11月26日

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柔道

女子柔道48キロ級・田村亮子の会見
(東京・文京区、講道館)

 12月8日の福岡国際女子柔道で、4月に全日本体重別選手権で敗れて以来8か月ぶりに復帰する田村亮子(トヨタ自動車)が、合宿で会見を行い、「大会には、1000%(千パーセント)で臨みたい」と、アテネに向けての新たな、強い闘争心をみなぎらせた。
 高校生の福見友子(土浦日大)に敗れた後、夏までこれまでのキャリアにはなかった長期休養を取り、7月からは基礎体力のトレーニングからすべてをじっくり仕上げただけに充実感が漂い、福岡は、来年の世界選手権6連覇への始動であり、アテネでの五輪2連覇への一歩だと位置づけていた。

田村亮子会見から(抜粋)

「7月から練習を積んで非常に良い具合に仕上がっています。今回は、柔道の総合力、スピード、バランス、パワー、すべてを鍛えてきました。外国の選手が福岡には出場しますので、それなりのトレーニングを積むことは当然ですし、15歳から出場している大会、今まで以上のものを狙って行きたいと思っています。(まさかの敗戦の後だが、と聞かれ)私自身、あの試合(4月)を振り返ってみると、柔道以外のこと、それは肖像権の問題ですが、それに頭が行ってしまい、あの時点で誰と対戦したとしても、いい結果は得られなかったと思います。ですから、敗戦というより自分の問題であって、あまり気にはしていないんです。(国内の選手が強豪揃いだが)もちろん国内選手に勝つことは絶対ですが、外国人の選手も全部で21人参加する大会です。12回目の優勝をして、来年の世界選手権につながるようにしたいと思うし、誰がライバル、というのではなくて、自分に勝つことです。(新しい田村さんはどこに)えー、髪の毛を切って、といっても特に理由はないですけど、乱れた髪をまた元に戻したりするのは面倒ですから……、まあ、特別にはないですね。福岡は90年代を制覇できた大会で10年やってきたが、(一方では)沢山の試合に出していただくチャンスをもらい、試合、調整、試合という感じで練習は十分に積むことはできなかった面があります。今回はその点でも心身共に充実し、一日、一日、真剣で緊張感のある、満足のいく練習ができたと思っています」


「誰も聞かなかった質問」

 会見は講道館の畳の上、田村は胴衣で裸足、数十人の記者が彼女をぐるりと囲む形で行なわれた。
 私の知る限り、彼女ほど、会見の巧い選手もそうはいない。例えば、交際しているプロ野球オリックスの谷選手のことを聞かれても、「柔道の話だけにして下さい」とか「今日はその話でなくて」などとは絶対に言わない。笑顔で、「何のことでしたっけ? ……まあ、お互いに大事な時期ですし、いい結果を出すことが一番の目標ですから」と、軽くいなすこともできる。15歳から世界と常に並び、国内では注目を浴び続ける存在であり続けることへの自信や誇り、そして護身術でもあるかもしれない。とにかく、田村が記者を邪険に扱い、避けることはない。
 ただし、1対1にならなければ話さないような言葉もまた、田村は実に豊富に、心の深いところで守っている。
 この日、約30分、テレビと紙媒体で会見が行われたが、最後まで誰も聞かなかった、しかし、本当は一番知りたかった問いも残っている。大勢の中で、彼女がこれについてどう答えるかはわかっていたので(ほかの人ではなく、自分に勝つと間違いなく答えただろう)私も聞くのは止め、またいつか、2人でじっくり話せる時に聞こうと思い封印した。
「次にもし福見と当たったら、どういう対戦をするか」
 高校生の彼女に敗れたことを田村はこの日、「あの敗戦よりももっと苦しくてひどい敗戦を、バルセロナ、アトランタで経験しています。だから、あの敗戦はそういうものとは違います」
 負けは負けでも、負けではない、と言い切った。敗戦を認めていないのではない。そういう人間ではない。柔道家としての「勝負」ではなかったと言っているのだ。
 まだ対戦は決定していないが、田村は恐らく、完璧に倒すつもりだろう。過去の敗戦では同じ相手と、同じ舞台で当たることはなかった。しかし、今回は違う。一度敗れた相手とは、今後もあらゆる選考をかけて対戦していく可能性がある。
「1人の相手を倒すためには、それこそ100通りの戦い方は考えます。そして最後は必ず自分が勝つ試合でイメージして終わらせる」以前、テレビのロングインタビューでそう聞いた。福見ともし対戦するとすれば、一体、どんな柔道で挑もうというのか。
 初戦は一番重要なはずで、これをどう戦うか、と婉曲に聞いてみた。もちろん、福見を想定しているし、していないともいえる。
 田村は「勝ちを収めることが第一です。けれども、自分がここまでやってきた柔道のすべて、ひとつ残らず出せればと思っています」
「勝負師」のすべてが注がれる、注目すべき対戦になるのではないかと思う。



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