2003年1月2日

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陸上

第79回東京箱根間往復大学駅伝競走
往路
(東京・大手町〜神奈川・箱根 芦の湖畔)
出場20チーム、往路:5区間、107.2キロ
天候:2.7度、湿度:53%、風:北西4.8m
(=午前8時スタート地点の気象)

■第79回箱根駅伝 往路 成績
順位 大学名 記録 トップとの差
1位 山梨学院大学 05:31:06
2位 駒澤大学 05:32:45 00:01:39
3位 日本大学 05:34:19 00:03:13
4位 大東文化大学 05:35:40 00:04:34
5位 東海大学 05:36:16 00:05:10
6位 日本体育大学 05:36:21 00:05:15
7位 順天堂大学 05:37:12 00:06:06
8位 神奈川大学 05:37:49 00:06:43
9位 東洋大学 05:38:28 00:07:22
10位 早稲田大学 05:38:50 00:07:44
11位 中央学院大学 05:38:53 00:07:47
12位 中央大学 05:39:37 00:08:31
13位 國學院大学 05:39:45 00:08:39
14位 拓殖大学 05:39:56 00:08:50
15位 帝京大学 05:40:56 00:09:50
関東学連選抜 05:41:33 00:10:27
16位 亜細亜大学 05:42:34 00:11:28
17位 関東学院大学 05:42:59 00:11:53
18位 法政大学 05:47:09 00:16:03
19位 専修大学 05:49:13 00:18:07
は区間新記録。
※関東学連選抜チームはオープン参加のため、順位、記録は参考値。ただし、個人の区間記録は有効。
 参加が15校から20校(1チームは関東学連選抜)に増えた箱根駅伝は、1区は牽制のし合いからペースがあがらないままスロースタートとなった。

 1区は、混戦の中、伊勢駅伝を制している優勝候補の駒澤大学・内田直将がトップに立ち、2位神奈川大学が8秒差、シーズンスタートの出雲駅伝で優勝し箱根で巻き返しを狙う山梨学院大学も15秒差の3位と順調な滑り出しをする。
 エースが揃う最長区間の2区に入って、順位が大きく変動する。2区に入ってすぐに、先頭を走る駒大・松下龍治に、山梨学院大・モカンバが追いつき、6キロ手前では10位だった日本大学・清水将也、7キロ手前で1区9位の中央大学がそれぞれトップ集団に入って4人でのデッドヒートが続く。15キロ過ぎには、前半ハイペースで追いかけた日大・清水が脱落。3人の集団は残り1キロになって、過去5区の山上りで区間記録を作るなど実績を残してきた中大のエース藤原正和がスパートして分断される。松下も、モカンバも、このスピードについて行くことができず、1時間7分31秒の区間賞で、中大がトップに立つ。

 2区では、1区19位だった順天堂大学の中川拓郎が、29年ぶりに「ごぼう抜き」記録を更新する15人抜き(選抜チームはオープンのため14校)で4位まで順位をあげる健闘を見せた。

 3区では、中大、駒大、山梨学大と実力校3校が絞られ、中大がトップを守り、駒大、山梨学大がこれを追う形で往路優勝を争う展開となった。4区3キロ過ぎ、山梨学大・カリウキが中大を20秒差まで捉え、6キロ過ぎ、山梨学大がついに首位を奪った。4区16ロ過ぎには、この区間を5位でスタートした日大・藤井周一が駒大の塩川雄也を捉えて3位、さらに18キロ過ぎには中大・池永和樹を抜いて日大が2位まで順位をあげて山梨学大を追撃する。

 4区山上りの起点となる風祭中継所は、山梨学大・カリウキが2位日大を1分29秒離す区間では歴代2番目となる好記録でトップ通過。2位は日大、3位中大は1分49秒、駒大も1分57秒離されて、山で追う苦しいレースとなった。

 山梨学大・森本直人、日大・吉岡 怜ともに1年生という「ルーキー対決」と見られた5区では、8キロ手前で、早い地点で中大を抜いた駒大・田中宏樹が日大を抜いて2位に浮上。トップは森本が区間4位の安定した走りで守って、山学はそのまま5時間31分6秒の大会往路新記録で、94年以来9年ぶり3度目となる往路優勝を果たした。2位は5時間32分45秒(往路新)で駒大が復路、総合優勝に望みをつないだ。3位日大、4位は大東文化大学、5位にはこの日の往路で唯一の区間新記録をマークする快走を見せた中井祥太の踏ん張りで、東海大学が5位に入った。

 復路は3日午前8時に出発、2位以下はそれぞれ往路のタイム差でスタートする。駒大は逆転、山梨学大は8年ぶりの総合優勝を狙う。

■第79回箱根駅伝 往路 区間賞
区間 選手名 大学名 記録
1区 大手町〜鶴見
=21.3km
内田直将 駒澤大学 01:04:36
2区 鶴見〜戸塚 
=23.0km
藤原正和 中央大学 01:07:31
3区 戸塚〜平塚 
=21.3km
山岡雅義 國學院大学 01:03:25
4区 平塚〜小田原
=20.9km
カリウキ 山梨学院大学 01:01:32
5区 小田原〜箱根
=20.7km
中井祥太 東海大学 01:11:29
は区間新記録。


「災い転じて……」

 かつてケニア旋風で箱根駅伝の歴史を塗り替えた山梨学院大学が3年連続で9位という低迷から、ようやく往路の優勝にこぎつけた。
 今年は、この日4区で、4区歴代2位となる区間賞をもぎとったカリウキ、2区のモカンバ、1区橋ノ口滝一、3区高見澤 勝と、メンバーをズラリと往路に揃えて、先手必勝を狙ったほぼ計算通りであろう。大学駅伝のシーズン開幕戦となる出雲駅伝で優勝を果たし、箱根も筆頭候補にあがっていただけに、悪循環をようやく絶った形となった。

「また嫌な流れになるのだろうか、とちょっとした不安もありましたが」
 上田監督は振り返る。95年正月、往路、復路で2位となり3年連続での総合優勝を果たし、ついに最強の黄金時代へ、ともてはやされた。もちろん、監督や選手の自惚れなどなかったが、翌年、往路4区で中村が途中棄権、山梨学院がそこまで乗ってきた「流れ」が大きく変ることになってしまった。その後も底力を発揮して上位に食い込むものの、99年の総合6位から今年まで3年連続で9位と低迷を続けていた。

「私自身、これまでやってきたことを信じるという気持ちと、これまでと同じでいいのか、という迷いと両方について考える時期でもあった」と監督は話す。
 真剣に、生真面目に取り組めば取り組むほど、結果を出そうと集中すればするほど、何故か「ツボ」にはまってしまう。そんな皮肉はスポーツではよく起きるが、山学がはまったのも、そうした悪循環だったようだ。

 監督は、ちょっとしたハプニングが流れを変えるための一役を買ってくれたと笑う。一昨年から練習グランドを新設しようとしたが、そこから何と遺跡が発掘されてしまった。こうなると、公的な資産扱いになるために、杭1本立てるのにもすべて甲府市の認可が必要になってしまう。2002年中には何とかグラウンドを、と計画しており、苦し紛れに、「ならば歴史を探索する目的で、遺跡めぐりのコースを作ってもらい、そこを走れば」と計画を大幅に変更することになった。

 しかし名より実をとった作戦が成功し計画が動き出す。昨秋新たに誕生したのは、計画していた専門トラックとは全く違う、一周約800メートル強のクロスカントリーに似たコースだった。
「それがなかなか良いもので、さまざまな練習に使えるんです。距離などもちょっと半端な880メートルですから、発想を自由に色々な練習ができるようになった」と監督は説明する。山梨で駅伝を、と始めたころ、もっと楽しんでいたような気分も取り戻したようだったとも。

 勉強家の上田監督は、強化費がパアになりかけた「災い」が、何か違った流れを呼ぶきっかけになった、むしろ、「福」となるようにアイディアを働かせて転機をつかんだようだ。選手も当然、新たな発想にリフレッシュをする。かつての伝統を知らない世代は、出雲のたすきを使って優勝のゲンをかついだ程度で、昔のものは切り離して臨んだ往路だった。

 今年は、出場が19校(1校は選抜)となり、駅伝のみならず学生長距離全体を活性化する意味で箱根の予選会に、関東インカレの成績とエントリー数(標準記録を突破した人数)を組み合わせて評価点を設けるなど、大きな変革をした年でもある。
 さらに、監督車を復活させハーフで監督が声をかけられるようにし、給水も入る。総論、各論ともに行なった変更が、改革か何ももたらさないか、判断はまだつかない。しかし、1区の走りには疑問というより不満が残る。スタートしてからのペースは全くあがることなく、3キロで「9分27秒」。絶好のコンディション、正月、大学生イベント、といった勢いや前向きな姿勢とは違う、極めて慎重に100`以上先の勝負を計算し尽くした上でのスロースタートは、まるでマラソン並み。かつて箱根駅伝には、「スタートからガツンと」といった、無茶で山っ気たっぷりかもしれないが、どこかユーモアや大らかさが漂う部分があった。結局は1区の終わり、2区の手前になって全員がスピードアップをする展開で決着がつく。
 大学スポーツでありながら、こうした「山っ気」や、言ってみれば楽しいデタラメが箱根から年々失われていく傾向にあるように思えて残念だ。

 一方では、5区でたすきを10位で受けた東海大が終わってみれば、1年生の、しかも山上りの区間新記録で5位に入っているような「痛快」なハプニングもあった。レースの隊列が中継車や関係車両のために伸びており、トップ争いを当然重視すれば、NHKラジオも、日本テレビでも、身長162センチの19歳が颯爽と山を駆け上がる姿をアップで捉えることはできない。東海大の関係者によれば、唯一、抜こうという姿が入ろうかという瞬間、CMに変ったそうで、みなずっこけてしまったそうだ。解説陣も音では追撃していると聞いていても、ついぞ走る姿は確認せず、といったおかしなことになったと笑っていた。

 計画がハプニングで大幅に狂い、その中から別の発想とアイディアで生んだグランドが、山梨の再生を助けたとすれば、こうした大らかさやユーモアが学生スポーツのシンボルとされる箱根駅伝にもっともっとあってもいいのではないか。スポーツで選手が見せてくれる本当のユーモアとは、不真面目に笑いごろげることではないはずだから。



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