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女子マラソン代表の高橋尚子会見、現地取材 シドニー五輪女子マラソン代表の高橋尚子(積水化学)が、高地トレーニング中のボルダー(標高1,600メートル)で会見を行い、脚作りがようやくスタートしたこと、3,000メートル地点での超高地トレーニングに計画通り挑むことなど現状を解説した。小出義雄監督によれば怪我もまったくなくいい状態が続いており、このままで行けば……と話すなど師弟で五輪への揺ぎ無い自信をうかがわせた。 現在は体重が3キロオーバーしている状態だが、これを「あえて」そのままにするいわば減量禁止令が出されているなど、3人の代表の中でももっとも高い超高地にいるだけに、ユニークな調整も行なわれている。このままボルダーに残って、シドニーに入ることになっており、今後五輪まで取材などは一切行なわれず、五輪72日前、いよいよ後戻りのできないスタートラインに立った。 「幻の影を追いかけて」
日焼けした小出義雄監督の表情には嘘やごまかし、あるいはハッタリなどはない。単純な話ではあるが、平地で1キロを3分30秒で走れたとして、高地と呼ばれる1,600メートル以上の地点に上れば、同じ距離を走ってもこのタイムは出ない。しかし高橋はこの2日間、2,500メートルほどの地点で距離を踏み、予想をはるかに上回る記録を出すことができたという。監督自身は同走しようにも10メートルつくのがやっとだったと笑う。 実際、高橋がここボルダーで戦っているのは、史上最強といわれる女子マラソンのメダルを争うライバルたちとではない。まして、毎朝挨拶を交わし「火花が散っている」と監督がからかうシモン(ルーマニア、ボルダー在住)でもない。去年の自分である。
「今も、その日記を毎日開いては、ああこんなんでいいのかな。あの時に自分に少しでも近ずかないといけない、体重も練習量も全然ダメだ、と考えるんです。ライバルのことなど全然考えたことがないんです。でも昨年の自分には勝たなきゃ、って思うんです」 昨年、レース前に調整するロードでのタイムと今でも単純に比較すると4分も悪い。心の中では、昨年と同じボルダーに来て見ているのは、昨年の自分の影である。しかし、昨年の最高の出来だったはずの自分も8月上旬、足を痛めてからは影さえ消えている。日記を書くのは昨年の12月まで辞めてしまったからで、昨年の強かった自分をいくら追ってもスタートラインにはたどりつけない。そこに高橋の抱える矛盾と可能性両方がある。 「確かに昨年はあんなに良かったのに結局出られなかった。だから今回はどうすればいいのか考えているんですが、やはり昨年の日記を見ては監督に、こんなのでいいのですか、もっとやらなくては、と聞いてしまう」 いくら調子が良くて書き留めた日記でも、途中から4ケ月以上も白紙になっては意味がないのだということを、高橋はこの合宿で十分に知るはずだ。 言葉使いも人への対応も、今からじっと見て、折りに触れて「そんな風に人様に言うものではない」と注意することもある。 しかしこの人ならやりかねない。いや、絶対にやるのだと思ったほうがいいだろう。100%、マラソンだけに集中したいと言う高橋の希望で、会見はこれが最後となった。次に高橋が「公に」出てくるとすれば、それはシドニーでのレース前の会見になる。 |