7月20日

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サッカー

日本サッカー協会、新体制へ
(東京・渋谷区)

 日本サッカー協会評議委員会、理事会が行われ、岡野俊一郎会長の任期満了の後を受けて、川淵三郎Jリーグチェアマンが新会長に就任した。新執行部では、副会長に小倉純二氏(留任、国際、財務担当)、鈴木 昌氏(Jリーグ次期チェアマン)、野村尊敬氏(事業、国体担当)の3人、専務理事には、42歳で資源エネルギー庁石油天然ガス課長から大抜擢された平田竹男氏が就任した。
 また、日本代表の新監督には、会長が3日に会って直接オファーをし、合意に達していたジーコ(49歳、ブラジル)が正式に承認され、22日にはまず11か月契約について(8月1日から2003年6月末まで)の契約調印と発表が行われる。

◆川淵三郎(かわぶち・さぶろう)
1936年(昭13)12月3日、大阪高石市生まれ65歳。三国丘高校から早大へ、FWとして日本代表としてローマ、東京五輪に出場し古河電工サッカー部監督も歴任。協会強化部長(ロス五輪)、代表監督も6ケ月暫定でつなげた。91年には、退社し、Jリーグチェアマンに就任し、以後、Jリーグを牽引した。家族は、妻、娘2人。趣味はゴルフでハンディはシングル。

◆野村尊敬(のむら・そんきょう)
1941年(昭16)9月22日、広島県生まれ、60歳。現チチヤス乳業代表取締役社長。広島県サッカー協会会長からサッカー協会理事を歴任、地方協会のリーダー的役割を担ってきた。
「これまでの経験を生かし、会長、地方の運営をサポートしていく。また協会のスポンサーであるみなさんに、メリットを感じていただけるように。日本代表のがんばりに期待したいと思う」

◆鈴木 昌(すずき・まさる)
1935年(昭10)神戸市生まれ、66歳。東大卒業後、住友金属入社。同蹴球団団長としてサッカーに就任した。Jリーグ理事、鹿島の特別顧問を歴任し、23日のJリーグ理事会で、正式にチェアマンに就任する。
「私はJリーグとの協調、つなぎをどうするかを考える立場だ。具体的にはまた23日(Jリーグ理事会)に詳しくお話ししましょう」

◆平田竹男(ひらた・たけお)
1960年(昭35)生まれ、42歳。大阪府大手前高校から横浜国大、ハーバードJFケネディスクールで行政学修士。82年通産省に。石油天然ガス課長として国際的な活躍をしてきた。Jリーグではアドバイザリーメンバーとして企画に関わってきた。
「大変光栄で恐縮している。会長のもと、着実に企画を実施していくことだと思う。これまで石油天然ガス課長として日本国民の国益に関わる仕事をしてきて、サッカーもまた国民を多いに勇気ずける国益だと思い、退職して任務にあたろうと決断した」


川淵新会長所信表明
(午後3時、協会にて会見)

 温厚な人柄でW杯招致、開催に尽力された長沼前会長、サッカーというよりも日本スポーツ界きっての国際派であった岡野会長といったみなさんから引き継ぐことになりますが、私はみなさんとタイプが違ってガラっぱちなんで、私なりの色を出してサッカー界を盛り上げて行きたいと思う。何よりも日本代表が今回ベスト16に入ったことを維持し、同じレベルかそれ以上にできるように基礎を作りたい。アイディアはいっぱいあり、できるだけ小さな政府を目指して地方に自立をしてもらいたい。地方でも企画力、運営力のある協会はバックアップして、草の根からシニアまで、3年後は登録200万人をひとつの目標にしたい。
 また協会の中の委員会を来年3月までに整備する。ジーコ新監督と話し合いをして、強化にはどういう組織がいいのか、これを考えていく。ジーコ監督とはまだスタッフ決定までにはいたっていないが、とりあえず年内は日本人スタッフでやってもらおうと思う。

    ◆質疑応答:

――平田氏の抜擢について
会長 国際化の時代で、日本の地位を高めていくことが必要だ。自分の意志をはっきりと伝えることができ、英語、できればスペイン語、フランス語もこなせるくらいの人材が不可欠だと思ってきた。(平田氏は)国際的な要人やトップにもよくいえば、日本人にないずうずうしさで食い込んでいける人物で企画力、行動力もある。今回、小倉副会長(8月にアジア選出FIFA理事選挙)にはFIFAの理事になってもらいたいし、平田君にはその後を引きついでFIFAの理事になってほしい。

――Jリーグチェアマンとして10年、協会との関係について
会長 Jリーグは自分たちで作った組織で自分が作ったチェアマンというポジションがあった。今回は80年あまりの歴史の中、先輩方が作った組織で、その会長。椅子のすわり心地は、まあ座ってないなまだ。とにかくまだわからないことが多い。Jリーグのことだけ考えていればいいのとは違って、47都道府県地方協会、アマとプロ、女子サッカーのこともある。できるだけ並行して、さまざまな委員会を早く動かしたい。時間がないと私は思っている。Jとの関係では、ジーコもともに発展すると言っているので、これまでにないほどいい関係になるのではないだろうか。

――登録の問題は
会長 実体をすべて把握しているわけではないが、区などに登録している人たちがなぜ協会に登録したがらないか、それを見たい。施設の確保も大きな問題だ。

――日本代表の監督の決定プロセスと、会長が決めた以上、ジーコがダメなら責任を取るつもりか
会長 まず、監督がダメなら会長が辞めるなんて行っていたら、いくら会長がいたって組織なんてもちゃあしない。そんなことが責任をとることとは、私は考えていない。それと、プロセスについては、技術委員会が決めてそれを承認する形はずっと変わっていない。今回は私が出すぎた、といえば出すぎたということになるのだろうが、会長は、もっとも大事な人事を知らなかった、では納得がいかない。だから3日に一度だけ会ったんで、決定はあくまでも今日の理事会だった。ジーコとは話をして、とりあえず11か月の契約でいくが、もし満足ができなければ、いつでも辞めさせてもらって構わないと自分から言っていた。

――ジーコ氏について、名前を出されたのが会長だということですがプロセスは
会長 確か(技術委員会の)大仁委員長からセネガルのメツ監督だとか、フランス協会が押した人間であるとか、名前がわかったのは1人だったかな。それで、ジーコは声かけたか、と聞いたら、まだだというから、じゃあちょっと聞いてみれば、と言った。ジーコが監督をやると思わなかったからね。そうしたら、ジーコがやる気だというんで、えーということでここまで話がきた。

――財政面は
会長 協会にはいざのときの積み立てがあるが、持論としては10年、20年先を考えて、草の根のほうにかけていくべきだと思っている。今の登録、11億円のうち4億円を地方協会に返しているんだが、熱心なところとそうでないところには格差がある。


★Special Column★
「筋金入りとは、筋肉に入った鋼」
――川淵三郎新会長就任に

 私の好きな小説家の言葉に、「男の一生は何を話したかでない。何をしたか、それだけだ」という文がある。
 状況は違っても、社会、組織、男でも女でも、行動で、結果で何かを得ようとしない者に限って、なぜか「それとこれとは話しが別」であるとか、「申し訳なく思っているが」などとやたら雄弁になるものだ。

 日本サッカー協会新会長が20日誕生した。
 川淵会長の口癖は「時間がない。走りながら考えてくれ」である。小説家の表現通り、言葉よりも、屁理屈よりも、常に行動と結果だけを自らに、周囲に課す人である。今回も早速、日本代表ジーコ監督就任までのプロセスについて、「まだ会長に決定していないのに何を先走って」とか「責任問題はどうするのか」などといった批判を浴びた。20日の会見では「出過ぎたと言われればそうだということになるが、自分がかねてからもっとも重要な監督人事について考えていた筋を実行すべきだと考えた結果だ」と説明。基本的には技術委員会が人選を行い、それを理事会にはかって正式に決める手順ではある。しかし、運命を、良くも悪くもともに背負って行く共同体でなければならない両者の関係において、協会の長が、「よくわからないけれど技術委員会の決定ならそれでいい」などということはできないし、「W杯であれほど熱心に応援してくれたファンのためにも、執行部より、協会内部より、もっとも迅速に優先をしなければならない人事だ」と当初から位置づけていたものである。

 7月3日は、W杯期間中からようやく何十日ぶりに得た休日に静養するはずだった。しかし、帰国してしまうというジーコに会うため、成田空港に飛び出して行ったのも、自らへの批判や、組織論など百も承知の上での「行動」である。

 新会長は、スポーツを愛している。
 新聞の投書をきっかけに作成された記録ビデオを取り寄せた時のことである。
 ある中学校の運動会では大縄跳びが花形種目だが、クラスには、どうしても何十人で跳ぶことができずに、つかえてしまう生徒がいた。彼がいなければ学年トップも夢ではない。彼を入れるか入れないかを投票することになり、投票の結果「みんなで跳ぶ」と決める。

 特訓の結果、確か運動会では最下位になるのだが、クラス新記録を作る。「彼」のがんばりにみんな泣きながら跳んでいた、というノンフィクションで、「みんなで跳んだ」というビデオになっていた。

 チェアマンの執務室でこれを一緒に見ることがあった。その際、「スポーツってこういうもんだよな。勝負だって何だってこういう気持ちが最初になきゃ強くなれないんだよ」と、涙をボロボロ流し、ハンカチでぬぐいながら言われてしまい、ビデオのストーリーよりも大縄跳びで泣いてしまうチェアマンの姿のほうがよほど印象に残ってしまった。

 私はできないが、先日、「最後の(裏)チェアマン杯(表はスポンサーなどで本当に盛大なイベントなので)」と題して、記者たちとのゴルフコンペが行われた。短いズボンで最終ホールをあがってきた会長のふくらはぎを見て驚いた。

 私たちはよく、ふくらはぎに筋肉がたっぷりついた選手の脚の様子を「金魚のおなか」などと呼ぶ。65歳のふくらはぎには、ローマ、東京五輪で活躍してきたFWの姿がまだくっきりと残されていて、「金魚のおなか」そのものであった。

 会長の行動力、そのエネルギー、ある意味の頑固さ、すべて筋金入りだと言われるだろう。しかし、川淵氏の場合、筋とは筋肉の「筋」ではないだろうか。鋼や鉄筋よりも柔らかいが柔軟性はある。

 渋滞に巻き込まれてJリーグに遅刻した夜、「試合を観たいから」と、スタジアムの階段を2段抜かしで勢い良く駆け上がっていった。スーツの下に隠れた「金魚のおなか」が、最初の任期となるこれから2年間、躍動感にあふれるように願いたいと思う。



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