6月28日

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サッカー

キリンカップ日本代表会見
(横浜市内)

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増島みどり著
ゴールキーパー論
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 1日(札幌、対パラグアイ)、4日(大分、対ユーゴスラビア)とキリンカップに向けての合宿を行っている日本代表が、この日、個別の会見を行った。代表は、この日夕刻から練習を非公開で行い29日には札幌入りをする。

 今回は、中田英寿(ASローマ)、西澤明訓の海外組と、故障中の名波 浩(磐田)、中村俊輔(横浜FM)らが不参加だが、パラグアイから一時帰国をしたMF廣山 望(セロ・ポルテ−ニョ)が初めてA代表入りを果たした。

 また、32歳のDF秋田 豊(鹿島)が代表に復帰しており、コンフェデレーションズカップで準優勝を牽引したFW中山雅史(磐田)とともに2人の「サーティーズ」が強烈な存在感を放っている。


「長嶋さんからの電話では…」

 先発であるとか、サブで、とか、中山の存在感を表現するには、どれもたいした意味を持たない枕言葉でしかないのではないか。
 この日、会見は広間で選手それぞれが椅子に座り、その回りに聞きたいことがある記者が集まるいわゆる「囲み」で行われ、中山の周囲には多くの記者が集まった。
 横浜国際総合競技場のこけら落としでは、中山が最初のゴールを上げている。このことから、囲みでも札幌ドームの、サッカーでの「こけら落とし」となる7月1日の初得点を期待する質問が出された。

    ──中山さんは新しい会場には強いというか、横浜では一発目ですよね。札幌でも意識しますか
    中山 いや一発目は(中日の)福留ですからねえ、やれれましたよ、初球ホームランですから。

 囲みはこれで笑いの渦に包まれ、何かと思った多くの報道陣がまた輪を作る。ドームについての感想についても、現在ロード中だった巨人×中日戦から笑わせる。

    ── ドームは以前東京でも経験されてますが
    中山 でもあの当時は巻き取り(芝が)でしたからね、今回は植えてあるものが入るわけですから違うでしょう。期待してます。それよりも空気調整だとか、気温ですとか、まあ、北海道だからこういう(東京のような)湿気はないですけれど、長嶋監督からの電話では、まあ大丈夫、よく出来てるって報告があったんですがね。え? んなわけないか。

 チームという概念に対する忠誠心、それを実行する体力とメンタル、すべてが中山にはある。さらに、それが彼の実像であるかはともかくとして、こうした「華」を持った選手の存在は、日本代表において極めて貴重なものではないか。今回は鈴木隆行(鹿島)と相部屋だそうだ。

    ── 鈴木選手とはどんな会話を
    中山 普通ですよ、普通。テレビを見たり、まあ隆行はあまりテレビを見てませんね。そういえば、ゆうべ部屋で灯りを消して、さあ寝ようというときに、急にパン、とおっきな音がしてびっくりして目を覚ましたんですよ。隆行は、オレの鼻が鳴ったと思ったらしくて、俺は俺で、あいつが何かしでかした、と思って(疑って)笑いましたけどね。炭酸飲料のラムネのカンが破裂しただけだったんですが。

コンフェデレーションズカップでは、中山がピッチに立つとスタジアム中が熱狂に包まれるような地響きが起きた。中山はそれを励みにしているという。
「あれは気持ちがいいっすよ、ほんと。一発やってやろう、いつでもそう思ってます」


「諦めるのは簡単だから」

 中山が「今回は、話す相手がいるからうれしいですよ」を笑いながら話した「パートナー」にとっては、試合で負傷したのか右目上にある傷さえも、どこか重厚さを与えてしまう要素になるから不思議である。
 トルシエ監督の代表では99年9月8日のイラン戦(キリンチャレンジ'99)以来の復帰となる。その間、Jリーグ3冠を果たすなど、優勝チームのDFリーダーとして十分な仕事をしながらも選ばれることはなかった。
「代表に飢えてたという感じですね。この間、すごく悔しかったし、その気持ちをキリンにぶつけたいと思う」
 98年フランス当時に比較すれば当然のことながら肉体の単純なパワーは落ちている。しかし、読みや流れ、対人での強さなど、秋田の秋田たる所以は衰えるどころか、輝きを増したかのようである。パラグアイとは過去、南米選手権(1999年7月2日、0−4)でも対戦はある。大敗を喫したが修正可能だと、ベテランは落ち着いたようすで分析する。
 それにしても、一度落選しここまで長い期間を経ての復帰に違和感が伴わないことに、むしろ違和感がある。中山が明るさやポジティブといった感覚を与えるとすれば、秋田の復帰は、安心感や重みを代表に与えるかのようだ。違和感を伴わない復帰の理由はどこにあるのか。
「いつでも代表を意識して、どんな時でも戻れるようにやってきました。諦めるのは、簡単だから」
 諦めるのが簡単なのではなく、諦めないことがどんなに難しいことか、キリン杯で示すのだろう。


サッカー

KIRIN WORLD CHALLENGE キリンカップサッカー2001
パラグアイ×ユーゴスラビア
キックオフ:19時00分、観衆:21,213人
天候:曇り、気温:27.5度、湿度:67%
(東京・国立霞ヶ丘競技場)

パラグアイ ユーゴスラビア
2 前半 1 前半 0 0
後半 1 後半 0
38分:カセレス
82分:フェレイラ


 現在、W杯南米予選で2位と絶好調のパラグアイは、メンバーを若手にガラリと変えた編成で、南米選手権を視野に入れた戦いをした。
 前半から、国際経験が乏しく守備的な布陣を敷いたユーゴスラビアに対して、スペースに積極的に走り込む運動量のあるサッカーを展開。これが相手のミスを誘って、前半39分、ユーゴスラビアGKがDFと接触した間隙をついて、廣山望と同じクラブで活躍するカセレスが左足で押し込んでゴール。幸運な先制点をもたらした。
 後半もパラグアイが、現在、ニューカッスルでプレーするMFガビランらの動きから突破をし、合計14本のシュートを放つ。38分にも、フェレイラがGKの飛び出しを慎重に見極めゴールを奪い、試合を2−0と決めた。

 パラグアイはこの遠征メンバーでこの後の南米選手権に向かうために、フロリダからコロンビアに入ることになっている。またこの大会で、代表を退くストイコビッチは、前半28分で、ふくらはぎ痛で自ら交代を申し出た。大分での日本戦には出場する意向を示している。

試合データ
パラグアイ   ユーゴスラビア
14 シュート 8
10 GK 13
6 CK 9
9 直接FK 21
3 間接FK 2
0 PK 0
ストイコビッチ
「今回は経験もなく若いチームで、きょうはいい経験になったのではないか。交代は、先週のJリーグで傷めたふくらはぎが痛くなったために、監督に交代を申し出た。大分のゲーム(日本戦)までには、リハビリをするなど治療をして何とか出場をしたいと思っている。日本のサポーターには本当に暖かい応援をしてもらって感謝しているし、いいプレーをお見せしたい。きょうはそれができなくて残念だった」

パラグアイGK・チラベルト「私たちのほうがいいサッカーを見せられたと思うし、今回の若いチームにとっては非常にいい試合になった。こういう試合では集中力を保つことが大事であるし、若いチームに落ち着きを与えることが(自分の)役割のひとつだと思う。サッカーは平常心を保つことができればいいスポーツだと思う」


「ハングリーではなくて…」

文/松山 仁

 日本代表に初選出され、パラグアイから帰国したMF廣山 望は、この日、代表に2日遅れで合流し、午前中の会見に駆け込んだ。多くの報道陣が廣山一人に注目して集まる混乱の中で、「パラグアイはあまりに日本との距離が遠いので、代表に選ばれた実感はなかった。しかし、A代表というのは自分のサッカー人生の中で絶対に経験しておきたかった」と淡々と、しかし堂々と答えた。
 シドニー五輪代表では最終選考で外れ、所属していた市原から今年1月に半年の期限付きでセロ・ポルテーニョに移籍した。トルシエ監督が代表選抜の理由について「もともと資質は高かったが、引っ込み思案でおとなしい性格がハンディとなっているところがあった。そこがどのくらい変わったのかを見てみたい」と説明したことに象徴されるように、廣山=ハングリー精神で成長、といったイメージが先行している。しかし、日本から最も遠い南米大陸、パラグアイでの生活は意外なことに、廣山にとっては「ハングリー」よりも、居心地の良さを感じさせるもののようだ。
「自分の性格を考えると最初は海外でのプレーが向いているかどうか不安だった。けれども実際は、チームも選手もファンもみんな自分を受け入れてくれた。一人の人間として受け入れられたことは自分にとって自信になったし、逆にサッカーだけに集中できる環境を与えてくれた」
 セロは国内リーグ前期優勝を果たし、南米クラブ王者を決めるリベルタドーレス杯では廣山自身も日本人初のアシスト、得点を記録した。現地のTVの取材にも、通訳を介することなくスペイン語で答えている。
「新しい言葉を覚えるのはもともと好きだし、公用語であるスペイン語のほかにも現地語のガラニー語もチームメイトに教えてもらっているところです」
 チームでは専門の右サイドだけでなく、ボランチを任されることもあるというが、「与えられたポジションを臨機応変に対応していくことも必要」だと考えている。
 南米、パラグアイといえば短絡的に劣悪だと思われる。しかしその環境をハングリーではなく、むしろ満足できると自然に受け止めたキャパシティーの広さと柔軟性こそ、廣山がパラグアイで発見した自身の可能性だった。


「武田、パラグアイにエール」

 代表に廣山が合流したこの日、昨年約半年間、パラグアイのルケーニョでの移籍を経験した武田修宏(東京V)も試合を観戦に訪れた。試合後には、DFのサブだった、かつてのチームメイト、アマリ−ジャにユニホームをもらうなど、旧交を暖めていた。
 武田は、「まだ若い(平均年齢26歳)チームだけれど、ここまでやるのは潜在能力がある。このメンバーに、サンタクルス、ガマラ、アジャラが加わればやはり素晴らしいチームになると思う。でも日本は優勝をしてもらいたいですね」と話していた。

■出場メンバー
パラグアイ   ユーゴスラビア
チラベルト GK クラリュ
イサシ DF DF ドミトロビッチ
カセレス ラショビッチ
カニサ ペトコビッチ
サナブリア ゾリッチ
エステチェ MF チルコビッチ
エンシソ オグニャノビッチ
モリニゴ MF ストイコビッチ
ロブレス チャカル
ガビラン トロボク
M.カセレス FW ボグダノビッチ
フェレイラ:58分
(ロブレス)
クエバス:58分
(M.カセレス)
エステチェ:73分
(エスピノラ)
アマリージャ :81分
(モリニゴ)

セラジャ:86分
(イサシ)
交替 28分:クリボカピッチ
(ストイコビッチ)
HT:ステバノビッチ
(クラリュ)
HT:ディビッチ
(チルコビッチ)
58分:ドゥディッチ
(オグニャノビッチ)
65分:ジブコビッチ
(ドミトロビッチ)
82分:ラジェノビッチ
(トロボク)



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