7月2日


札幌国際ハーフマラソン
(円山陸上競技場発着、21.0975キロ、気温27.5度、湿度64%)

 シドニー五輪女子マラソン代表の高橋尚子(積水化学)が、五輪前としては異例でもある国内公式レースに出場し、1時間9分10秒で優勝を果たした。自己記録は1時間8分55秒だが、5月から米国ボルダーで練習を続けており実践練習で現状を正確に把握するのが目的。2位は、南アのエレナ・マイヤーで1時間9分53秒、3位は野口みずき(グローバリー)が1時間10分36秒だった。
 男子は、藤田敦史(富士通)とガギガ(NKK)がデッドヒートを展開。ゴール前200メートルでガギガがスパートをかけて1時間2分16秒、藤田は3秒遅れの1時間10分19秒で2位となった。

「マル!」

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 ゴールした高橋に向かって、小出監督は頭の上で大きな「マル」のサインを作った。それを見つけた高橋も、笑顔で「マル」を作って監督に返した。
「ヨーシ、カントクこれでご褒美ですね」
 レース前、監督の目標設定タイム1時間9分20秒をもし切ったら、何かご褒美でも、と監督と約束していたことを高橋は真っ先に口にした。
「お、覚えてんのか、仕方ないなあ、うまい寿司でも食いに行くか」
 体感気温が30度を越え湿度も北海道らしくなく60%以上、さらにレース中のにわか雨でさらに湿度があがる悪条件のレースさえ、この師弟にとってはまさに「練習の一環」に過ぎない。ゴール直後の他愛もない「日常会話」に、このレースの位置付けと現時点での目標達成の充実感が現われていた。
 1時間9分10秒という記録も、マラソン練習もまだ3〜4割程度で本格的ではない段階であることを考えれば十分な出来といえる。小出監督が予想していたのは9分20秒。これとわずかに10秒、しかも速くゴールに戻ったのだから、合格点も合格点、思わず安堵の「○」印が出たのだろう。

「きょうは、どこまで行けるか、まあ死んだら死んだで仕方ない。こうやって足さえ動かしていればいつかはゴールに着くんだからって。次の5キロは次の5キロの風が吹く、そんな気持ちで走りました」
 高橋はレース後、減量もまだ途中で(絞れていないために)ブルドッグと自ら表現するような顔を崩して、笑顔を見せた。
 実際の体重もまだベストよりは3キロも多く、米国での練習が積めた割には減量も成功はしていないという。また、小出監督が「12キロちょっとで沿道から見ましたけどね、足がもつれてましたよ」と評したように、高橋の本来の力と比較すれば筋力不足も明らかである。
 ゴール手前の上りではさすがに足が動かなくなり、レースの中盤でも腹痛を起こすなど、若干のアクシデントもあったという。しかしそれもこれも障害になるどころか、3月以来遠ざかっているレース勘を取り戻す手助けくらいにしかならなかったのかもしれない。
 しかし4割程度の状態でも、コースのスタートから下る5キロを、コース記録と同じ15分48秒のタイ記録で通過するなど「積極性」を存分に試した点は評価されるとともに、本人も「現在の課題」を見つける手応えを感じたはずだ。
 小出監督は「底力がついた。これだけの練習でここまで持ってこられるならば」と、満足そうだった。
「ボルダーにいるとどうしても練習ばかりなので、自分の正確な状態がわからない。きょうは、今まで何とかなる、と思いこんでいた練習が、実は何とかならないかもしれないぞ、と思える危機感みたいなものを得られたことが収穫でした」
 男女混合レースでのスタート直後の混乱も収穫になった。昨年は、転んで手首を骨折。以来、恐怖心を抱くこともある。この日もスタート直後、やはり混乱の中で押されて転倒しそうになったが、右手で女子選手、左手で男子選手の腕をつかんでセーフ。「もうワラをもつかむ思いで……(助けてもらって)ありがとうございました」と、頭をぺコリと下げていた。
 次のレースは9月24日、オリンピックとなる。札幌ではワラをつかみかけたが、シドニーでつかむのはもちろん、別のものである。
 日本でしばらく休養し、7日に再渡米する。

<短信 女子10,000メートル・川上優子が日本新記録>

 陸上女子長距離の川上優子(沖電気宮崎)が、1日、米国メイン州で行なわれた「ニューバランス・メイン陸上競技大会」10,000メートルで31分9秒46の日本新記録をマークした。従来の日本記録は、鈴木博美(積水化学)が96年にマークした31分19秒40で、これを10秒近く更新する好記録だった。川上は、ツル(エチオピア)らスピードランナーとともに前半の5,000メートルを15分33秒で通過した。
「シドニーでは(10,000メートルで)メダルを狙いたい」と話していたが、その言葉への意欲を裏付けるようなレースを見せた。シドニーには、弘山晴美(資生堂)、高橋千恵美(日本ケミコン、川上と同レースに出場し6位)の3人が10,000メートルに出場する予定で、トラックでは3種目の日本記録を持つ弘山らともレベルの高い30分台への競争が始まることになった。川上はあす3日、帰国する。

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