7月24日


スペシャルコラム
「ボールゲームに未来はないのか」

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 男子バレーボールがポルトガルの世界最終予選の末、シドニー五輪出場への出場権を逃した。
 前回アトランタ五輪には出場しながら今回出場できなかった、いわゆる団体競技、ボールゲームは女子サッカー、女子バスケットボール、女子バレーボール、また連続で出場がならなかったのは男子バスケットボール、男女ハンドボール、男女ホッケー、水球、男子バレーと、男子サッカー、野球、ソフトボールをのぞくボールゲーム、団体競技は「全滅」というかつてない危機的な状況に陥っている。
 一体どうしてこうした事態になってしまったのか。そして関係者は、こうした敗因をどう分析するか。

 第一に、団体競技を行なう選手を直撃した国内の経済状況、それに伴う実業団スポーツの圧倒的な縮小傾向である。最悪ともいえるタイミングに重なったのは、アトランタ五輪以降の1996年から、こうした縮小、廃部傾向が坂を転がるかのように拍車をかけた点であろう。
「女子サッカー、女子バレー……これらは予選の最中から廃部、縮小の傾向が出された。結果(五輪出場)を見てから、と言うクラブもあり、ユニチカなどはその例ではないでしょうか。五輪に行ければ何とか踏みとどまろうという企業もあったかもしれないが、五輪を逃がしたことでまた一層、縮小傾向が激しくなるのではないかと頭が痛い」。JOC(日本オリンピック委員会)関係者はそう話す。
 新聞記事で「廃部」「解散」といった経過を追うだけでも、五輪出場権を逃がした団体にいかに集中しているかが分かる。バスケットは名門と言われた住友、NKK、三井生命、大和證券、女子でも大和証券、東芝といった強豪、バレーボールでも東芝、小田急、男女ハンドボールでも中村荷役、大崎電気、ジャスコらが撤退。女子サッカーにいたっては、リーグ運営する厳しくなる4チームの撤退となった。
 個人競技ならば廃部、縮小の中でも最悪の選択としてまだ移籍、個人スポンサーをつけるなど存続を模索することができる。しかし団体競技になれば、運営費からかさむ。女子バレーボールで一時代を築いたユニチカが約3億円から3億5000万円の運営費の捻出を苦しくなった点として挙げていたが、ほかの企業ならばそれが可能という状況は考え難く、まさに実業団スポーツ全体の危機がやって来たともいえよう。

「社を上げて、といったサポート体制が、長く日本のスポーツ、特に実業団スポーツにおける団体競技を支えて来たはずです。これが不況によって、なんで会社が苦しい時期にスポーツを、といった考えに転換している面もある。士気向上の手本は、いつの間にかリストラの最初のターゲットにされた。こういう時期だからこそ、根本的なサポートを見直すべきだ」
 1964年の東京五輪金メダル以来、もっとも輝かしい戦歴を残してきた女子バレーが敗れた際、バレーボール協会の幹部はそう嘆いたが、事実である。競技力うんぬんよりも、戦術よりも先ず、競技で生活が成立するのかどうかギリギリの場所で予選に挑まなくてはならなかったマイナス要因はバレーに限らずどの競技でも見逃すことはできない。
 その難関を打破した女子ソフトは、日本代表をグループとして常に育成してきた長期的なビジョンゆえになされた快挙だった。
 プロであればまだ救済措置はあるが、アマチュアとなるとこれも不可能である。実業団スポーツの根本的な構造改革が、団体競技の五輪での再生へのカギになるはずだ。

 別の側面もある。
「少子化でしょうか。やはり、どこも団体競技をやる絶対数が激減しています。ある程度のレベルからになると、野球、サッカーに大きく偏り、ほかのボールゲームを選ぶ子供が少なくなっている」
 生涯体育を司る日本体育協会(日体協)ではこうした側面を上げる。もちろん、すべてではないが、少子化のためにここ数年、団体競技の地域スポーツ団体における活動は減少の一途をたどっており、親たちの希望はやはりプロに直結する2大プロスポーツという選択になるのだという。人材の偏重が、かなり前からおきていることが、五輪を狙うようなレベルにまで有力な選手を確保できない一因である。
 しかしアマ野球も決して状況は良いわけではない。名門中の名門、東芝府中の解散を見るまでもなく、プロの参戦で歪んだ構造のまま4年後を迎えれば、やはりほかの競技と同じ結果にたどりつくはずだ。

 人材の確保と強化、という両輪がまったくうまく回転してない、それがこのかつてないほどの団体競技の不振につながっており、局面を打破できるとすれば、やはり実業団から協会、連盟主導の強化、あるいは地域、クラブ主導の運営に少しでも移行していくことしかないのではないか。あるいは規模は別としてもプロ化を進めるか、である。優秀な選手を競技、生活の面で保証しない限り、選手は黙って競技を去るしかないのだ。
「オリンピックにいけなかったことはショックですが、それ以上にもう競技が出来なくなるかもしれないという危機にいることにむなしさを感じます。4年後の雪辱もできないわけですから」。女子サッカーの代表選手はそう話していた。
 敗因の分析は重要である。しかし、団体競技が揃って敗退した今回については、戦術や指導者の問題だけでは片付けることができないという事実もまた、関係者には見逃して欲しくない。

 1996年のアトランタ五輪以降の4年で、実業団登録を抜いた団体競技を持つ企業は少なく数えても数十企業。残った企業は10年前のわずかに3分の1程度の数でしかない。

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