2EV日記、作業開始から走れるまで(1995年)

5月27日(晴)
 横浜の鞄結朿&Dに発注してあったコンバージョン・キット(モーターとコントローラーその他小物部品)を受け取る。解体屋で集めた中古バッテリー8個(結局使わなかった)とともに車に積み込んで松本をめざす。荷物の総重量約200kg、さすがに車が重い。
 今回の改造ではミッションから後ろは2CVの物を使うのでエンジンと接続するアダプターを作る必要がある。これは2CVの壊れたエンジンのクランクシャフトを加工する事にして加工屋さんと打ち合わせ。

5月28日(晴)
 2CVの広いバルクヘッドにコントローラー、メインスイッチ、アクセルポッド(アクセルペダルの動きをコントローラーに伝えるボリューム)を取り付ける。アクセルワイヤーは2CVの元の物、ワイヤーのステーはGS(注1)の物を流用した。
 バッテリーとモーターの大電流部分を除いて1日で配線完了。思ったより簡単。ただ、2CVのオリジナルのショボいヒューズホルダーを流用したのがちょっと気になる。

6月3日(晴)
 横内さんにモーターとミッションを加工に出してもらう。現物合わせで作るため時間がかかるとの事。これができるまで車をいじることはできない。この間の時間は資金源となるGSの修理、アメリカへの追加の部品発注、充電器の製作等に費やす。

7月29日(晴、暑い)
 アダプターが完成。いよいよモーターの登載にかかる。機械技師の徳納さんに今後の製作のために図面化してもらい、その間に2CVレースのためにローダウンしてあったサスペンションを元に戻す。

7月30日(快晴、相変わらず暑い)
 道具は人力とガレージジャッキだけなので人数が揃うまでは燃料タンクの取り外しにかかる。外した燃料タンクに残ったガソリンは下駄代わりのバンに入れる。これでガソリン時代の遺物は全て取り払われた。モーターを積む前にフライホイールだけ付けて動作チェック。モーターは無負荷のため12Vバッテリー1個で静かに回る。次にミッションを仮組みしてみる。エンジンと同じ要領で芯を出してスプラインをはめてクラッチとギヤがつながった事を確認。うまくいった勢いで登載にかかる。GSのエンジンより軽いはずだが、持ちにくく、4人がかりでも重い。ミッションの取付ボルトのスペーサを外したが、予想通りボンネットから5センチほどはみだした。モーターが長いのではなく、2CVのエンジンが短かすぎるのだ。(注2)陽が落ちた頃、ようやく形になる。ボンネットは先端をグラインダーで切断した。ここまで来れば後は配線だけだ。

8月5、6日(晴)
 CCJ甲信越地区ミーティング、ブレーキ配管、シフトリンケージなどを接続、大電力側の太い配線にかかる。エンジン(モーター?)ルーム内の配線はほぼ完了、途中地元新聞社の取材を受ける。

8月10日(曇、一時雨)
 室内にブレーカーを付けるが、その前に腐った床の錆をグラインダーで削ってサビチェンジャーとシャーシブラック(注3)で処理する。モーターのマウントは当初ゴムをはさむつもりだったが面倒なのでホームセンターで買ったコの字型の金具をモータークランプとフレームの間にはさむ。モーターをジャッキアップしても車体が上がってしまうのでジャッキでモーターを支えてシャーシの上に乗ってシャーシを下げて間にマウントをはさむ。これはエンジンマウントの交換にも応用できると思う。

8月11日(晴、時々曇)
 バッテリーを登載する。驚いた事に38B20が10個、トランクのスペアタイヤのスペースに楽に納まってしまった。予定を変更してリヤシートを付ける。バッテリーの配線にかかる。電線が足りなくなり、クラウンタウシーの廃車から外したコードも使う。途中、コードを落としてスパークさせて1個壊してしまう。結局パナソニックの中にGS製が1個混ざる事になった。
 ここでドラムブレーキにLHM(注4)を入れるという大ボケをやらかしていた事に気付き、あわてて抜いてDOT3と入れ換える。一応ブレーキは効くようだ。

8月12日(晴、むちゃくちゃ暑い)
 配線の確認とライト類の動作チェック、ワイヤハーネスの整理をする。ウィンカーレバーが折れていたのでGS用のスイッチを金具を加工して無理矢理付ける。見栄えは悪いが使いやすくなった。

8月13日(晴)
 再度配線を確認し、手直ししてついに電源を入れる。ブレーカーをONにしてキーを回し、アクセルをゆっくりと踏む。パルス制御の高周波音とともに車がゆっくりと動きだした、が、ギヤと逆に動く。モーターの回転方向を考えずにマニュアル通りに配線したためで配線を入れ換えて解決。これがエンジンだったらミッションの再設計になってしまうところだ。 再度電源を入れてバックギヤで発進する。少し強くアクセルを踏んだら強烈なGがかかり、締めの甘かったミッションマウントのボルトが外れた。前進ではトップギヤでも楽に発進する。横内さんが試乗、バックで加速したらクラッチから煙が出た。低回転から最大トルクがかかるモーターにとってバックのギヤ比は低すぎる。走行中の変速が不要な事が分かったのでクラッチワイヤは外してしまう。4速でガレージの前の道で100mほど走ってみる。ガソリンの2CVと違うスムースで力強い加速を見せる。バッテリーがもったいないので今日はこれでやめておく。

8月14日(晴)
 明日の試乗会に備えて昨日外れたミッションマウントを付けなおし、腐っていたテールランプ回りの錆を取って塗装した。最後にフェンダーを取り付けて将来の車検のためにナンバーステーを取り付ける。

8月14日(晴)テスト走行
 お盆休みも後半となったこの日、2CVオーナーを中心に10人ほどの友人が試乗に来てくれた。テスト走行は教習所のコースを借り切って1周350mの外周コースを平均40Km/hで走ってバッテリーがどのくらい持つかを試すのが目的だが、当然1日中走れる訳ないので朝少し走って様子を見て昼間は共同で使う地元の高校の省エネカーの練習走行にコースを譲って充電して夕方から本番という予定。

 ところが、走り出してみると思ったよりバッテリーが減らないので交代で30分間目いっぱい走る(最高速度60km/h位)。省エネカーに外周コースを譲ってからも内周のクランクと坂道を組み合わせたコースを10周以上走っても、まだエネルギーが残っているようだ。
 EVはほんとに静かだ。車外ではほとんど音が聞こえない。コースの反対側に行って見えなくなったときなど電池が切れて止まってしまったのではないかと心配してしまうほどだ。それに引き換え、乗ってみると意外に音が聞こえる。モーターの音ももちろん聞こえるが、それよりも聞き馴れない”ゴトゴト”というような音が気になった。なんの音だろうと思っていたら、ガレージから教習所まで牽引されているときに車内で聞こえていた音と同じである事に気付いた。つまり、駆動系の振動やボディのきしみ、うなりといったエンジンの音に消されてしまう音が気になるほど静かだという事だ。それでいながら低回転から発生する強力なトルクでトップギヤでもどんどん加速してしまう。試乗した2CVのオーナーの中でこれに違和感を覚えた人はいなかったようだ。甲府の猪股さんは2CVを仕事の足にしている!だけあって見事な運転で29秒(平均44km/s)のコースレコード?を樹立してくれた。

 午前中十分楽しみ、そろそろ電圧が下がってきたので充電しようとしたところ、充電器を逆につないで火花は散らすは、ヒューズは切れるで、自作の充電器を壊してしまい、充電できなくなり、夕方からの走行会はバッテリーの耐久試験になってしまった。5時過ぎから7周外周コースを走ってテストは終わり。走行時間正味1時間、約25km走った事になり、市街地での買い物用としては十分実用になる事が確認できた。


(注1)GS:シトロエンが1970年に発表した独創的な小型乗用車。私は78年式に乗っていたがEV作りの資金稼ぎに修理して友人に売った。ちなみに現在は7万円で買った83年式の同型車に乗っている。もどる

(注2):シトロエン2CVのエンジンは水平対向2気筒のため長さが30cm位しかない もどる

(注3):サビチェンジャーとシャーシブラック:どちらもボロ車の補修に使う。サビチェンジャー(ホルツ製)は赤錆に塗ると黒錆に転換して進行を止めるというお薬、シャーシブラックは下回りの保護用の黒い塗料、これは新しい車にも使うが2EVの場合床が腐っていたので表側に吹いた。 もどる

(注4)LHM:シトロエンが油圧系統に使用する航空機用の特殊な鉱物油、2CVにはディスクブレーキを持つ最終型のみ採用された。 もどる

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