11月30日

※無断転載を一切禁じます


サッカー

J1 2ndステージ第15節
柏レイソル×ガンバ大阪
(千葉・日立柏サッカー場)
キックオフ:14時4分、観衆:12,126人
天候:晴れ、微風、気温:21.5度、湿度:33%

G大阪
2 前半 1 前半 0 0
後半 1 後半 0
24分:宇野沢祐次
82分:エジウソン
 

 J2への降格争いを最終戦まで引き伸ばした、広島、柏、神戸の3チームの戦いに注目が集まる中、柏は、昨年までの監督であり、若いチームの育ての親ともいうべき西野朗監督が率いるG大阪と、ホームでの決戦を迎えることになった。
 先制点は前半24分、玉田圭司からボールを受けた明神智和が左サイドを突破。センタリングに、宇野沢祐次が合わせると、速度のないボールがゆっくりとゴールに転がって行き、柏は勝利のためには何としても欲しかった先制点を手にする。その後、試合は中盤での激しいボールの奪い合いによってこう着状態に。前半はそのまま0−1で終わる。
 後半開始から、吉原宏太、森岡 茂を交代させて流れを取り戻そうとするG大阪に対して、柏は前半と同じメンバーで臨む。24分、宇野沢は運動量の豊富な砂川 誠と代わる。37分、中盤の争いから、エジウソンがボールをカット、このボールをサポートに入った平山智規に渡して、エジウソンはゴールまで突進する。平山はこのボールを、GKとエジウソンのちょうど真ん中付近に、正確なクロスをあげ、エジウソンがシュート。これが決まって2−0と、柏が試合をものにした。

 柏は今季、4〜5か月間勝利なし、9連敗のどん底を味わい、降格戦線での戦いを余儀なくされてしまった。しかしこれで年間総合の勝ち点は31となり、この日、清水に勝った神戸とともに残留を決定。一方、札幌に延長戦の末、敗れた広島が、Jリーグ発足の93年から続けていた1部からJ2に降格することになった。
 またG大阪は、ステージ2位となるものの、この日、横浜F・マリノスが浦和に勝ち、勝ち点を55としたため、年間3位に後退。
 なお、23日にステージ、年間優勝と完全制覇を手にした磐田も、名古屋との最終戦を3−2で勝って、有終の美を飾った。この試合で1得点をあげた高原直泰は今季総ゴール数26で、先輩の中山雅史以来、2年ぶり、日本人4人目の得点王となった(2位はG大阪のマグロンで22点)。

柏/アウレリオ監督「まずはホッとしている。これまでのレイソルは、苦しくなるとすぐにボールを蹴り込んでしまったり、後ろに戻してしまう傾向があったが、私が就任してからは、パスをつなぐ事を重視し、蹴るサッカー、ゴールキックに頼るサッカーを避けるようにチーム作りをしてきた。個人的な能力よりも、一生懸命、チームのために働く選手を優先しているし、これからも変わらない」

G大阪/西野 朗監督「今年最後の試合だけに、一番いいゲームをしようと準備をしてきた。最後はレイソルのメンタルが我々をわずかに上回ったのだと思う。年間3位だが(昨年7位)、一年を通じてアグレッシブな戦いはできたと思う。今年就任して、このクラブの成績があがらないのは『ぬるま湯体質にある』と言ったと思う。選手には来季、常にタフに戦える状態を保ってほしい。(最終戦が柏となったことについて)、最初と終わりに1試合ずつをしたという感覚だけだ」

試合データ
 
G大阪
14 シュート 16
17 GK 5
5 CK 6
11 直接FK 23
2 間接FK 4
0 PK 0


「他会場の結果を聞くな!」

 ホームで迎える最終戦がどこか異常な雰囲気に包まれる中、柏の選手たちがアップを終え、ロッカーに入ろうとした瞬間、関係者の一人が主将でもある明神に、携帯電話を差し出した。
 国際電話の主は、米MLSのギャラクシーに移籍が決まった洪 明甫である。現在はまだ韓国におり、柏にとって大一番となる最終戦で、「ぜひ明神と話したい」と、試合前に電話をかけてきたのだという。
 手袋を取って携帯電話を耳にあて、明神は驚いた。
「ミョンボの声を聞いて、なぜか気持ちが落ち着いた。とにかく全力を尽くせばそれでいい。そして、ほかの2チームのことは頭から追い払え、他会場の結果は絶対に聞くな、と言われました」
 2−0で、恩師が率いるチームを破ったあと、明神は、1本の電話がどれほど大きな力になったかをそう明かした。事実、ハーフタイムでも、広島と神戸の成績についてスタッフや監督が明らかにすることはなく、明神も聞くことを忘れて後半に集中したそうだ。結局、試合に勝って、そのことを完全に頭から「追い払っていたことに気が付いた」と笑った。

 来季から何らかのポジションで柏のアドバイザーとなる交渉を進めているとされるカレカ(ブラジル)もいた。かつて2部に残留することになった際も、柏に残って昇格まで力を尽くした。
「ここで終わってしまう実力ではない。今日のようなゲームはいつもできるはずだ」と、一人一人、選手と握手を交わす。
 クラブハウスの入り口には、明神のものと、W杯で4強入りを果たした韓国の洪、黄、柳、そしてエジウソンと、5枚の代表ユニホームが飾られている。柏は、こうした世界的な選手とリーグ戦を共にし、最後の苦境に、こうした力も結集された。5枚の中で一際小さい、まるで子供用のようなユニホームをまとった選手が、試合を決めた。
「僕が柏を好きな理由のひとつはスタジアムだ。日本の中でもっともサポーターと近い。シュートを決めたとき、彼らと喜び合いたかったし、イエローなんて関係ない」
 ここ5試合で5得点をあげ残留へチームを引っ張ったエジウソンは笑う。それにしても、わずか5か月前には、世界最高峰の大会で、しかも優勝争いをしていたゴールゲッターが、リーグの降格戦線であえぐチームでプレーをしていることの不思議である。
「そう、そういうことがあるから僕はサッカーが好きだし、おもしろいと思う。ワールドカップを手にしたって、降格争いをしていたって、僕はサッカーを同じように愉しんでいる。G大阪からは昔(96年)、5得点を奪ったことがあり、試合中、懐かしく思い出した。そして、来年もまた1試合で5点を奪うような活躍をしたいと思った」
 エジウソンは真っ白な歯を見せながらずっと笑っていた。契約更新を希望しており、来季は得点王も狙っていきたいと意欲を見せている。

 自分がタフであることを教え、試合では終始ファイトすることを叩き込み、スター不在でも気持ちとていねいな技術でつなぐサッカーで勝てると育てあげた選手と、こんな試合を戦うことになるとは、西野監督も思わなかったはずだ。会見では「最初と最後の1試合をやっただけ」と、らしくクールに、きっぱりと発言していたが、実際は非常に苦しい試合であった。
「考えられないような筋書きのめぐり合わせになってしまったね。プロだからいちいち感傷的になっても仕方ないんだけれど、ここ(柏スタジアム)に来るとね……。自分たちのサッカーができずに年間3位に終わったことは残念だが、今日は柏が良かったことを認めている」

 アウレリオ監督の手腕はもちろんだが、スター選手のいないチームが最後に見せたしぶとさは、西野監督の「置き土産」でもある。柏の選手たちはそのことを誰よりも知っていたのだろう。試合が終わり、サポーターに挨拶を終え、ロッカーで簡単なミーティングをすると、すぐに、明神、南、加藤、玉田らがG大阪ロッカーの前に走って行き、監督に頭を下げた。
 西野監督はロッカーから出ると嬉しそうに表情を崩して彼らを出迎え、笑い声と雑談はいつまでも長く続いた。G大阪のバスが出発する時刻になり、マネジャーに告げられる。 
 監督は「じゃあ」と一人一人と握手して、それぞれの肩をたたいて言った。
「来年もまたな」



読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い


BEFORE LATEST NEXT