8月6日


NFL公式プレシーズンマッチ
ダラス・カウボーイズ対アトランタ・ファルコンズ
(東京ドーム、午前11時キックオフ)

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 6日、NFLの公式戦、ダラス・カウボーイ(昨季NFC東地区2位)対アトランタ・ファルコンズ(西地区3位)のプレシーズン・マッチが東京ドームで行われた。ターンオーバーを連続するファルコンズに対して、フィールドゴールで先制したダラスだったが、第3クオーター、ファルコンズのTDで逆転されて9-20で敗戦、フィールドゴールのみに終わりタッチダウンをあげることはできなかった。また、NFLのプレシーズンマッチツアーのエキジビジョンのひとつで、日本からも河口正夫(27、立命館大コーチ)、板井征人(29、鹿島)、安部奈知(30、リクルート)3人も一連のキャンプから参加して出場機会を得た。

ファルコンズ、リーブスヘッドコーチ「勝利を収めたことは良かった。しかしターンオーバー、ペナルティの多さはネガティブな面だ。また相手のDFは良かった。ただ全体的にはいいパフォーマンスだと思う。(日本の安部について)わずか10日のキャンプで加わったのに、いいプレーを見せてくれた。30歳という年齢は大きな問題で、もう少し若ければNFLに送り込むことも可能だった。しかし、すばらしい選手なのでNFLでロースターを争う力は十分にある」

カウボーイズ、カンポヘッドコーチ「いい試運転になった。ターンオーバーが多く何とかしなければならないだろう。確かに若く経験の浅い選手が集まっているが、言い訳はできない。TDがなかったが、フィールドゴールがあったことを喜ぶべきであれだけプレッシャーのかかる状況でオフェンスがよくがんばった。課題はとにかく、ペナルティとターンオーバーだ」

「肉体が軋む音」


撮影・KM
 ゲーム中、止まることのないチアガールの華やかなダンスも、アナウンスも、マスコットのコミカルなパフォーマンスも、コマーシャルも、すべてこの「音」を隠して、まるで何も起きていないかのように「中和」してしまうためにあるのではないか。この競技を見ていると、そんな錯覚にとらわれる。

 もし、このような「外野」での華やかさをもって「中和」という作業をしなければ、まともには正視できないような肉体と肉体のぶつかり合い、防具とそれぞれの骨や関節がどんな競技でも決して聞くことのできない、「ガシ」っと低い音でうめく瞬間は残酷ですらある。すべての鳴り物の応援を止める「音を楽しむ日」は野球にはできても、フットボールではできないだろう。あの鈍い音とともに、フィールドを去る選手が続出するシーンを目の当たりにしては、とても「楽しむ」という感情にはなれないからだ。

 身長180センチ、体重105キロ。この肉体を「NFLでは非常に小柄」と呼ぶことに、サッカーやそのほかの競技でフィジカル、と普段何気なく使っている言葉にもステージというものが存在することが分かる。

 この小柄な選手は、この日出場機会を得た日本の3選手とほぼ同じか、それよりも小さいかもしれない。LBのダット・ウィン(24)は、肉体があまりにも圧倒的な表現力を持った中で異彩を放っていたように見える。


撮影・KM/中央がダット・ウィン選手
 ベトナム戦争が終わった年、ボートピープル(難民)で流れついた両親の間に、難民キャンプで生まれた「ベトナム2世」である。かつて母国を壊滅的な状況にした相手の国で生まれ、育ち、フットボールを親しんだことで米国では昨年ドラフト3順目で入団した際にも大きな注目を浴びた。両親がともにアジア人である初のプロとしても注目を浴び、2年目の今年はスターターに名を連ねることになりそうだ。テキサス農工大では、勉学でもフットボールでも大きな成果を上げ賞を取った。「ぼくは、すべてを失った両親がぼくを命をかけて守ってくれたことに感謝しているしアメリカ人としての誇りを持ち続けることができたことにも感謝している」と、口癖のように話すスポーツマンである。

 この日は第1クオーターでピンチに見事なインターセプトを見せた。カンポコーチも「彼は私が想像したよりもすばらしい潜在能力を持っている。きょうはすばらしいプレーをしたし、プレーを読みきる力、勘が鋭い。一言でいってクレバー」と絶賛をした。試合後、会見に登場したウィンはやはり一際「小柄」だった。しかしアジア人として私たちと同じ髪の色、同じ色の瞳、そして思慮深く控えめな語り口には不思議な存在感というものがあった。

「インターセプトの場面は、たまたま手を出してみたら、ボールが飛び込んでくれたんだ、非常にラッキーなプレーだと思う。2年目の今年は大きなチャンスでもある。自分で自分の力に期待をしているし、どんな努力も惜しまないつもりだ」

 ラッキーなどではなくて、相手オフェンスの前に体をしっかりといれてのカットだ。その後隣にいたLBのハンブリックに即座にパスを渡して彼を走らせたプレーも2重に冴え渡った。読みの鋭さをコーチがこのプレーで見て取ったのも間違いがない。

 また、ともに10日間のキャンプを過ごした河口について、「目立たないけれどもいい仕事をしていたと思う。ぼくと同じような体の選手だけれども、彼にもチャンスが巡ってくることを祈っている」と口先ではない、コメントを寄せる。

 ベトナム2世という響きだけに引かれるのではない。おそらくアジア人にとって、黄色人種にとって圧倒的に不利と言われるこの競技に頂点においてプロになったウィンには様々なものが投影できるのではないだろうか。身長2メートル、体重110キロもの肉体に混じるアジアの血。軋む肉体の中にあってしなやかな思考と精神。遠く離れたアジアから、ウィンの2年目のシーズンを見るのも悪くない。

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