6月25日


女子バレーボール
シドニー五輪世界最終予選
(東京体育館)

日本 韓国
1 25 21 3
12 25
18 25
23 25

お知らせ

増島みどり著
『醒めない夢』
発売中
詳細はこちら

 24日のクロアチア戦にフルセットの末敗れ、自力での五輪出場が消滅した日本は
最終戦となる韓国に勝つことだけに望みをつないだ(クロアチア、中国のどちらかが負けることが条件)。
 しかし、日本戦の前に行なわれた中国がまずアルゼンチンをストレートで下し、続くイタリア対クロアチア戦でクロアチアが3−1でイタリアに勝ったために、イタリア(6勝1敗)、韓国(5勝2敗)、クロアチア(5勝2敗)、中国(5勝2敗)と順位が確定。日本の結果を待たずに、ここで日本の五輪出場権は消滅した。
 消化試合となってしまった韓国戦は、96年のアトランタ五輪後4年間で15戦1勝14敗とまったく分の悪い相手だけに、第1セットこそ25−21で奪ったものの、第2セット12−25、第3セット18−25、第4セット23−25と3−1で敗れた。
 日本女子バレーが五輪に出場できなかったのは、1964年の東京五輪で同種目が正式種目となって以降初めてのこと。
 なお、男子は、7月19〜23日にポルトガルで行なわれる最終予選で五輪切符を争う(日本、ポルトガル、アルゼンチン、ベネゼエラのグループで1位が出場条件)。

    ■最終順位:
     1位 イタリア(6勝1敗)
     2位 韓国(5勝2敗)
     3位 クロアチア(5勝2敗)
     4位 中国(5勝2敗)
     5位 オランダ(3勝4敗)
     6位 日本(3勝4敗)
     7位 アルゼンチン(1勝6敗)
     8位 カナダ(7敗)

バレーボール協会・豊田専務理事の話「みなさんの期待に応えられず、こんなにたくさんの方に応援していただきながら出場できず、本当に申し訳ない。バレーボールの強化の仕組み、流れ自体を根本的に変えなければならない時期に来たということだろう。この4年、女子は葛和監督に指揮をお願いして、五輪までのサポートをするべく協会の財政からさまざまな点での努力はした。日本は(企業)アマで海外の選手はプロ。こうした点にも違いが生まれてきている。協会も有給の職員を置き(専務理事自身も無給)強化体勢を整え、選手についてももっとスタッフを含めてナショナルチームに専念できるようにしなくてはならないと感じている」

「責任を取る」

 試合終了後の会見に臨んだ葛和監督は、「私個人としてこの結果に責任を取らなくてはいけないと思う。しかし組織としては、また理事会などもあるのでそこに話し合いをお任せしたい。女子バレーボールが初めてオリンピックに出られない事態を招いたことに対しては、大きな責任を感じています」と、自ら辞意を表明し辞任することを明らかにした。
 葛和監督は1996年から女子の指揮を取ってきたが、在籍はNECでもある。このため、協会がNECに対して「出向」を依頼する形で監督となっていた。

「12人で戦った結果」

 バルセロナ五輪、アトランタ五輪と過去2大会で代表に選ばれずに終わった江藤直美(日立)にとって、シドニーは最後の五輪でもあった。
 大会前にひじを故障し戦線を離脱。今回もまたレギューラーを張ることなく、出場は果たせなかった。
「どうしても最後にオリンピックに出るんだ、と思いここまでやってきたし、ここに来た。みんなの役に立つことができずに本当に情けないです。でも12人みんなで戦った結果です。だから、これで満足です」と、あふれる涙をぬぐいしゃくりあげていた。

「絶対に原因を見つける」

 今大会の通算成績でも、アタックで110点、ブロックで8点、サーブで1点と合計119ポイントを上げて4位に食い込んだ大懸郁久美(NEC)は、故障した腕、肩などにテーピングを巻いて出場。試合後は目を赤くはらしていた。
「怪我は春に休ませてもらっていたので問題はなかった。精一杯の力を出したのに・・・でもこの結果には必ず原因があると思う。その原因を絶対に突き止めてさらに上を目指したい」と、前向きな姿勢を見せた。

「昔のことですから……」

 この1週間、ある意味ではもっとも大きな声援を送り続けたのが、東京五輪の金メダリスト、東洋の魔女と呼ばれたメンバーであろう。ほとんどのメンバーが開幕から東京体育館に通い続けた。
 千葉勝美さん(旧姓・松村)は、サインボールを胸に抱え、無念そうな表情を見せた。毎日通ったそうで、もっとも悔しさが残るのは、やはり24日のクロアチア戦だという。2セットを先行し、途中マッチポイントも握りながら逆転で敗戦。
「やはり身長がなさ過ぎました。あれでは気の毒で戦えない。クロアチア戦は、私としては信じられないような、あってはいけない敗戦です。もっと不思議だったのは、選手がみな泣いていたこと。本当の意味でまだ終わったわけではなかったのに、どうしてあんなに泣いてしまうの……、と私たちはとてもがっかりしました」と話し、勝負への執念を少なからず欠いた点を指摘していた。
 ほかのOGからも、「やはり世界を意識した中での大型化、情報収集や、海外の選手、指導者を積極的に取り入れなくては」という意見が目立ったようだ。
 キャプテンでもあった中村昌枝さん(旧姓・河西)は「お話することはありません」と、選手に気を使っていた。ようやく足を止めると、「出場権を取れなくて選手が可哀想です。でもまだ終わったわけではない。これからまだまだいろいろ整備していけば、必ず未来は開けるはずですから」と、懸命に選手を後押ししていた。
 OGといっても、選手や協会とは「アドバイザー」といった肩書きがある程度で、現場で強化に携わるわけではない。
「バレーの最初の金メダリストですが」と質問を向けられると選手をかばうかのようにつぶやいていた。
「もうずいぶん前のことですから」

「バレーだけの問題ではない」

 お家芸などという言い方自体が、すでに凋落を表現するものであるが、それにしても1964年以来続いた連続出場が、20世紀最後の五輪となるシドニーで途切れたことはどこか運命的ではある。
 日本はアトランタ五輪で過去最低となる9位と惨敗。当時、吉田国晃監督から引き継いだ葛和監督は「大型化を考えなくてはならない」と強化策を表明した。しかしその反面、大型化に見合うだけの選手が育っていなかった。目標と現実の格差。それが今回、4位以内を逃してしまった構図なのかもしれない。

 第一にセッターである。竹下佳江(NEC)のセッターとしての純粋な技術については申し分ないはずだ。しかし159センチの身長は今大会でももちろんもっとも低く、竹下の頭の上を相手の高い打点からのアタックが通過するため、ブロック自体、非常にリスクを負う恰好になってしまった。
 第二にエースの不在。アタッカー部門の数字では、日本選手は1人もベスト10に入ることができなかった。やはり中国の呉〔1位〕、クロアチアはイエリッチ(2位)、イタリアはリニエーリ(3位)、韓国はチャン(5位)と、出場権を獲得した4チームすべてに絶対的なエースがいたことを数字が実証しており、10位以内にも食い込めないアタッカーの力では限界があった。
 第三に葛和監督が指摘した大型化の流れそのものへの対応である。各国が平均身長で大きく上回り、さらに、高さだけではなく速さ、上手さでも日本を凌駕しつつある情勢の中、日本は完全にその波に乗ることに遅れてしまった。平均身長そのものを単純に見ても、アトランタよりもさらに低くなっている。いい素材がいないことで、監督は苦渋の方針転換をせざるを得なかったはずだ。つまり「コンビネーションバレー」と呼ばれるもので、スケールや幅といったものを犠牲にしてしまった。

 葛和監督の問題というよりも、この点こそ、日本バレーボールが抱える根本的な問題であり、指導者全体の意識改革が必要な大テーマでもある。そもそも、昨シーズンと今シーズンでの見直しという限定ではあるが、女子に限ってはVリーグから外国籍選手の器用を禁じるなど、ある意味の「鎖国」状態を取っているなど、ワールドスタンダードからは逆に遠ざかる傾向を取ってきたことも基本的な問題点だった。この中に、人材の発掘、育成、強化策が入るわけで、まずは、日本が目指すべき青写真が描けない点が一番の課題であろう。
 しかし、もしほかの国が何もしなかったというのなら、この不出場は怠慢の結果といえるのかもしれないが、アトランタに出場できなかったイタリアが国内のプロリーグを整備して目の色を変えて挑んで来たこと、クロアチアがさまざまな強化策を取り、セリエAにエースを送り込んでいること、韓国、中国が虎視眈々とメダルを狙っていること、各国の上昇という物差しを使うとき、日本は「競争」に負けたのであって、五輪に出られないことで歴史や可能性まで失うわけではない、いくらでも逆襲はできる。
 それにしても、これで日本の団体ボールゲーム競技は、サッカー、ソフトボール、野球以外全滅(ビーチバレーは出場の見込み)。問題は、ひとつ女子バレーだけの話ではない、と考えるほうがいいのではないか。

日本の五輪過去の成績
大会 結果
東京 金メダル
メキシコ 銀メダル
ミュンヘン 銀メダル
モントリオール 金メダル
モスクワ 不参加
ロサンゼルス 銅メダル
ソウル 4位
バルセロナ 5位
アトランタ 9位

BEFORE LATEST NEXT