2003年7月12日

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サッカー

女子サッカーW杯2003プレーオフ
2ndレグ
日本×メキシコ
(東京・国立競技場)
キックオフ:15時4分、観衆:12,743人
天候:晴れのち曇り、気温:30.6度、湿度:64%

日本 メキシコ
2
ボール支配率:
52.6%
前半 0 前半 0 0
ボール支配率:
47.4%
後半 2 後半 0
56分:澤 穂希
83分:丸山桂里奈
 

 第1回から(91年、12位)3回連続出場を果たしてきた女子サッカー日本代表が、プレーオフ2戦目となるホーム・国立競技場でメキシコを迎え撃った。
 前半は、64%の湿度の中で疲れも出たのか動きが硬く、170センチ以上の選手を4人もそろえるメキシコの空中戦に神経を使い、またゴール前最大のピンチをMF山本がクリアして凌ぐなど耐えて0-0で折りかえし、出場決定の最悪の条件である1−1(アウェー2点があるため)にはかなり楽な形とした。
 後半11分、米国女子プロリーグのアトランタで活躍する澤穂希(さわ・ほまれ)ヘディングで先制点を奪って加勢、その後も後半に交代した丸山の追加点で2-0とメキシコを圧倒し、W杯4大会連続出場を果たした。

 5日にメキシコ・アステカスタジアムで行われた第一戦は、2,200メートルの高地で、観客が9万人というアウェーの不利の中で行われながら、2-2と引き分けで帰国。アジア予選で韓国に敗れ出場圏内の3位を確保できずに回ったプレーオフで、見事な粘りを発揮し出場権を手中にした。
 女子は過去、2回大会で準々決勝に進出してアトランタ五輪出場権も獲得。前回大会は予選で落ちており、今回はグループリーグ突破を目指す。

 この日は、女子のゲームながら女子としては異例の1万2,743人ものファンが「代表」に声援を送り、就任以来、女子サッカーの強化、普及を男子同様のレベルにと方針を掲げてきたサッカー協会・川淵三郎キャプテンはこうした盛り上がりをファンに感謝するとともに、女子選手の踏ん張りに対して、ボーナスを一人30万円出すことをロッカーで発表。
 女子サッカーの認知、発展、強化にとっても極めて重要な一戦となり、またイラク戦争、SARSによる遠征、親善試合の相次ぐ中止、コンフェデレーションズ杯の予選落ち、と、暗かった協会に久々の明るい話題となった。
 大会は、9月20日から10月12日まで、出場16か国で、フィラデルフィア、ワシントンD.C.、ポートランド、フォックスボロ、コロンバス、カーソンの6都市で行われる。

試合データ
日本   メキシコ
16 シュート 11
12 GK 14
4 CK 3
14 直接FK 20
2 間接FK 3
0 PK 0
日本女子代表/上田監督「うれしい。出場を果たしたことと同時に、厳しい戦いでさらに強くなれることがまたうれしい。日本の持ち味である、隙を見せずに戦ったことが良かったと思うし、選手の姿勢が素晴らしかった。そして、協会のサポートがあったことをありがたく思っている。本番ではベスト8を目指す」

主将・DF大部由美「ほっとしています。ここまで長かった。年齢と経験でしかサポートできませんでしたが、若い選手たちには逆サポートされることばかりだった。これからが、(W杯への)始まりです」

MF澤 穂希「うれしいです。応援してくださったみなさんに本当にお礼が言いたい。ものすごい力いなりました。今日は点を入れることを自分の目標としていた。W杯に出たのですから満点だと思う。本番ではまずは1勝をしたい」 ※澤は現在シーズン中のために、13日には日本から米国に戻り、そのままアトランタの遠征先であるフィラデルフィアで試合に臨む。

日本サッカー協会/川淵キャプテン「試合後、みんなは偉い、こうなる(国立でいい試合をして感動を与えてもらうような)ことを計算してタイでわざわざ負けて来たんだろう、と褒めたんだ。だって、あそこで勝っても(メディアに)扱ってもらえないからね。
 今日は、まあ5,000人も入ればいいかな、という感じで予想していたんだが、これだけのサッカーファンに足を運んでもらったことに感謝しているし、当日でも4,000枚も売れたなんて、女子サッカー有史以来のことだろう。みなさんにも女子サッカーのおもしろさ、良さをわかっていただける、その機会を作ることができた。
 理事会では20万と話していたんだが、彼女たちのひたむきさに、30万、と言ったら、ロッカーがものすごい歓声で『給料2か月分だ』って言うんだ。このくらいの金額でこんなに喜んでもらえるなんて。今後は女子でも男子と同じようにボーナスの支給など、今、制度を整えているところだ。本番は予選を突破してもらいたいし、そのためには、ジュニアユース、ユース(男子)といったチームとの試合、あるいはJリーグの前座を組むなど、可能な限りの強化策をとって行く。
(女子への感動、ねぎらい話が続いた後、上田監督へのねぎらいは? という質問が出て、突然口調が変わって)ん? 男に何を言うの? おめでとう、ご苦労さん、それも言ったかな(笑)。
 とにかくファンのみなさんにはもう一度お礼を言いたい。選手はものすごく勇気づけらたに違いない」


「1分間の綱引き」

 サッカーでは、もっといえばあらゆるスポーツにおいて試合を分けるのは、コンフェデレーションズ杯以後聞き続けた「1本のミス」だけではない。試合の流れという、あっちに行ったり、こっちに行ったり、実に厄介な綱を、ぐっと自分たちに引き寄せてそのまま相手に尻餅をつかせるには、さまざまな要素がピッチのあちこちに転がっていることを、感性とトレーニングによって発見しなくてはならないのだろう。

 この日、綱引きの中心点がまだ両者の中間にあった後半開始直後、澤は得点と同じく重要な「仕事」をしている。
 後半9分、ハーフの左サイド側、澤が繊細なボールコントロールでようやく出したパスをメキシコに奪われた。このとき、自陣の選手がほとんど中盤に残っていなかったこともあり、サイドからメキシコのカウンターを受けそうになる、嫌な取られ方でもあった。澤はこのボールを奪い返すために、かなりの距離を、ボールをめがけて思い切りスライディングをして行き、審判はイエローを出した。この日、日本の女子はみな「体を張った」、ボールだけをめがけて決してスパイクの裏を見せない正当なタックルをかけて行っており、澤のそれも同じだったが、警告が出た。

 実はその数十秒前、つまり同じ「1分間」に、メキシコのFWモラがイエローを受けた。日本ボールのスローインを妨げる、明らかな妨害行為であり、自らのプレーへのイラ立ちと、仲間へのイラ立ち、その両方を浮き彫りにするものだった。

 2人に共通していたのは、ともに「エース」と呼ばれる、攻撃のキープレーヤーであったこと、ほぼマンツーマンに近い、激しいマークを受け続けていたこと、何よりも「10番」をつけていたことである。おもしろいことに、攻撃の、2人の「10番」がイエローを受けた2分後、澤が先制点を奪った。

 澤は試合後、「今日はとても落ち着いて試合を運べたと思う。自分へのマークがマンツーマンであまりにもタイトだったので、スペースをあけて何とかそこで仲間にチャンスを作ってもらおうと動いた。あの場面では、奪われた場所と、布陣がよくなかった。あのくらいの時間から相手のイラ立ちが大きくなっていくのを感じていたので、とにかく最後まで冷静に、と自分とチームに対して思っていました」と、振り返った。

 瀬戸際でもぎ取った出場権や女性の踏ん張りは、ともすれば、「よくやった」「感動的」といった評価で終わらされてしまいがちである。しかし、エース同士が受けた1分間でのイエロー、日本の女子がそれを寸時に解釈して加勢をしようとした「感性」に、彼女たちの粘りや、91年以来築いてきたOGたちの歴史や教訓といったひとつの「品質」の輝きがあった。

 第1回から出場してきた(3回大会は不出場)大部は、その澤の先制点に大喜びする攻撃陣に対して、大声で「早く戻れ!」と何度も叫び、DFには体勢を整えさせ、綱の中心がわずかに動いた瞬間に、力を込めた。
「後半になれば相手は湿度と厚さでへばってくると思っていた。出場ももちろんだが、アウェーで2度追いつかれた反省、課題には答えを出せたと思う」と、涙から一転、落ち着いて話し、7月22日から行われる(仙台)「3ケ国対抗」について聞かれてこういった。

「絶対に叩きたい相手でもある。韓国にはこの前(アジア選手権)のお返しをしたいし、オーストラリアにもガツンと勝っておく」
 女子アスリートの気持ちの強さは、競技の魅力の大きな要素である。

 試合後、全員が自分の重い荷物を引きずりながら、個人所有の車でもバスでもなく、徒歩で、打ち上げ会場に集合するため地下鉄大江戸線の「国立競技場駅」に向かった。
 W杯という大仕事をやり遂げた彼女たちが荷物を持って向かった、ささやかな「打ち上げ会場」は、新宿のビルにある居酒屋である。



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