりも、今のこの良いサッカーをずっと続けたい気持ちだ」
セットプレーで3点、唯一の流れの中での得点をあげた遠藤は試合後、残り400メートルに突入する心境をそんな風に表現した。
「以前とは選手が違うが、率直に言って以前よりレベルアップをしている。かつてならば失点してしまうと逆転が難しかったチームが、今ではそれをひっくり返すだけの力を持っている」
柳は、岡田監督率いる新チームを評価する。
集中力のレベルの高さも見せた。
この試合、前半と後半で1度ずつ、柳は「怪我」で時計を止めた。合計すれば約3分になる。1点目の直後と、自らが得点する直前。ともにC大阪がリズムを持ってボールを回している最中である。C大阪は、柳の2度の「怪我」に対して「フェアプレー」で応じ、2度ともボールを外に出して、治療の時間を与えている。C大阪の流れは分断され、マリノスは助かった。
柳の言う「集中力」とは、一点にかけるエネルギーを差す集中力では全くない。むしろ、ピッチのあちこちで何が起きているのか、起ころうとしているのか、いかに視野や気配り「分散」させるか、正反対の意識にかかっているのだと、体で示したプレーだった。
思えば、C大阪と争い、「奇跡の大逆転」といわれた2000年1stステージの逆転Vの時(当時はアルディレス監督)にも、この人が……。