2003年1月3日

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陸上

第79回東京箱根間往復大学駅伝競走
復路
(神奈川・箱根 芦の湖畔〜東京・大手町)
出場20チーム、往路:5区間、109.2キロ

 往路で9年ぶりの優勝を果たした山梨学院の後ろを、候補筆頭の駒大が1分39秒差で追う格好でスタートした復路は、1985年以来となる雪の影響によって波乱含みの展開が予想された。早ければ6区で追いつくと思われた駒大は、雪のために慎重に滑りだしたために、先頭を行く山学に逆にわずかながら差を広げられてしまう。7区でも、落ち着いた走りによって先頭を守る山学・岩永暁如に対して、なかなか差をつめることができず、逆に大きくあけられ、山学逃げ切りかといった雰囲気が漂う。しかし8区に入ったところで、ようやく駒大の逆襲がスタート。2年の太田貴之が、区間賞をもぎとる1時間5分40秒と好走をみせ、山学・北原英一に約1分の差をつけて総合での差も1分を詰めて迫る。残り2区間にはもっとも力のある選手を揃え、駒大は9区に入って島村清孝が山学の清家健を15km過ぎに捉えてついにトップに立った。ラスト10区、アンカーの北浦政史は箱根の記録では極めて珍しい、ゴール地点まで振り続く雪の悪条件をはねのけ、1時間9分54秒と区間新記録を樹立してゴールへ。復路、総合での新記録はならなかったが、駒大が、2年連続の優勝を果たし、箱根の歴史の中でも10校目となる連覇と新しい歴史に1歩踏み出すことになった。
 また、今年から10校がシード権を与えられることになったボーダーライン上では、最終区まで激しい争いが繰り広げられた。9区まで繰り上げスタートがないという、底上げされたレベルで迎えた最終区、10時間3分、4分、5分台での9区通過に、順大、東海、東洋、神大、日体大、拓殖、中央学院がひしめきアンカー勝負となる。東洋、日体大が抜け出し、中央学院大は、魚崎裕司が区間3位となる力走を見せ、逆に神大は町野英也が区間20位の大ブレーキを起こしてしまい10位を譲って逆転された。
 2日間で区間新記録は5区と10区、繰り上げスタートなしという結果に、参加20校については来年も前向きに検討されることになる。


「たすきが凍っていた」

 この日、箱根のスタートが氷点下となり、本来ならば山を下れば下るほど、また都心に近づけば近づくほど気温が上昇するはずの箱根駅伝の様子がまったく違っていた。山を下りてからも気温は上がらず、それどころか風を向かいで受けるために体感気温がみるみる下がっていく。
 駒大のアンカー北浦は思わぬハプニングに鶴見中継所で戸惑っていたという。まずは塗ると多少は皮膚温度があがる「ホットクリーム」を腕と背中、脚に塗りこむ。アップはいつもよりも15分ほど多めにこなして体温を高める。そして、「これほど寒いのでTシャツで行ってもいいぞ」と言われたとき、ふと考えた。
「寒いからこそ気合いを入れてきっちり走ろうと思って……。ですからランニングで行きます、と答えて気合いを入れたんです」
 しかし、たすきを受け取った瞬間、気合いどころか現実に目が覚めた。湿っていると思ったたすきが冷たくて一瞬手がひるんだ。
「たすきが凍っているんです。普段なら汗でびっしょりでなんとなくなま暖かいんですが、それが冷え切って手袋の上から凍っている感じなんです。これほど寒いなんてなんてことだ、と思いました。同時に、ああ、雪の箱根からここまでつながれてきたんだと言い聞かせることができました」
 ブレーキさえしなければ、とそれほど積極的ではなかったはずの北浦は、「冷え」になぜか加速する。アンカーなら無理をする必要もなければ、雪で路面が滑る危険もある。後方との4分30秒以上の差を思えば、さらに安全運転できたはずが、北浦はスピードを緩めなかった。
「心意気っていうのを見せてくれました。ああやって前向きに、攻めて行く姿勢は、来年からのチームには大きな財産になるでしょう。チームとして勝つが、一方では個人としての冒険もして欲しい。そういう駅伝をうちは目指したい」
 大八木助監督は連覇達成後、アンカーの区間新記録を褒め称えたが、往路と比較しても、気象条件が悪い中で駒大は積極的に攻めていった。6、7区が思わしい結果で逆転できなくとも、8、9、10区で区間賞を3連続して逆転。北浦の走りは、前日の往路で、中継で注目されることなく、ひっそり区間新記録をマークし関係者を驚かせた中井祥太(東海大1年)同様、「意外な力を引き出してしまう」駅伝の面白さを教えてくれた。
 大八木助監督は「箱根で終わって欲しくはない。冒険やリスクを負ってさらに上を目指してこそ、世界舞台がある」と話す。テレビ人気のために、一度いい走りをすれば周囲がちやほやする。助監督も「それを抑えて目標を見誤らないようにすることが大変だったんです」と苦笑していたが、箱根で満足してもしてなくとも、20kmの走りっぷりは、どの選手も、どの学校も最大の課題にしていい。

 シード権獲得校の争いでは、昨年、一昨年と不出場だった東洋大の躍進が新風を吹き込んだ。
 東洋は今年から、シドニー五輪男子マラソン代表で旭化成で第一人者として活躍した川嶋伸次が監督に就任。往路、復路でも山登りの大崩れをのぞけば、上位3位に躍進できるだけの実力を存分にアピールすることになった。
「学生はみな純粋で、僕もそれにすごく教えられた。お金とか、地位とかじゃなくて、純粋に走ろうとする。ですから、今後も僕が強くするのではなくて、彼らが本当の意味で強くなりたいと願う、そういう土壌を作れればと思ってます」
 雪が降り続くゴール地点で川嶋は落ち着いた表情で話していた。シドニーでは男子マラソンが惨敗。「今の強化では限界がある」と、唇をかみながら後続の2人を待っていた姿が印象的である。大学監督就任は、自らのマラソンへの、長距離への情熱を呼び起こすことにつながったようだ。OBによれば、今夏新築された合宿所に行くと、これまでも規則、規律正しいはずだった合宿所に、ゴミもない、洗面台に水さえ飛んでいない、整頓された様子に驚いたという。
 また、大学の授業に1限目から出るようにと、朝練習の時間を繰り上げた。ささいな変化だけが歴史を変える。

 参加校が増加する中でレベルダウンが案じられたが、結果は、上位のレベルは横ばいながら繰り上げスタートなしは大きな収穫となった。80回を迎える来年に残るは課題は、関東インカレの参加、記録のリンク制、学連選抜(参考記録となるがタイムなら16位)の是非、そして、個人プレーでありながらチームプレー、団体競技でありながら個人競技といった駅伝の面白さ、強さをどうアピールするか、「駅伝観」とでもいった各校の理念の確立になるだろう。

■第79回箱根駅伝 復路 成績
順位 大学名 記録 トップとの差
1位 駒澤大学 05:31:02
2位 中央大学 05:36:50 00:05:48
3位 山梨学院大学 05:37:22 00:06:20
4位 東洋大学 05:38:28 00:07:26
5位 日本大学 05:38:33 00:07:31
6位 中央学院大学 05:38:40 00:07:38
7位 拓殖大学 05:39:09 00:08:07
8位 帝京大学 05:39:21 00:08:19
9位 大東文化大学 05:39:35 00:08:33
10位 順天堂大学 05:40:01 00:08:59
11位 神奈川大学 05:40:08 00:09:06
12位 法政大学 05:40:21 00:09:19
13位 東海大学 05:40:49 00:09:47
14位 日本体育大学 05:41:10 00:10:08
15位 國學院大学 05:42:55 00:11:53
16位 早稲田大学 05:43:52 00:12:50
17位 亜細亜大学 05:44:58 00:13:56
18位 専修大学 05:44:59 00:13:57
19位 関東学院大学 05:45:38 00:14:36
関東学連選抜 05:45:48 00:14:46
※関東学連選抜チームはオープン参加のため、順位、記録は参考値。ただし、個人の区間記録は有効。
■第79回箱根駅伝 総合 成績
順位 大学名 記録 トップとの差
1位 駒澤大学 11:03:47
2位 山梨学院大学 11:08:28 00:04:41
3位 日本大学 11:12:52 00:09:05
4位 大東文化大学 11:15:15 00:11:28
5位 中央大学 11:16:27 00:12:40
6位 東洋大学 11:16:56 00:13:09
7位 東海大学 11:17:05 00:13:18
8位 順天堂大学 11:17:13 00:13:26
9位 日本体育大学 11:17:31 00:13:44
10位 中央学院大学 11:17:33 00:13:46
11位 神奈川大学 11:17:57 00:14:10
12位 拓殖大学 11:19:05 00:15:18
13位 帝京大学 11:20:17 00:16:30
14位 國學院大学 11:22:40 00:18:53
15位 早稲田大学 11:22:42 00:18:55
16位 法政大学 11:27:30 00:23:43
17位 亜細亜大学 11:27:32 00:23:45
18位 関東学院大学 11:28:37 00:24:50
19位 専修大学 11:34:12 00:30:25
関東学連選抜 11:27:21 00:23:34
※関東学連選抜チームはオープン参加のため、順位、記録は参考値。ただし、個人の区間記録は有効。

■第79回箱根駅伝 区間賞
往路  
復路
記録 選手
(大学)
区間  
区間 選手
(大学)
記録
01:04:36 内田直将
(駒澤大学)
1区
21.3km
大手町
||
鶴 見
10区
23.0km
北浦政史
(駒澤大学)
01:09:54
01:07:31 藤原正和
(中央大学)
2区
23.0km
鶴 見
||
戸 塚
9区
23.0km
島村清孝
(駒澤大学)
01:09:02
01:03:25 山岡雅義
(國學院大学)
3区
21.3km
戸 塚
||
平 塚
8区
21.3km
太田貴之
(駒澤大学)
01:05:40
01:01:32 カリウキ
(山梨学院大学)
4区
20.9km
平 塚
||
小田原
7区
21.2km
岩永暁如
(山梨学院大学)
01:05:26
01:11:29 中井祥太
(東海大学)
5区
20.7km
小田原
||
箱 根
6区
20.7km
野村俊輔
(中央大学)
00:58:54
は区間新記録。

箱根駅伝 雪の記録
大会 状況 記録
第7回(大正15年) 雪の箱根路 中大往路1位で初優勝
第14回(昭和8年) 雪の箱根路泥んこ 早大完全優勝
第16回(昭和10年) 雪の箱根路泥んこ 早大2連勝7回目の優勝
第18回(昭和12年) 復路の箱根は銀世界 日大初の3連勝
第26回(昭和25年) 箱根残雪のあと 中大完全優勝
第28回(昭和27年) 明け方からの大雪強風※1 早大18年ぶりの優勝
第35回(昭和34年) 前夜からの雪1区残雪 中大完全優勝8回目
第38回(昭和37年) 往路は10年ぶりの雪中駅伝 中大4連勝を完全優勝で
第47回(昭和46年) 復路前夜に降雪小雪 日体大逆転優勝
第48回(昭和47年) 小雪、晴れの5区 日体大4連勝
第51回(昭和50年) 2区から降雪止む、箱根雪 大東大初優勝を完全優勝で
第54回(昭和53年) 復路豪雪26年ぶりの大雪箱根25cm※2 日体大2連勝7回目
第61回(昭和60年) 箱根復路7年ぶりの雪 早大2連勝11回目の優勝
※1…宮の下から上は積雪20cm以上競技関係車両すべてが宮の下でストップ。選手ひとりで山中を走った。
※2…日大7区、新幹線が遅れて東京からタクシーを乗り継ぐ



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