11月22日

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サッカー

磐田の練習より
(静岡・ジュビロ磐田スタジアム)

 Jリーグ第1、第2の、両ステージ完全制覇に王手をかけ、23日、ホームで東京Vを迎え撃つ磐田が、午前中、磐田スタジアムでサポーターを入れての公開練習を行った。
 20日のアルゼンチン戦(埼玉スタジアム2002、0−2)で、日本代表では99年以来となる2トップを組んだ中山雅史、得点王目前の高原直泰のFW2人は、勢いを感じさせる、はつらつとした動きを見せていた。高原の海外移籍について、23日にもフェイエノールトの関係者が試合を観戦することになっており、優勝と移籍実現が重なる、高原にとって絶好のタイミングも巡ってくる。
 ドゥンガ氏も帯同しており、この日は名波浩、藤田俊哉、山西尊裕らのフリーキックを注意深く見守り、アドバイスを送っていた。
 鈴木政一監督は「過去、ヴェルディとの対戦で楽勝をしたことは一度もない。明日もそう考えて、立ち上がりからうちの、アグレッシブなサッカーをやらなくてはならないでしょう。とにかく先制点を奪うこと、できれば追加点をすぐに取ることです。(完全優勝は)結果が出てからいろいろなことを考え、話もできるけれど、前に話しても意味がないでしょう」と、チームではなくて周囲に漂う「優勝決定ムード」を戒めていた。

 また、22日に急逝した、日本サッカー協会名誉総裁の高円宮様に、98年フランス、2002年日韓の両W杯代表でもある中山が、代表して哀悼の気持ちを表した。23日のJリーグ全試合で、選手は喪章をつけてプレーする。

中山雅史「僕らにとって、ものすごく大きな力になってくださったと思います。皇室の方なのに、いつでも身近で気軽に声をかけていただきました。もうそういう場に来ていただけないと思うと本当に寂しいです。横浜で(代表の)試合をした際、カメラがお好きな宮様が、僕の写真を、とおっしゃったので、シャワーを浴びていたのですが慌てて着替えて行こうとしたら、『いいですよ、ゆっくりで』とお話になり、あとでその写真を雑誌で使うことになった時には、わざわざ僕に『あの写真を使わせてもらっていいですか』と聞いてくださった。会えばいつでも親しみを込めて接してくださったのに、もうお会いできないと思うと本当に寂しいです。
 そんなふうに接してくださった方への恩返しに、明日の試合では現時点での最高のプレーをお見せできるように、質の高いプレーをして、精一杯お悔やみを申し上げたいと思います」

    ◆明日の試合に向けた、磐田の選手のコメント

藤田俊哉「決めるとか以上に、明日はいいサッカーをしようという気持ちが強い。普通の1試合と同じ、だけど、違う、という、難しい心理状態ではあるけれど、それをそのまま試合に持ち込むと足元をすくわれる。自分たちの出だしの悪さを十分に意識しながら、まずは立ち上がりの時間帯に集中したい。絶対に失点しないようにしなくてはならないでしょう。ドゥンガには、インパクトをこうしたら、とか、角度のことなどアドバイスしてもらった」

服部年宏「選手は本当に普通ですよ、僕らにとってはあくまでも15分の1の試合でしかないし、完全制覇と言えば喜びが2倍になるわけじゃない。普通にやるだけ、いつも通り自分たちのサッカーを」

山西尊裕「これだけ(マスコミが)いて、練習するのも何かおかしな感じでしたが、みなあまりそういった周りのことには動じなくなっているような雰囲気でした。自分たちのペースを貫けるというか、大事な試合だということには変わりないけれど、でも、落ち着いています。(練習中に強烈なフリーキックを蹴り、ドゥンガも拍手を送るキックで練習を止めてしまったことについて)以前、試合で決めた際(柏戦)にも、練習中に1本いいのが入って、そこで止めて、いいイメージを持って蹴れたので」

中山雅史「大きな注目をされる中で、いつもと変わらなくやることだと思う。代表での疲れうんぬんは、戦う姿勢には何も関係はない。明日は、特に立ち上がりの時間帯に気をつけたい。東京Vは若くて勢いがあるチームで、エジムンドのボールキープ力は特に注意しなくてはならないので、チームとして潰して行きたい。(あと1ゴールで16点と聞かれて)点を取る意欲は常に持って挑んでいる」


「別に、勝つだけです」

 素っ気ないわけではなく、本心で率直なコメントだろう。練習を終えた高原は、そう答えてスタジアムをあとにしたという。
 アルゼンチン戦について、21日、大久保グランドで行ったリカバリー練習後に、「やっぱり、あの(後半の)2点、あの4分間が悔しいです。あれが差なんですね。第一、最初の失点で、自分が、『さあ、こっからだよ、集中してこう!』なんて声をかけているんですよ。自分で言ってるそばから、何やってるんだこれ? って、我ながら情けない感じですよね」と、苦笑しながら試合を振り返っていた。

 フィジカルでもメンタルでも冷静に、一方ではファイトし、アルゼンチンと正面で組んでいた試合で、改めて実感として噛みしめたのは、勝負どころを「チームが」見逃さないという、次なるステップの存在だった。
「ここだ、という時には、みながたたみかけて行かないと。そういう精神的なテクニックも重要だと思う」と、藤田は話す。日本がアルゼンチンと対峙し、組んだ試合をしながらも振り切られた「何か」の存在は、Jリーグにもある。磐田は、チームの意志統一、勝負どころを逃がさない嗅覚、たたみかける集中力、それらの最高峰を常に形にしてここまで勝利を積み重ねてきたチームである。
「どんな状況に置かれていても、負ける気がしない」と、服部は表現を変えて「チーム力」を説明する。

 V東京との試合は間違いなく難しいものになるだろう。若さと、エジムンドという老獪さ、彼らはその両方を持ち、しかもゲームへの目的は「優勝阻止」とはっきりしているからだ。しかし、苦しい試合になってもがけばもがくほど、磐田の「強さ」が染み出してくるはずだ。1対1の技術、意志統一、駆け引き、プレーにおける固い結束、あるいは柔軟性、すべての要素をかみしめるかみしめることのできるような試合を見たい。そして歴史を目撃する、とは、単に、磐田の完全制覇を見ることではない。さまざまな困難をピッチで一瞬、一瞬に跳ね返す彼らとその技術、メンタルを見つめることが、Jリーグ発足から10年のリーグと同時に、日本サッカー全体の、現在進行形の歴史を目撃することになる。



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