6.マット飼育にのみ発酵という工程が必要な理由は?

 材飼育、菌糸瓶飼育では発酵という作業は聞かないですね。(結果的に同じ様な
事が行われるのですが。)なぜマットだけ必要なの?って疑問がでてきますよね。
 発酵とは菌が繁殖、活動することであると述べました。でも、幼虫の餌になるの
は同じ種類の木です。しかし、何かが違うのです。まずは材とマットの違いを考え
てみす。どちらも同じ状態の朽ち木だったとして、絶対的な違いは何か?それは
マットは材をクラッシュしたものであるという事です。発酵が急激に起こる理由の
根幹はここにあります。材では菌のアクセスは材表面からで、樹皮があり、細胞壁
があり、徐々にそれらを分解しながら侵食しないと、外界の菌はアクセスできない
のです。朽ち木材自体が茸の菌がじわじわと繁殖したもので、既に数年の歳月を経
ており、しかも材を侵食可能な菌は限られています。材内部は茸の菌によりある程
度分解され、利用可能なものは利用されていますが、他の菌にとってはすぐに利用
可能ないろんな長さ結合の糖鎖(糖質)や内容物が存在しています。クラッシュに
より、組織が破壊され、表面積が拡大し、さらに多種多様の菌にさらされます。
 さらに、クラッシュにより破壊された組織片、破断面は菌により分解利用しやす
い状態にある可能が高まります。従って、材では急激な発酵が起こらず、マットで
は急激な発酵が起こる可能性があるのです。しかも、マットのクラッシュの度合が
大きくなればなる程、多くの組織が破壊され、表面積が広くなり、急激な発酵が起
こる可能性は高まります。産卵木の樹皮を剥いで使用すると一気にカビが生える事
がありますが、あれもガードがなくなった為です。

 次に菌糸瓶とマットの違いを考えてみます。菌糸瓶では生マットを使用すること
が多いようですが、とりあえず、同じ状態の朽ち木を使用し、どちらも同じ様に
クラッシュしたと仮定します。このあと、菌糸瓶では雑菌を滅菌した後、茸(ヒラ
タケ系が主流)の菌を埴菌し、マットを茸の菌糸で覆ってしまいます。菌糸が十分
に育ち、安定したら幼虫に使用します。つまり、菌が繁殖、活動するという意味で
発酵マットの発酵に相当することを行っていることになります。ただし、菌糸瓶は
単一の菌でガードされている為に安定していますが、外部から別の菌が侵入し、
茸の菌の勢力を上回って繁殖すると、急激な環境崩壊(発酵)が起こる恐れがあり
ます。また、茸には季節を感じる能力があり、茸の種類によっても違いますが、
子実体を形成したり、活性が高くなる時期があります。(温度管理である程度コン
トロール可能です。恒温室でもなぜか季節になると活性があがる。)

 マットでは急激な発酵が起こったり起こらなかったりします。それは材には元々
茸の菌(椎茸等)がいて、茸の菌がまだまだ元気で、培地(マット)に利用可能な養分
が多く、他の菌の侵攻を許す前に優位な状況をつくりあげたか、菌の繁殖、活動の
条件を満たしていない(水分が少ない、温度が低い、クラッシュ度が低く表面積が
狭い等)からです。この場合でも茸の菌による一時的な温度上昇、酸素消費は発生
します。雑菌による発酵がおこる場合は、茸の菌の活性が弱くなっている為に他の
菌の侵攻を許してしまい、かつ、菌の繁殖、活動の条件を満たしているからです。
また、途中から急激な発酵が起こる場合は、温度の上昇、PHの変化、湿度の上昇
により菌の繁殖、活動の条件が満たされたか、菌の均衡が崩れる為に起こると考え
られます。


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