2月5日


カールスバーグ杯1回戦
日本代表×メキシコ代表
(香港スタジアム)

日本代表 メキシコ代表
0 前半 0 前半 0 1
後半 0 後半 1
  ペセタ:55分

先発メンバー
交代出場
75分:澤登正朗(伊東輝悦)、奥大介(望月重良)
80分:平野孝(平瀬智行)、三浦知良(中山雅史)
 昨年9月のイラン戦以来5か月ぶりとなった日本代表国際Aマッチは、DFライン3人全員、中盤の稲本潤一(G大阪)、FW平瀬智行(鹿島)と5人の選手がA代表デビュー戦という、これまでとはまったく違った顔ぶれとなり、五輪代表4人に、イタリアから合流した名波浩(ヴェネチア)を左のウイングバックで使うなど、「試験的」試合となった。
 前半11分、中盤の小野伸二(浦和)から前線の平瀬へ、その折り返しを名波が左から望月重良(名古屋)に入れ、それをヘディングシュートと、従来とは違った形での展開も攻撃に見られたが、前半は8本ものシュートを打ちながら無得点で終了。
 後半8分、日本のエリア内で、メキシコのパレンシアが松田直樹(横浜)への暴力行為によって一発退場となる。この直後のコーナーキックを守ったが、その後日本のバランスが崩れ、メキシコに再三攻めこまれた直後の10分、日本のサイドを割られ、そのままゴール前に走り込んだペセタがゴール。10人のメキシコに先制されることになった。
 終盤、日本は'98年3月7日以来の出場となるカズ(三浦知良=京都)を投入するなどしたが、結局、形を作ってフィニッシュまで持っていったのは前半11分の1本のみ。シュート数ではメキシコの8本を大きく上回る15本だったが、どれも、行き当たりばったり的な攻撃に終始してメキシコに0−1で敗れた。
 これにより、日本は8日の3位決定戦に回る。トルシエ監督での日本代表戦績はこれで、4分けを挟んで4連敗(勝利はエジプト戦のみ)となった。

Masahide Tomikoshi/TOMIKOSHI PHOTOGRAPHY
トルシエ監督
「準備期間が短い中で選手はよくやったと思う。内容はよかった。きょうは6人の選手が代表初ゲームでもあった。退場で1人有利になったとはいえ、サッカーはロジカル(理論)ではないので、10人でも戦えることはあるものだ。きょうは3バックはよかったし、稲本は力強さを発揮した。小野も故障上がりで初の90分フル出場だが、すばらしい出来だった。唯一課題を挙げるとすれば、攻撃面での問題だった。戦術面ではミスがまったくなかった。私たちの目標はアジア選手権の予選突破であり、それを目指したベストバランスを見つけたい。今私に必要なのは、寛容だ」

フル代表初出場でフル出場の大岩剛「結果にこだわることはもちろんだが、自分にとって初のフル代表フル出場によって、得られたものが本当に大きかった。試合は非常に(神経的に)疲労するもので、戸惑う面もあったが、組織として守るという形にはある意味で自信も持てた。次につなげたい」

ウイングバックで初めて90分プレーをした名波浩「やろうとしていること(組織的なもの)はできたと思う。1点は取られたがそれほどひどいわけじゃあない。確かにこのポジションは(肉体的に)きついし、時間的な問題もある。でも、予定を組む監督からすれば、(時間の問題は)どっちもどっち(選手と監督が)のところもある。個人のパフォーマンスで崩せるのはアジアレベルだけの話で、メキシコぐらいになれば全然レベルは違う。きょうは五輪代表で監督と長く接している連中からも指示をもらい、それを試合中にやってみた」

ケガから復帰で初の代表フル出場の小野伸二「(伊東と交替して)キャプテンマークをつけたのは監督の指示だった。プレッシャーはないが、ワッペンをつけている重みはとても感じていた。きょうは攻撃でももっと自分自身がまわりを見て判断していればいい場面もあったのに、まわりがしっかり見えていなかった。組織的な練習の時間が少ないうんぬんではなくて、もう少し、個人のアイディアで何とかできるところも多かったのではないかと、それが悔しい。メキシコの選手には(ユース時代の)リベンジを、と言われていたけれども、そのことよりも、きょう負けた、ということだけが今、純粋に悔しいです」

前半で右目上を切り、バンデージを巻いてプレーを続行した伊東輝悦「目の上は相手とのヘディングの競り合いで切ったと思う。ちょっと腫れてしまって出血したのでテープを巻いたが、視野にはそれほど影響はなかった。自分たちの攻撃の形をしっかりしたものにできていなかった」

五輪代表からフラット3で代表初出場を果たした中田浩二「僕自身は、いつも(五輪で)やっている3バックで、戸惑いなどはまったくなかった。問題はなかったし、メキシコが特に強いとも思わなかった。失点の場面は、自分がボールウォッチャーになってしまったことがまずかった」

ファインセーブで失点のピンチを救った楢崎正剛「退場直後のコーナーキックを防いでホッとしてしまった面があり、みんなもそうだった思う。ファインセーブも1本くらいでは……。メキシコは人数が少なくなっても、こちらの中田と大岩さんが引いた真中にサっとボールを入れてくる、非常にいやらしいサッカーをしてきた。後半、うちの方がバテていたのではないか。きょうは、いくら守っても点を取れる気はしなかった」

98年3月以来、Aマッチに復帰したカズ「楽しかった。結果は非常に残念だけれど、自分なりには楽しむことができた。ピッチに立つまではどんな気持ちになるんだろうとも思ったが、案外あっさりしたものだった。自分はこのチームにいることでリフレッシュができる。同時に経験のない部分をこちらが伝えている面もある。正直言って、(チーム全体の動きは)思ったよりは良かった」

「寛容、とは何か」

Masahide Tomikoshi/TOMIKOSHI PHOTOGRAPHY
 後半わずか8分で圧倒的に有利となる数的優位に立ちながらも、トルシエ監督にとっては金科玉条の「フラット3」が再三右に左に振られ、攻撃では組織的な「形」が作れたのは前半11分のわずかに1本だけ、まさに「完敗」である。名波はまったく違ったポジションでプレーをし、交替した澤登、奥らの起用意図も明確ではない。大岩ら3人全員がAマッチ初出場。おまけに15本ものシュート(スタンドでのカウント、公式では11本)で無得点。こうなれば、試合直後のミックスゾーンでも、誰もが無言のままロッカーから薄暗い通路を小走りにバスに乗り込むだろう、と予想していた。
 しかし、選手たちは不思議なほど、ポジティブでしかも雄弁であった。約2年ぶりとなるAマッチに出場したカズは、「思ったよりははるかに良かった」と報道陣の前に真っ先に歩み出て、笑顔で話をした。
 カズ自身、試合開始から5分でアップを始めていたが、ポイントはやはり攻撃にあったと指摘する。
「組織的な練習時間云々というのは、今回はあまりこだわる必要がない。むしろ、もっと個人のアイディアや展開でもっていってしまう面がないといけないのではなかったか。中盤の組織力などはいつもの課題だし、守備を整える、のは監督の考えの土台ではないか」
 と、キャリアを持つ選手らしいコメントをした。
 内容にこだわらない選手などいないわけで、悔しい、悔しくない、必死でがんばった、がんばっていない、の感情的レベルから、選手がもっと冷静に、今自分たちが置かれている立場、つまり、2002年に向けて、どういう位置に個人と日本がいて、いかなる道に足を踏み出そうとしているのか、それを「チームとして」理解している点は、これまでの敗戦とは大きく異なる点だった。
 しかし、監督が指摘し、一見大きな問題に見えた攻撃力については、そもそも1月の合宿から練習をしていないのだから、無理な注文であるし、この結果に驚くこともないはずだ。できなくて当然、というのではなく、少なくても2月の親善試合にどうかできるような「布陣」ではまったくなかったからだ。小野も「もともと監督の考えは守備から作るということ。コンビネーションをやっていない不安は大きかったが、段階を踏んでいけばいいのでは」と話す。同時に、良し悪しはともかく、現在は「テストであり、それぞれの戦術的、技術的潜在能力を試験されている」という意識が選手には浸透しているようだ。
 この試合の問題はむしろ、フラット3を土台とした「組織的守備」に置いて、明確な約束事などがなかった点、準備不足と、選手のマッチングの難しさにあった。試合中、名波、望月、またボランチの伊東までが最終ラインに入り、フラット3どころか、フラット6、6人がズラリと並ぶような場面も多く見られた。「メキシコは、アジアのレベルではない。個人の力云々では通用しないところになれば、あとは組織でどう戦うかだ」と名波は言う。名波は、きょうの組織に合わせたプレーに徹した。
 監督は、「私に今必要なのは寛容だ」と会見で言った。寛容とは時間、を意味する。「時間が経てば、チームとしてのコンビネーションは整うのだ」ということで、現在は個人のレベルのチェックを「試合で」しているに過ぎないとの姿勢を見せた。組織と個人のバランス、とらえ方はサッカーにおいて極めて微妙な関係にあり、しかもそのバランスこそが、その国のサッカーの思想や潜在能力を決定的に色づけるものである。
 昨年突破した五輪予選は、アジアのレベルの中だけで、しかも年齢が限定された中だけでの戦いであり、ここでは圧倒的に日本選手の「個」が優れている中での「組織形成」になる。
 日本代表がW杯以降直面しているのは、「個人」の能力が並ぶか、それよりも劣ったケースで、それをどうカバーするかのコンビネーションになる。こうなった場合、根本的に問われるのは、監督自身の「組織論」だろう。テストされるのは、選手個々の能力と同時に、監督自身の思想だ。「組織的守備」とはいえ、その質はまったく違う点にあるもので、この日の守備が「非常によく戦術的なミスがない」と監督が断言するほど完璧だったのか。これを判断するには、2000年のただ1試合だけでは不可能で、それこそ観る側にも、「寛容」さ、つまり時間と試合が必要になりそうだ。

大仁技術委員長「ないない、きょうは何も(話すことは)ない。そのうち……」

※日本は8日の香港との3位決定戦に回る。香港×チェコは2−2(PK4−3)でチェコの勝利。

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