8月26日


シドニー五輪ヨット代表壮行会
(都内ホテルにて)

 ヨットのシドニー五輪代表選手壮行会が開かれ、アトランタ五輪470級(「よんななまる」と読む)銀メダリストの重 由美子(34歳)、クルーの木下アリーシア(33歳)(ともに唐津・玄海セーリングクラブ)ら代表選手10人が会見も行なった。重・木下組は、アトランタ五輪で銀メダルを獲得後、一線級からの引退を表明。コンビを解消し、お互いに別のパートナーと乗っていたが、重が98年にカムバックし、パートナーが体調を崩したことから木下に再度声をかけてコンビ復活。世界大会で代表枠を獲得する5位となり、今回も代表を決めた。

「ここでも日本叩きか……」

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 ノルディックスキーのジャンプ、複合競技など日本選手が上位を占めるように勢力地図が塗り替えられた途端、それを阻止しようとルールが改正される。しかも日本選手にとってはほぼ改悪とも言える露骨なケースが多い。今回のヨット、女子470級でも同様の根を持った改正がシドニー五輪から適用され、重・木下組には大きなハンディとなる。

 改正にはいくつもポイントがあるが、なかでももっとも簡単で実感しやすいのは、ウエイトの問題だろう。
 従来はウォータータンクと呼ばれるいわば水のオモリを背負い、舟の重量を重くすることが可能だった。どういうことか。
 日本選手は海外の強豪に比べれば体重がはるかに軽い。この辺りはほかの競技でも同様だが、海面で強い風を受け、また荒い潮流にヨットを操ることを思うと、重量が軽いことはバランスを取る上で圧倒的に不利な材料になる。身長150cmの重が木下と組んだ理由は、デンマーク人の母を持つ木下の体格の良さ(175cm)と敏捷性にあった。それほど体の占める割合が大きい。
 重、木下2人の体重の合計は118kg(重49kg、木下69kg)。これは海外の強豪の平均125kgよりも7kg軽いことになる。従来はこの7kg分を埋めるために、1人3kgと制限されていたタンクを背負い、つまり6kgの上乗せをすることによって、体重のハンディを埋めていたわけだ。

「98年に復帰してからは細かなルールの変更で、これまで使っていた詳細なデータすべてがゼロになりました。コンビが一緒でも、まさにゼロかそれよりも下からのスタートになってしまいました。なかでも、私たちに一番辛いのがタンクを背負えなくなったこと。7kg軽いヨットのハンディは少なくない」
 世界的にも風を読みきることにおいては右に出るものがいないといわれる重も、さすがに体重ばかりはどう対応もできない。

 しかしクルーの木下は食べて食べて、それでも6kgやっとの思いで増やして118kgまでこぎつけたというから大変な苦労である。木下も言う。
「これでも体重を増やしたのですが。みなさんは前回銀メダルを取ったのだから、と思われるかもしれませんが、今回は本当に以前のデータも使えないし、そういう意味ではまだまだのレベルなんです」
「いじめというのか、まあ仕方ないでしょうね。与えらる条件の中でやるのがスポーツでしょうから」
 重の静かな口調に、むしろ闘志がうかがえた。資金の調達から苦心し、アトランタ五輪での報奨金、寄付金、講演活動で得た収入は一切使用することなく、すべてヨットのために貯金して復活。ルール変更などには泣き言などこぼしているような競技者ではない。
 入賞は確実視される実力だが、メダルへの最後の一押しへの調整はまだまだこれからである。

「瀬戸内海をもっと厳しくしたよう」

 シドニーは、近年の五輪とは大きく違い、外海ではなくて内海で行なわれる。このため複雑に入り組んだ地形の中で、風向がまったく一定せず、しかも限られた場所だけに風が通り抜けるという最悪のコンディション。重によれば、瀬戸内海の潮流、風向をもっと厳しくしたものに等しい、という。
 ミストラル級の今井雅子は、「例えば高速道路を走っていて片方の車線は大渋滞、でももう1本の車線はスイスイ流れていく、それくらいの違いがある」と表現するが、もしスタートで、殺到するコースに入れなかった場合、取り返すのは極めて難しいものになるといえる。

 また使用する海面コースが4つあり、小さい入り江のために周回を何度もする。プロでもこうした周回でトップ争いをすれば、混乱して「あれ? 何周目だっけ、と焦りました。本当に集中していかないととんでもないミスを犯すことになります」と、かつてシドニーでレースをした木下も強調する。
 集中力と、非常に狭くこみいったポジショニングでスタートする詳細な技術を持ち得ないと上位に入るのは難しい。
「展開が非常に早いレースになるので、積極的に積極的に攻めていくセーリングを心がけたい。それと最後まで諦めないこと、自然から学ぶ姿勢を忘れないこと」
 重は勝負の分かれ目をそう説明した。
 ヨットは1日にシドニー入りし、17日のミストラル級から競技がスタートする。

    ※今回からこれまでにない「支援用のサポートボート」の使用が認められる。船には各国の役員が乗ることができ、スタートまで、風向、潮流、セールのカーブや、ヨットのスピードなどの微調整への助言、備品の調達、補充なども可能になった。重・木下組は、「微調整などは、自分たちではわからずにどんどん落ち込むこともある。その点で大きな支援になる」と期待していた。

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