2003年6月11日

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サッカー

KIRIN WORKD CHALLENGE
キリンカップサッカー2003 - Go for 2006 -
日本×パラグアイ
(埼玉スタジアム2002)

キックオフ:19時22分、観衆:59,891人
天候:曇のち雨、気温:21.5度、湿度:74%
芝:全面良芝(表面:乾燥)

日本 パラグアイ
0
ボール支配率:
54.6%
前半 0 前半 0 0
ボール支配率:
45.4%
後半 0 後半 0

 
 

 8日のアルゼンチン戦で1−4と完敗した日本代表は、MFで主将の中田英寿(パルマ)と、GK楢崎正剛(名古屋)2人を残して先発9人を入れ替えるというショック療法で、キリン杯2試合目となるパラグアイ戦を迎え、コンフェデレーションズ杯へ立ち直りのきっかけを求めた。前半、日本はFWで新たな先発メンバーに入った大久保嘉人(C大阪)が、前線で中田からのボールを受け、攻撃の形を生む。
 前半6分、中田が左サイドから高原直泰(ハンブルガーSV)へ。高原がドリブルで突破し、中央へ折り返し、中村俊輔(レッジーナ)がゴール正面で決定的なシュートチャンスを得る。左足でこれを狙ったが、GK正面で阻まれ、日本は惜しい先制点を逃す。
 集合を2日ずらして万全の体制をとるとした高原とコンビを組んだ大久保は、前線で、相手DFと常に競り合い、25分にはコーナーから一人で相手DF2人を背負ってエリア内へ。ここからコーナーキックをものにし、このボールにヘディングで競うなど、先週の親善試合でポルトガルを完封しているパラグアイDF、ダシルバ、カサレスといった壁に気迫を見せた。
 また35分には、中村が切り替えしからミドルシュートを放つが、結局、エリア内でのシュートを打たせてもらえず、0−0で終了。

試合データ
日本   パラグアイ
6 シュート 7
14 GK 8
7 CK 3
28 直接FK 32
3 間接FK 3
0 PK 0
 後半、日本は腰痛から復帰したばかりの福西崇史(磐田)を中田浩二(鹿島)に代えて、中盤での押し上げをさらに強化する。前半から落ち着いた攻守のポイントとなっていた遠藤保仁(G大阪)の効果的なポジショニング、中田英寿の展開力で、後半開始後も日本ペースで試合が進む。
 5分過ぎ、中村が左サイドからDF3人を抜くスルーパスを三都主アレサンドロ(清水)に。三都主が切り込んでこれを右足でシュート、しかしゴール右をそれて、前半同様、またも決定的なチャンスを逃してしまう。
 また、36分、大久保がゴールを決めたかに見えたがこれはオフサイドとなり、ノーゴール。これでパラグアイの堅守に最後までゴールを奪うことが出来なかったが、大きくメンバーを変えた結果、新しい選手の起用方法には新たな目処が立つ収穫も得たゲームとなった。
 ジーコを監督に迎えてから代表は、これで7試合で1勝3敗3分。13日にコンフェデレーションズカップに向けて出発する。

 ◆試合後のコメント

ジーコ監督「非常によかった。アルゼンチン戦の敗戦から大きく変えたメンバーは、100%ではないにしてもそれぞれが随所で個性を発揮してくれた。(GK)楢崎がひやりとしたのは、1本だけだったはずだ。まだ修正しなくてはならない点が多くあるが、これで満足してコンフェデレーションズ杯に乗り込むことができる。
 三都主は、今後も左をやる可能性がある。いいクロスもあげていたし、宮本との守備の連携もまずまずだった。大久保は、若いながら非常に頭のいい賢いプレーをする。誰と組ませても、自分の個性を発揮するし、今日も及第点を与えていいのではないか。コンフェデに関しては、まずは予選リーグを突破すること、初戦に勝つことから始まる。それができて、新たな目標が定まってくると思う」

中田英寿(パルマ)「(試合後のテレビインタビューに答えて)ぜひとも出発前に勝ちたかった試合、0−0ではダメだった。前回よりも修正できたところはあった。今日は相手が守りの強いチームだったので、(攻撃の形を作ることは)難しかった。大切なことは、焦らず、無理をせずチャンスを作ることで、今後はラストパスとシュートの精度を上げていかなくてはならない。今日は何よりも、いいところでボールを取れていたのがよかった。カウンターのチームに対して、4バックは対応できていたと思う。コンフェデに向かって、修正をしていければいいし、アルゼンチン戦よりいい戦いができていた。
(中村とのコンビネーションについて)僕が下がっても意味がない。俊が下がってボールを受けてくれる。今日は引いて守るチームだったので、FWとMFがもっとポジションを入れ替わっていかなくてはならなかったが、それぞれ2人でのワンツーなどできていたし、あれに3〜4人絡むことで向上の余地はある。9人が交代する試合で、スピリットも多少なりとも出てきた面はある。
(大久保について)嘉人は、前に出る動きとスピードがあり、ポジショニングがよく、やりやすいといえばやりやすい。ここまで時間がなかったので、これから少しずつやっていければいい。
(声出しは)徐々によくなってはいるが、まだ足りない」

中村俊輔(レッジーナ)「(怪我について)テーピングをしていても、ひねる動きをすると痛いが、監督にもいけるところまでいけと言われた。最近試合に出ていないので、今日は90分出て、チームに迷惑をかけないようにしたが、体力面ではよかった。ヒデさんとは、あまり下がり過ぎないように、ヒデさんが少し上にあがってポジションを取るように、試合前にも、お互いのよさを生かすということより、まず消さないようにしようと話していた。攻撃の形が作れたことは、今までになくよかった。特に(ボランチの)遠藤は頭がよく、ダイレクトで欲しいときにいいパスを送ってくれていた。コンフェデに向けて、フィジカルでもいい状態で臨めるようにしたい」

坪井慶介(浦和)「勝てなかったことが残念。ただ、DFとしては完封することが大きな目標になるので、相手を0点に抑えられたことは満足ができる。先発で初めての出場となったが、自分をアピールできるいいチャンスだから、と特別緊張はなかった。浦和では3バックなので、今日は4バックでマンツーマンをしながら、少しマークを外すのが早かったかもしれない。宮本さんが声をかけてくれたことで、落ち着いてプレーができたと思う。埼玉でこうした初めての経験ができて、まずは一試合、前進できた」

高原直泰(ハンブルガーSV)「ずっと試合に出ていなくて、今日までできることはやったがまだ100%ではない。今日の90分で次にはつながったと思う。コンディションはまだよくはないが、できる限りの準備をしてコンフェデに臨むつもりでいる。今日の相手は引いていたので、FWとして2人で動きを止めないように心がけ、スペースを作ってヒデを(前に)引き出すような動きをした。大久保は、一緒にやっていてもおもしろいと思うし、(オフサイドの場面は)試合中からずっとフォアを狙って動いていたからできたことだった」

三都主アレサンドロ(清水)「勝てなくて悔しい。左サイドはやっていなかったが、今日のような動きができるという自信は持てたし、90分、楽しく試合ができた。今日はアルゼンチン戦と違って、非常にバランスがよかったし、ボランチのカバーがいろいろと効果的だったと思う」

大久保嘉人(C大阪)「(オフサイドの場面は)ドンピシャだったんで、オフサイドとは違うだろ、と思った。今日の先発でも、キープもできたし、タカさん(高原)との動きも初めての割にはまずまず、先発のほうが自分の流れをつかめるので、やりやすいことはやりやすい。韓国戦では50点と言ったが、今日は50点よりは上。キープもワンツーもできたので。でも今からです。もっともっと、自分がどれだけできるのかコンフェデで試してみたいし、今のままでも(チームは)十分通用する」

遠藤保仁(G大阪)「落ち着いて、余裕を持ってプレーすることができた。中盤でのプレシャーがあまりなかったので、俊輔、ヒデにも比較的いいボールを供給できた。これだけメンバーが変わることはなかったし、まさか自分が出るとは思わなかったけれど、満足はしないが、自分の仕事はできたと思う。守備に関して、監督から、アレックスを(前に)出したときカバーリングをしっかりすること、相手のFW7番(クエバス)をマークすることを言われただけだった。ここまで準備はしっかりとすれば必ずチャンスが来ると思っていたし、チームのムードは、アルゼンチンの後は多少沈んだかもしれませんが、暗くはなかったですし、今日もいいムードになった。コンフェデもいい準備をしたい」


「柳葉魚=シシャモ」

 前半14分、ハーフラインよりも後方右から、中田英寿が右足で、左サイドのオープンスペースに向かって超ロングパスを送った。中田のパスの落下点に、素早い動きでスタートダッシュを切っていた大久保が追いつく。逆サイドに向かってこれほど長く、しかもスピードに乗ったパスが展開した瞬間を観て、久しぶりに思い出したことがある。大久保が走ったコースも、中田が出したパスの軌跡も違うが、ああいう形でFWが長距離を突っ走り、ロングパスの落下点にぴしゃりと合ったのに、98年のW杯、日本がクロアチアと対戦し、中山が中田から受けたボールをさばいた時を思い起こさせる。14分の2人のランとパスには、あの時と似たようなスピード感、スリル、そして安定感があった。
 MFにしてみれば、相手に対しても、何よりも味方FWに対して「取ってくれるかどうか」をチャレンジするパスであるし、FWにとっては、MFとの信頼だけを支えに、ただの徒労に終えるかもしれない長距離を駆け抜けなくてはならない厳しいプレーだ。
 中田と大久保のこのプレーが成功したことは、アルゼンチン戦で、中田と秋田のパスが最初にミスしたのと対照的に、日本の攻守に「流れ」を強く寄せるきっかけとなるものだった。
 アルゼンチン戦から9人を交代させた「ショック療法」の、中田が試合後話していた「スピリット」を、21歳の、土壇場でチャンスをつかんだFWが、懸命に表現しようと踏ん張っていたシーンではないか。

 大久保は、福島でキリン杯の合宿がスタートした最初の紅白戦で、ほとんど何もせずに終わってしまった。
「やっぱり最初の頃は遠慮してしまって、声も出なかったし、プレーでもアピールできなかった。でもだんだん慣れてきて、だいぶ声を出せるようにもなったし、すんなりと入っていけるようになってきた」
 パラグアイDFをよほど本気にさせたのだろう。試合後、両目尻にひっかき傷のような腫れを見せて、大久保は言った。
 キリン杯の合宿が始まったときには、「あくまでも五輪チームで力を発揮して欲しい。最終予選が来年になったことで召集した」と、ジーコ監督にとっても「構想外」にいた選手が、わずか2週間で、これほど変身してしまう。
 もっとも、変身などと呼ぶのは本人に失礼で、今の大久保の勢い、ある種の飢えを支えて来た「部分」は、少しも変わっていないのかもしれない。

「ししゃも」である。
 国見高校サッカー部OBの皆さんなら、なーんだ、と笑うだろう。国見高校では、もっとも厳しい練習に、なぜか「ししゃも」と名付けられたトレーニングがある。かつて小嶺監督を取材した際に教えてもらったが、確か、急な勾配の上り坂を、繰り返しダッシュするメニューで、ふくらはぎの筋肉が、その練習によって「ししゃもの腹」みたいに膨れてしまうからなのか、大久保がこの日説明してくれたように、「ししゃもの腹みたいにくねくねしてる坂だから」なのか、不明だが、とにかくとんでもない練習があるんだそうだ。

──それで大久保君、ししゃもは?
 ミックスゾーンの取材で、話しては歩き、歩いてはまた止まり、それを何度も何度も繰り返していた大久保に、最後に聞いてみた。
 大久保は、え? ししゃも、とちょっと驚いて、そしてリラックスした笑顔になって説明してくれた。

「いやー、ししゃもは全然ダメでした。地獄のししゃもでしたが、本当に地獄よりひどいですよ。限界ってああいう感じか、っていつも思ってましたから」

 小嶺監督、いや校長の叱咤が聞こえてきそうだが、この日の大久保の動きや、必死で伝えようとしていたハートには、無茶苦茶で、理不尽な方法で、しかし徹底的に、本当の意味で自分を追い込んだ経験のある者だけが持っている、強さや輝きがあった。
 単なる小手先の上手さではない、何かという点で。

 前回のアルゼンチン戦でも先発してコテンパンにされ、わずか中2日でこの日、あの嫌な流れを断ち切ろうと果敢に90分戦った中田、楢崎のクオリティは言うまでもないが、今日の「ルーキー」で、大久保に比して地味ながら高く評価しなくてはならないのは、ボランチに入った遠藤だ。
 大久保とはちょっと違い、文字通り、柳の葉のようにしなやかで柔軟性を持った動き、という意味において、遠藤もまた「ししゃも」の働きをした。
 この試合、中盤をボックス型にしたことで、ボールがいったん定まる位置が生まれ、攻撃にも一呼吸おける場が生まれたといえる。中でも遠藤は、この日、ほとんどパスミスをしていない。手元で数えていた限りでは、中田へのミスが1本あっただけだろう。中村は「遠藤のボランチが素晴らしかった。頭がいいので、ダイレクトでもらいたい時にはダイレクトで出てくるし、本当にやりやすかった」と絶賛している。派手なプレーではないが、誰からのパスでも、誰へのパスでも、丁寧にさばいた遠藤の柔軟が、ジーコ監督の大きな収穫となったことは間違いない。

「チャンスは必ず来ると思っていた」
 遠藤は言う。
「韓国戦、アルゼンチン戦とベンチから見ていて、ロングボールが多いな、もっと1タッチ、2タッチでシンプルにさばいて、できるだけミスをしないほうを選べばさらにいいのに、と思っていました。ポジションには役割がありますから、僕の場合は、ミスをしないこと、リスクを負わないこと、それに尽きますから」
 試合に出ない間も、シンプルにさばくこと、しっかりとカバーリングをすること、何よりもミスを絶対に犯さない自分というのを、遠藤がどれほど強く、正確にイメージに描き続けていたかが、これほどまで鮮明に分かる。準備とは何か、遠藤はこの試合でそれを伝えていた。

 代表は13日に出発し、サンドニでニュージーランドと、サンテティエンヌでフランス、コロンビアと戦う。欧州での公式戦(親善試合を除く)は、98年フランスW杯以来、丸5年ぶりのことである。
 なお、福西は右大腿部の痛み、山田は右足関節捻挫でそれぞれ検査を受けることになった。



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