8月3日


CAS仲裁審理、千葉すずの訴えを却下

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 シドニーオリンピック女子水泳女子自由形で日本代表になれなかった千葉すずが、CAS(スポーツ調停裁判所、本部スイス・ローザンヌ)に対し、日本水連の選考基準が明確ではなかった、自分を代表に選んでほしい、と訴えていた件について、この日、CASは都内のホテルで千葉、千葉側の弁護士、日本水連専務理事、水連側の弁護士から聴聞をし裁定を出した。これによると「選手を平等に扱っていない」「(自分の)選考漏れは不当だった」とする千葉選手の訴えは却下された。ただし、日本水連の選考方法については選手に十分に説明がなされていたとは思えないと、水連の選考基準については改善を求める裁定を下した。この仲裁審理は控訴審ではないためこれで終了し、千葉選手のシドニーオリンピックへの出場はならなかった。なお、CASは日本水連に対し、今回の審理に際し千葉が負担した費用の1万スイスフラン(約65万円)を千葉に対して支払うことを命じた。

千葉すずの会見より

 まず初めにこんばんは。お忙しい中、お越しいただき、本当にありがとうございました。気持ちの上でまだ整理ができていないのですが、お話しようと思います。

──今回の裁定の結果をどう受け止めているか?
千葉 CASが公正な判断を下したと思う。

──あなたにとっては不利な裁定になったわけだが、どのような点が公正だったと思うか?
千葉 急な決定なので……。とにかく公平に判断して(裁定を)下していただいたと思います。

──今回の訴えで何を主張したかったのか?
千葉 今後、スポーツ界を支えていく若い選手たちがスポーツに対して夢を持っていられるようにしたかった。

──その後輩たちのことを考えてのことと、まず自分が五輪に出場したかったということと、どちらのウエイトが大きかったのか?
千葉 まず、オリンピックに出たいという自分のために、その次にそれが今後につながればというふうに考えていました。

──今回の仲裁審理をやってよかったと思うか?
千葉 とにかく、すごくたくさんの方に応援していただいて、支えてもらった。そのことにはすごく感謝しています。

──自分の思っていたことはすべて主張できたか?
千葉 はい。自分にある力のすべてを(調停に)ぶつけました。

──これでシドニーへは出場できなくなってしまったが、今後はどうしたいか?
千葉 今、一仕事が終わったところです。まだ、終わったばかりで、落ち着いて考えることはできません。引退などもまだ考えてはいないです。

──今、水連に対してはどういう気持ちか?
千葉 今日、同じテーブルに座っていただいて、話し合いに出席していただいたことはありがたいと思っています。

古橋会長のコメント(抜粋)「我々は選考を公正適切にやっており、間違いはないという確信を持ってきた。私も10年会長をやっているが、その都度、公正であることを考えて選手を選んできたので自信を持っていた。女子は決勝進出8位まで、男子は16位までのランキングということを当てはめた。実力で判断しただけのこと。最終選考会の記録だけを見て、その前の記録などを入れたものではまったくなかった。もちろん、戦える記録であれば選んでいたに違いないだろう。
(適切と強調しているが、CASは適切ではなかったと言っているが、との質問に)人間のやることですからすべてが100%完璧ということではないかもしれないが、落ち度はなかった。
(責任を感じているかの問いには)責任とは、どういった責任ですか……。千葉に対しては、水泳をここまでやってきた経験を生かして、立派な社会人になってほしいと思う」

「CASの判決についての解説」

 これまでCASが扱った事例で選考について選手側が勝訴したものと、今回の千葉選手の件では提訴内容そのものが違っていた。
 CASがその「違い」をどう決着させるか、それがもっとも注目される部分だった。これまでの例では、連盟、あるいは協会が選手に内定、または内定に類似した約束ごとを交わしていたために、「公約の不履行」という形で選手側が勝訴している。今回の千葉選手の件では、選考基準そのものが最初から問われるという、CASにとっても例のない判決を下す結果となったのではないか。
 判決自体は、裁判所の決定とは違う「仲裁」の意味合いの濃いもので、チームには戻れないが、しかし水連にも落ち度があった、とする両成敗的な、双方へのバランスをとった形である。
 水泳連盟の「全面勝訴」ではなく、「部分勝訴」である。

 まず、指摘するのはCASが連盟が選手を選ぶ点については裁量権を認めるという姿勢である。世界中で行われる代表選考について、アメリカのようにオートマチックに1位から3位(種目で違う)を選ぶ形をとる国もあれば、代表選考会を開かずに選手を選ぶ国もある。実際には、千葉側の主張のような一発オートマチック選考の方法は主流とは言えず、もし今回の水連の選考方法までに異議を唱えた場合、この判定がほかの国の選考全体にもたらす影響ははかり知れないものがあったからだ。
 仲裁はしても「内政干渉」には踏み込まない、その姿勢を明確にしたものである。
 しかし一方では、水連の「告知義務」については、選考基準を選手全員に明確に説明していなかった、という点は「適切ではない」とした。
 水連がこの日提出した証拠は今年コーチに対して告知されていた「世界で戦える(これを決勝進出が可能な8位とこの日説明された)」選手を選ぶ。A標準突破だけでは必ずしもつれてはいけない」という雑誌、議事録、さらに「選考基準はなんとなく知っていた」と会見で話したテープなどが含まれていたという。
 対して千葉選手が提出した証拠は27。双方実に60にも及ぶ主張が討論された結果、当初の予定とされた1時間程度の聴聞ではなく、6時間に及ぶ検討がされたわけだ。こうした検討姿勢自体が、日本のスポーツ界の選考全体に与えた認識を今後形にしていくべきだ。
 そして、今後、選手の「異議」というものを吸い上げる機関を早急に設置する必要性もが問われたことが、競技団体、JOCの将来に向けてはもっとも重要な視点となった。

 千葉選手の今回の提訴、日本選手で初めての意味をスポーツ界は高く評価するべきで、もっとも願っていた五輪出場は叶わなかった以上、本人の気持ちは慮る必要はある。しかし、負けたものではまったくない。むしろ、ある部分では「勝訴」したともいえる。
 水泳連盟に限らず、どこの競技団体も、アカウンタビリティ、情報の開示、広報姿勢を問われる。古橋会長は会見で、「すべて適切だった」と話したが、「適切ではなかった」からこそ、CASが一文を加えたことを、せめて「落ち度はあった」と認め、もっと謙虚に受け止めればいいのではないか。今回の件は勝った、負けたの問題ではないのだから。
 そして千葉選手には是非とも泳ぎ続けてもらいたい。世界選手権は、来年日本で開催される。


サッカー日本代表発表
(東京・日本サッカー協会)

取材・田中龍也

 日本サッカー協会はこの日、8月16日、広島ビックアーチで行われるUAE戦に出場する日本代表22人を発表した。メンバーは以下の通り。

    GK
    楢崎正剛(名古屋)、曽ケ端準(鹿島)
    DF
    服部年宏(磐田)、森岡隆三(清水)、宮本恒靖(G大阪)、
    中澤佑二(V川崎)、中田浩二(鹿島)
    MF
    森島寛晃(C大阪)、望月重良(京都)、三浦淳宏(横浜)、
    奥 大介(磐田)、明神智和(柏)、中村俊輔(横浜)、
    稲本潤一(G大阪)、本山雅志(鹿島)、小野伸二(浦和)
    FW
    西澤明訓(C大阪)、久保竜彦(広島)、平瀬智行(鹿島)
    柳沢 敦(鹿島)、小島宏美(G大阪)、高原直泰(磐田)

詳しいリストはこちら
http://www.jfa.or.jp/CGI/top/top.cgi?key=pick&0=689

以下はトルシエ監督の会見

 こんにちは。この時期というのは、物事がまた再開していく時期だと考えています。私自身も休暇を取らせてもらい、こうしてまた日本に戻ってきました。今の時期、そしてこれからの時期はとても大切なものだと思っています。私の休暇のことですが、日本の協会と話し合いの上でもともと決まっていた休暇だということをここで申し上げておきましょう。協会の方々はみなさんそうした状況をよく知っています。

 今、この時期というのはたいへん大切な時期であると同時に、重要で決定的な時期であると考えています。というのも、私たちはこれから2つの大きな目標というものを持っているわけです。その1つはオリンピック、もう1つがアジアカップ、そしてこの2つもまた2002年のワールドカップに向けてのプロセスの中へと位置づけられるものです。

 この重要な時期においては、日本中のみなさんのご支援、そしてサポートを必要にしています。つまりサッカー界のみなさんをはじめ、サポーターのみなさん、そしてメディアのみなさんにもご支援、サポートをいただきたいと思っています。こうしたサポートを信頼という形でもらうことによって、選手全員にとっても自信につながるわけです。また選手のパフォーマンスに直接関わってくるスタッフにとっても、そうした支援の環境が整っていることを感じることによって、選手たちに対し全面的に自分たちの自己表現ができることになります。

 もちろんこの時期においてはしっかりとした組織、そして規律を持ってすべてに対処していくことも必要です。それによって、自分たちの資質を信じ、志を大いに抱えて、オリンピック、並びにアジアカップに向けての挑戦をしていくわけで、その際には確固たる意志を持ってベストを尽くすということ、そして最高の結果を持って帰ろうという強い意志が必要になります。

 今日これから発表するのは22人の選手のリストになっています。今回はフル代表の調整試合ということでのリストになっていますが、もちろんいくつかの考え方に基づいて選考がなされています。その第1点は、やはりオリンピックへ向けての調整、並びにアジアカップに向けての調整ということ。第2点としては、全体的に戦術的な問題からバランスの取れた人員と言え、私の考えているいくつかの問題点にもちゃんと対処ができるような選手構成であり、選手同士がお互いに補えるような選考にもなっているということ。全体的にどのような戦略で行こうかということ、つまりスタメンとしてどの選手を配置し、控えにどの選手を配置することで、どのように試合の流れを持っていこうかということ、そうしたことも考えながらの選考になっています。それと同時に心理的に最高のパフォーマンスが出るような形での選考リストと言えるでしょう。

 そしてもうひとつ、第3点目の目的が今回の選考にはあります。それは、せっかくハッサン2世カップ、キリンカップでみんなが得た自信、その自信によって出てきた力強さ、というものを壊すわけにはいかないので、今、保たれているバランスを大事にしながらの選考になっています。選手たちがつけた自信によって、新しいステップ、そして新しい道のりへと、今後みんなが動いていくことができるわけです。そして選手にとっても今後は新しい責任を果たしていくことができるものと考えています。

 8月16日のUAE戦ですが、まさに私が言ったようなことを考えながら、選手たちは戦っていくことになります。UAEというのはアジアのチームです。しかしオリンピックにも、アジアカップにも参加がかなわなかったチームでありまして、そんなことからも対戦を引き受けてくれたわけです。このUAEは、監督が新しく替わったばかりです。その監督というのはアンリ・ミッシェル──誰もが知っているフランス人の監督で1984年のオリンピックではメダルを取り、1986年のワールドカップでは3位という成績をフランスにもたらした──であり、まさにベテランの“狐”と言っていい、そのくらいしっかりとした監督だということが言えるでしょう。このUAEのチームは、対戦前の今、3週間ほどフランスのナントで合宿を張っていまして、8月8日には親善試合をこなすというスケジュールを組んでいるようです。となると、UAEは大いにモチベーションは上がっているでしょうし、選手も新しい監督に対し自分たちのポテンシャルを認めてもらうためにベストを見せたいと思っていることでしょう。

 そんなことを考えると、私自身も、トータルに求めているものがこの対戦で得られると、とても大事に考えています。これによって、引き続き、私たちがこれまで行ってきた練習、並びに訓練というものをもっと詳細に詰めていくことができるでしょうし、また自信をつけていくことも必要でしょう。と同時に、もっとアグレッシブに、オフェンシブに、このチームを作っていけることでしょう。

(ここでリストが発表される)

 ご覧いただければわかる通り、オリンピック世代が13人、オーバーエイジ世代が9人入っています。オリンピックチームということになると、オリンピック世代プラス3人のオーバーエイジで構成されるわけで、13人プラス3人のほか、松田(直樹、横浜、故障により今回は離脱)と中田(英寿、ASローマ)が入っていないことを考えると、このチームに(五輪出場予定選手の)90%が選ばれているということになります。もちろん残りの10%はお楽しみ、ということになるのかもしれませんが、ほとんど全員が入っているということになります。

 オーバーエイジが9人といっても、名波(浩)や城(彰二)が入っていないことや、中山(雅史、磐田)もカズ(三浦知良、京都)も入っていないことを考えると、フル代表は全体的に世代というのがしっかりと混在していると思います。つまり、フル代表というものを考えた場合にも、そのうちの16人がこの中に入っているということになりますので、90%はこのメンバーから構成されていると言えるわけです。

 またハッサン2世カップに出場した選手も13人いて、その力強さというものも保持できています。そしてキリンカップに出場したのは16人いるので、あの力強さも保持できています。つまり力強い素地というのをしっかりと確保してパフォーマンスに望める状態になっています。

 また真の意味で新しいものがあるならば、それは曽ヶ端(準、鹿島)が入っていることでしょう。オリンピック世代としては彼の力強さに疑いはないわけです。彼は常に私の大事な選手の1人にずっと入っていたわけで、過去の合宿にも彼は入っていました。ただ1つハンデがあるとすれば、(Jリーグへの)試合出場があまりないということがあるかもしれませんが、サテライトの試合でそのあたりは補えるものと思います。

 それからまた今回の欠席メンバーというと、とくに伊東(輝悦、清水)、中山、カズがあげられるでしょう。今回の試合としての構想、そして(選手間の)競走というものがあり、今回は何を優先順位に持って試合に臨むかということを考えた場合、伊東の代わりに明神(智和、柏)が、カズと中山の代わりに平瀬(智行、鹿島)と小島(宏美、G大阪)が入るという形になっています。

 3人の欧州組の選手のことになりますが、その中の名波、城は、現在は所属クラブが決まっておらず、さがしている最中ということです。もちろん私としても常に彼らと連絡はとり続けていますし、彼らへの手伝いもできる限りしています。彼ら自身としてもいろいろな条件でのトレーニングをしている最中ですが、現時点では心理的にもフィジカルにもフル代表に入ってくる状況ではないでしょう。

 中田ですが、現在彼は所属クラブにおける調整中です。リーグ戦は9月1日まで始まらないとはいうものの、8月16日はフランス代表チームと戦う世界選抜チームへの出場を彼は要請されているということで、私もその出場を望んでいます。中田が世界選抜に入るということは、日本の成功というものを象徴するものだと思っていますし、そのことが私たちをもっと大きな志へと向かって引っ張ってくれるものと考えるからです。

(以下は質疑応答)

──監督が休暇中にクラブとのトラブルがあって所属チームが変わった望月(重良、京都)について、監督はこの件をどうとらえているか。また望月をどう評価し召集したのか。そしてもう1点、ケガが続いている小野(伸二、浦和)について、(五輪代表候補の)合宿で見て、現在の彼の回復具合と召集した理由を聞かせてほしい。

トルシエ まずこの2つの質問について答える前に、選手のフィジカルな状況について言うと、全体的に中庸だと言えます。やはり暑さによるものもあるでしょうし、スケジュールの問題もあるかもしれません。リーグ戦もだいたい3分の2が終わっているわけですが、選手たちはたいへん疲れていますし、なにかしらの故障を抱えています。オリンピックを控え、そういう現実はあります。ただ、いま小野の話が出ましたが、彼が一番フレッシュな状況にあるんですよ。小野にはいろいろな故障があったという経緯はありますが、その分、試合数も多くなかったし、フィジカル的に見ても精神的にもプレーができる状態にあります。

 リーグ戦の最中にメディカルチェックをすれば、9割方の選手が腰や膝などになんらかのちょっとした問題を抱えているものです。しかしそういったこともしっかりと管理ができる状態になくてはならないのが、代表チームとしての務めです。そのためにメディカルやフィジカルのためのスタッフがいてくれるわけで、そうした優秀なスタッフで48時間後には問題点を治してくれるようになっています。小野にしてもずっと故障の残りがあったかもしれませんが、トレーニングで見てもらったようにいい状態にあります。

 望月については、彼は代表チームをしっかりと支えてくれる重要な選手と考えています。私が代表チームを構想するとき、マルチにポジションが取れる選手を考えます。その意味でも望月を大切な選手として見てきているし、彼には大きな経験もあります。クラブとの問題で1月ぐらいの間、試合をしなかったそうですが、そのことについて100%知り得ていませんし、そういったことについて判断をする立場でもありません。私にとって大事なのは彼が所属するクラブが見つかったということです。大岩(剛)についてはまだクラブが決まっていないということで、代表チームに加わるためにはハンディを抱えているという状態です。ただ、フランスにもこういった問題というのはありました。例えば、アネルカが同じような経験をしましたが、それでも彼はヨーロッパチャンピオンになりました。だから彼らにもアジアチャンピオンになってもらいたいです。

 もう1つ付け加えますと、先ほど選手たちのフィジカルが中庸だと言いました。でも、戦術面、オートマティズム、コミュニケーション、そして一緒にやっていこうという意志の強さは、100%のものを見ることができました。また一緒になって嬉しいという感じが見えていましたし、本当の意味でのチームワークというものがしっかりと出ていました。フィジカル──体調という意味では万全ではなかったかもしれませんが、全体的な意味では昨日、一昨日の(五輪代表候補)合宿は成功だと言えるでしょう。そして私も彼らを見て安心しましたし、もっともっと上を目指そうという気持ちになりました。

──契約更改について、公的な発表がない中、諸説乱れ飛んでいるが、監督の話せる範囲で聞かせてほしい

トルシエ 岡野会長からもお話があったが、交渉は始まっています。岡野会長を通して、日本サッカー協会から公式に私の契約を更新していきたいという提示をいただきました。私としても、協会と意志を供にしたい考えていますし、交渉は続いています。私の側からは代理として弁護士が、協会の担当者、弁護士の方と契約の詰めを行っています。両者にとってきちんとした条件設定をし、また言ってみればこれは監督と協会との結婚になるわけですから、両者の結びつきが強いものになるように、そして強い力とエネルギーが出てくるように、話し合いが行われているわけです。また、交渉の中には、選手選考についてや、代表チームのスケジュール、そしてインターナショナルなスケジュールとの調和を持った、年間スケジュールというものを見つけないといけない。そしてまた、対戦相手の選考の問題についても……。つまりありとあらゆる意味において、ワールドカップに向けて真の力強さというものが生まれていくような、そうした形での契約条件というのを設置していきたいと思っています。そしてそのことについては、今日、なんの心配もしていません。少なくともシドニーに向かう飛行機に乗る頃には、みなさんにももう少しいろいろなことがわかるようになると思っています。

──現在の監督からの要求、またオリンピック、アジアカップの成績いかんでどうなるというような付帯条項はあるのか?

トルシエ こうしたことはかなり微妙な問題になります。例えばオリンピックでかなりいい成績を残せた場合、アジアカップへのパフォーマンスに影響が出てくることが考えられます。経験から言って、大きな大会をこなし、ものすごく喜んだり、大きな目標に到達したあとというのは、そこで集中力が切れてしまうことがあるわけです。ですから、今の五輪代表の選手をフル代表に混成していった形でアジアカップに臨むかどうか、今のところは言えません。現在のところ私自身40人ぐらいの選手をずっと見ていきたいと思っています。それによってこの2つの大会をどのように戦っていくか、頭の中に描いています。例えば2つのまったく違うチームを作ってやった方がいいのか、などとも考えています。それ以上は、今のところは何も決めていません。

──五輪合宿について、オーバーエイジの選手を加えてみての感想は

トルシエ いつもの繰り返しになりますが、オーバーエイジを必ず使わなくてはならないとかいうことは一切なく、FIFAルールで認められたオーバーエイジの出場枠をうまく活用できるかということに尽きるわけです。オーバーエイジというルールがあった上で、私自身もチームを深く掘り下げて分析することができます。私の考え方としてはあくまでもチームバランス、そしてオーバーエイジを入れることによってチームの質として上がるのならば、使っていこうということです。現在はそれを評価中でして、そんなことからも、今回のオリンピック代表候補の合宿に4人呼ばせてもらいました。また、今回のUAE戦でも全体のバランスを確認していこうと思っています。8月23日に(五輪に向け)最初のリストを提出することになっていて、9月1日にはFIFAルールに基づくオフィシャルなリストを出すことになっています。それまでには十分まだまだ、パズルの組み合わせを試す時間はあるということで、入れるか入れないかを決めていこうと思っています。

 今回呼んだ4人のオーバーエイジ選手のことですが、森岡(隆三、清水)はちょっと故障していたのでフィジカルな意味では彼は練習には加わりませんでした。でも精神面で、きちんと参加していてくれました。全体的にマヨネーズのようにみんなを混ぜていくことはたいへんうまくいっていたと思いますし、オーバーエイジの選手たちの人間的な資質を考えても、また私がやろうと思っている方針に対しても、しっかりとくみ取ってくれました。そしてとてもいいパフォーマンスを見せてくれていましたし、これからも見せてくれるものだと思います。まさに彼らの態度は模範的なものであったと保証できます。

 あの、マヨネーズというものは日本ではチューブに入っているものだと言われてしまったんですが、フランスの場合は卵と油を自分で一生懸命かき混ぜて作るのです。しゃぶしゃぶのときに肉をソースに混ぜますよね? そのようにグジュグジュと混ぜるということをうまく言いたかったんです(笑)。

──強化推進本部の組織の改編があったがそれに対する印象は。それと10月までのスケジュールの調整にはどの程度満足しているのか

トルシエ まずスケジュールのことですが、このスケジュールは降って沸いてきたものではなく、あくまでも長い構想を練って出てきた結果です。私自身はとても満足しています。8月末に体力の回復と最後の微調整のためにオリンピックのチームが合宿を組むことが決まっていますし、フル代表の方も9月中旬ぐらいから調整準備に入ることが決まっています。私自身もそういったことについては感謝しています。それからいくつか親善試合も予定されていますし、そうした準備という意味では順調にいっています。

 それから強化推進本部についてですが、木之本(興三、日本サッカー協会常務理事)氏が責任者になったということで、私の方にも信頼のメッセージをいただいたし、サポートをしていただくということで「I support you.」というお話をいただいています。岡野会長のご意志のもとに、代表監督をサポートし、この国としての取り組みをみんなで一緒に信頼と自信をもってやっていこうと、その中では物事を自動的に決めるのではなく、きちんとコミュニケーションし、みんなで必要なことを要求しあいながら詰めていこうと、たいへんポジティブなメッセージをもらいました。

──この代表チームのメンバーは問題点にも対処できるように選んだと言ったが、問題点とは何か。そして、UAE戦のあとに五輪代表の準備試合としてモロッコと対戦することになっているが、モロッコは以前、現UAE監督のアンリ・ミッシェルが監督していたこともあり、同じような傾向のチームなのではないかと思えるが、それについては

トルシエ フル代表についての問題ですが、問題と言ったら言い過ぎかもしれません。今は選手のポジションなどを確認試合ながら、チームを作り上げていく段階にあります。そんななかでより優秀な選手を、よりバランスの取れた方向へと、最良なものを求めている段階です。私、代表監督としての問題点としますと、せっかくの力強さというものをしっかりと維持していきたいということ。そして選手間の競走を維持しながら、ほかの選手に対しても門戸を開いてもいたいです。代表チームとしては、ハッサン2世カップ、キリンカップで、たいへんいい時期を超えてきました。そして今度は中田が世界選抜にも選ばれたということあります。そういう意味でも日本は今たいへんいい時期にあると言えます。あまりにもいい時期であるからこそ、逆に問題点も探してしまう、ということもありますが、もっともっといい方向に持っていきたい、と考えているわけです。

 なぜUAE戦なのかということですが、あまりにも選択肢がなかったわけです。ほかには南アフリカか、ナイジェリアかということでした。アンリ・ミッシェルがモロッコを率いていたことがあると言われましたが、私自身も南アフリカ、ナイジェリアを率いてきたこともあります。私自身と対戦する気もなかったわけです(笑)。

 もう少しまじめに答えますと、南アとはオリンピックで対戦することが決まっているから今回対戦する気はありませんでした。ナイジェリアとの話し合いはスピーディには進んでいませんでしたし、私の頭の中ではナイジェリアが来ることになったとしてもしっかりとした本当の代表を連れてこないだろうということもありました。協会に無駄なお金を使わせてしまってはいけないと思ったわけです。

 そこで残ったのはUAEで、監督も知っていますし、きちんとした代表を連れてきてくれることを監督が約束してくれました。新しい監督のもと、選手たちのモチベーションは高いでしょうし、対戦する意識のあるチームが今は必要だったのです。

 それと同時に対戦相手としては、選手に対してプレッシャーがかかりすぎるような相手にはしたくなかった。この時期というのはリーグ戦の最後の時期でもあり、暑い時期でもあります。ということで、いたずらに選手たちに心理的な負担をかけすぎてはいけないと思ったわけです。もちろん試合としてはたいへんになるとことが予想されますが、余計なプレッシャーを与えたくなかったのです。

 モロッコとの壮行試合ですが、五輪出場が決まっているさまざまな国に対し、公式な要請をしたのですが、すぐに返事がありまとめられたということで決めました。

 それからUAEとモロッコが似ているのではないかとの指摘ですが、国際的に見るとかなり違うと言うことができます。今、私は日本を率いていますが、同じ私が率いた南アもナイジェリアも、みんなそれぞれに違うものです。

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