3月12日

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★☆★Special Column★☆★

「文字にするのも馬鹿らしい」
〜サッカー日本代表候補トレーニングキャンプより〜

 12日は、ウクライナ戦、ポーランド戦を目指して合宿中の日本代表の練習最終日となった。サッカー協会、およびトルシエ監督は事前に、紅白戦の後半を午前11時をメドに裾野市のグラウンドで公開、選手の取材対応をするというアナウンスを報道陣にした結果、この日集まった報道陣は約220人に達している。ちなみにこれは、ソルトレーク五輪の、日本からのID発効ジャーナリストを上回る人数である。もうひとつ、220人はサッカーが「趣味」で裾野まで東名高速を飛ばして行ったのではないし、好きな選手に会うために早朝の新幹線に飛び乗ったのでもない。

 午前10時半から受け付けが始まるが、待てど暮せど公開される気配はない。グラウンドは報道陣が待たされた反対側からは丸見えになっており、ファンのみなさんはこちら側に立って、おそらく終始、こちらは練習を見られていたはずである。報道陣ももちろんそこに行くことはできたが、いわば「紳士協定」として尊守してきた、非公開の権利だけに、誰も掟破りはしなかった。
 結局約2時間、220人は道路に立ったり、駐車場で、小さなベンチで座ったまま中に入ることなく待ち続けた。気温22度は救いだった。グラウンドへ立ち入り許可が下りたときには、代表の紅白戦の代わりに、選手の記念写真撮影風景が見られたというわけである。

 監督が練習中に、甘さの見られたプレーに激怒し、現場にいた強化推進本部関係者によれば「まったく手がつけられない暴走状態」になったのだという。
 約束の時間が来たが、「マスコミなど入れるな」と、方針転換したからだという。
 スタッフ誰もが監督のいつものヒステリーに手をつけられず、ただただオロオロしているだけだったからだという。
 代表のプレスオフィサーとされている担当者が、ボケーっと立っているだけの220人の報道陣に説明することも最後までなく、かくして、今年に入ってわずかに4度目となるはずだった取材チャンスは消え、この日、みなさんにお伝えするものも、何もなくなってしまった。

 監督自身の説明である。
「緊張感を持ちたかったから非公開にした。夫婦喧嘩は人にはお見せしないのと同じで、今日は代表が(心をぶつけ合う)夫婦喧嘩と同じ状態(で戦った)だったからメディアは入れなかった」と、コメントをした。

 これまでも、読者には直接関係がないので書いて来なかったが、監督が約束を破り会見をすっぽかしたこともあれば、サポートする協会関係者がメディアへ意図的に嘘をついたこともある。宿泊するホテルのロビーにさえ入るななどといった一般常識を逸脱する要求まで飲みながら、メディアはひたすら妥協点をさぐりながら、「紳士協定」を重んじてきたことは記しておきたい。
 以上が事実関係である。

 こういう事象、監督、協会の体制に対して原稿を書くことはもはや馬鹿馬鹿しい。批判や評論以前問題であるからだ。

 4年前、宿舎となった御殿場高原ホテルは、今回も選手の宿舎だった。
 もうスイス合宿へ出発するという直前でも、記者はロビーに控えて仕事をし、選手の気が向けば話しに来てくれたし、喫茶店でお茶も飲んだ。エレベーターに乗るまで選手は立ち止まって話をしていたし、キャプテンの井原、カズ、北沢、山口、中山たちは、率先してメディアの輪の中に入って来ては、サッカーとは無関係の話を随分とした。もちろん岡田監督、コーチ陣、スタッフも、それが仕事の分担に関する範囲でよく話した。
 何か問題が起きたか。何もなかった。お互いが「大人である」以上起きるはずもない。

 今回、御殿場高原ホテルのレストランから「退去」するよう警備員に言い渡され、ロビーの四角いベージュのソファーを横目に見ながら、中田がアレルギーで参加できない非常事態に、ドクターの話を囲んで聞いたこと、市川の18歳の誕生日を拍手で祝ったことなどいろいろな場面をふと思い出した。そして、一体いつから、なぜ「代表」をこんな遠いところからうかがうようになったのか思い出そうとした。できなかった。



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