idle talk49

三井の、なんのたしにもならないお話 その四十九

(2018.05オリジナル作成)



 
 やけっぱちでレコードプレーヤー買う 


 齢七〇代を迎え、定職も退き、大幅収入減のなか、爪に火ともす生活しかないという思いと、どうせ限りあるいのち、ゼニ残してなんになるという感情との板挟みの日々、時間はできてもまともな仕事せず、「撤収」後の片付け整理も中途半端、なんともはやです。

 
 そうしたおり、やけっぱち消費に走ってしまいました(いや、4月来結構それを重ねているかも)。何をしたのかと言えば、二日間で「これ買う!」と決めてしまい、さっさと買ってきたという次第。経過もいかにも○○的で、これ以上もの増やしてはいかんはずなのに、やっちゃった観です。

 買ったのはレコードプレーヤーです。実は、もう40年近く前に揃えたオーディオ機器、もちろんその後、ぶっ壊れた、新技術新製品にシフトした、等々であれこれ買い換え、継ぎ足しもかなりしてきたものの、さすがにレコードプレーヤーを今さら買うとは、自分でも想像しませんでした。

 いままで使っていたのは、パイオニアのPL-30LUという、まあかなりいいコンポーネントです。もちろん初代プレーヤーではありません。買ったのはもう30年以上前でしょう(正しくは、36年前)。ダイレクトドライブターンテーブルでずっしり重く、カーボン製アームも立派なもの、物欲を満たすにふさわしいものでした。しかし、近年動かしてみると、なんと回転が怪しくなっており、サーボのインジケータが点滅し、針を下ろしてみれば、音はへなへな、ひどいものです。それでも、とっくに終わってしまった「アナログレコード」の時代を思えば、もうこれで我慢するしかないか、というところでした。回しっぱなしにして、なんとか回転が安定してくるのを待つ、そんな繰り返しでした。もちろん、私は「音楽マニア」的に無慮数千枚のレコードライブラリーがあるわけじゃなし、大して持たないうちにデジタル時代に突入、CDで買ったものの方が多いし、という状況です。それに実は、「録音テープ」のストックの方がさらに多いのです。

 

 しかし、我慢しきれなくなってしまったのはつい昨日のことでした。FBのやりとりから、ハンス・クナッパーツブッシュ指揮のワグナーの実演レコード、これは宝だな、これぞワグナーだなというのをまた聞きたくなり、かけてみると、ドライブ回転へなへなで、もう名演どころではありません。しかも、かなり空回ししてから針を落としても、どうにも聞くに堪えません。サーボとつながる回転インジケーターはどうにか点滅しなくなっているようなのですが、実際に出てくる音はひどいもの、細かい回転むらになっていると想像されます。もういけません。その上、ほかのディスクでも聞いてみて、MMカートリッジの針の消耗と思われるひずみも感じられました。

 この針を買うだけで結構かかるだけじゃなく、そのオーディオテクニカのピックアップカートリッジAT100Eの交換針がもう入手できないとわかりました。そんな前のじゃないのですが。さすれば、カートリッジ自体を買わねばならず、それだけで万の単位にいきます。しかも、プレーヤーのへなへな状態は悪化の一途なのですから、カートリッジだけ買い換える意味がなおさらありません。

 
 見事詰まりました。最近は「アナログオーディオ復活」の機運盛んで、一時期店頭からまったく消えていたレコードプレーヤーも、いまやピンキリ沢山のモデルが並んでいます。買う気をそそります。いまでは一万円以下から買える(カートリッジより安い)状況なのはよく見ておりますが、今さら買うに、あまりに安いもので、後悔させられるのもいまいましいところです。安いプレ−ヤーは皆ベルトドライブです。私はむかしからこれには不信感もありました。実家にあったそれは、明らかに回転数が下がって、音程が狂っておりました。そんなに古くなってなくても、です。だから、ずっとダイレクトドライブのを使ってきたのです。
 
 それで、店の価格を見ていくと、一方でウン十万円というのがありますが、ダイレクトドライブでも三万五千円というのを見つけてしまいました。もちろんカートリッジ付きです。一も二もなく、今日早速に買ってしまいました

 

 オンキヨーのCP-1050というヤツです。オンキヨーのコンポーネント製品はほかにもありますし、だいたいパイオニア自体がここに吸収されたのです。ずっしり重いですが、PL-30よりはまだなので、担いで帰りました。箱から出し、組み立てていきます。35年ぶりのレコードプレーヤーの組み立てセッティングです。
 アームとピックアップのバランスや針圧調整などを終え、アンプにつないで、テストをしてみます。もちろんへなへななどはありません、順調に回ります。ただ、PL-30は高級機だったので、アームの操作などもスイッチでしたが、こちらは完全マニュアルなので、ちょっとちゃちな観はあります。それだけでなく、スピーカーからの音がえらく小さいのです。焦りました。説明書を確認すると、付属のMMカートリッジの出力は2.5mVと記され、いままで使っていたのの半分程度なので、ある程度はやむを得ません。しかし、アンプのボリュームを上げていけば、音量は上がりますが、なにかちゃちな音です。迫力、奥行きがありません。聞きたかったクナのワグナーも安心して聞いていられはするものの、「あの迫力」に遠く及びません。
 
 三万五千円のプレーヤーのおまけのカートリッジにそんなに期待はできないよ、とも自覚はしますが、またやれやれです。カートリッジ買い換えるくらいなら、と思ったのに、またそれも買わなくてはならないとなると、ですよ。これまで使っていたテクニカのカートリッジもそんなに高いものでもないのですが、それとも歴然とした差を感じてしまいます。私は昔は一点豪華主義的贅沢で、サテンやデンオンのMCカートリッジも使っていました。のちのアンプにはMC入力はなくなったので、トランスをかませて、でした。近年さすがにそれほどのこだわりもなく、MMで満足していたのですが、この音ではせっかくプレーヤー買い換えた意味がありません。情けないことです。この歳でまた泥沼の淵です。それとも、MCトランスをこれにかませてみましょうか?

 
 悪い予感。おそらく、また新品のMMカートリッジを買うようなことになるでしょう。私の手元の(アナログ)レコードは百枚にも満たないくらいしかないので、実にC/Pが悪いと思うのですが、最近のアナログオーディオブームで、中古品を大量に並べる店もできています。誘惑大です。あっちにカネかければ、こっちも欲しくなる、いかんですね、まさしく泥沼ど真ん中への道ですね。しかも、わが亡き後に、膨大な量のガラクタを残すことになって。



 いやあそれでも、磁気テープものの整理、保存にも努めて参りまして、DVDやCDなどのデジタルディスクにかなりコピーをしました(音声テープの保存用に、昨年CDレコーダーも買いました。TEACの安いマシン(CD-RW890MkU)なので、そんな立派なものではないのですが、まあ保存はできます)。ほかでも記したことですが、特にVHSビデオテープは相当量を移しました。ところが、こちらもいよいよピンチで、PALのテープをコピーするのに使ってきたビデオデッキが相次ぎアウトになります。PALの録画用DVDレコーダーは10年も前に買ったのが健在であるものの、入り口が断たれてしまいます。ビデオデッキというのはテープローディングや回転ヘッドなどのメカ部分が心臓であるため、長持ちしない印象です。テープも端が切れる、黴びるなどのトラブルに見舞われがちですが、それは諦めるとしても、デッキがいかれては再生自体できません。つい数日前にも、PALテープの再生用にしてきたサムスン製のワールドワイドマルチデッキSV-5000Wというのが、調子がおかしいことに気がつきました。画面上に異常にホワイトノイズが出ます。これはヘッド系に異常があることを意味します。ヘッドクリーニングなどしてみたけど、変わりません。ノイズだらけの画像を保存しても意味ありません。

 これもいかんかとなると、残るPALテープ対応デッキはたった一台、日立製のもの(F90)だけになってしまいます。焦りました。いまや国内用のNTSC対応ビデオデッキさえもう売られていない時代、PALを再生できるものなど入手できるわけもありません(現行DVDプレーヤーのかなりのものは、NTSC・PAL両方対応なのです)。最後の砦です。しかもこれも、かなり古いものであるうえに、長く休眠していて、最近発掘し、動かしてみるとトラブってくれます。テープローディングメカに不調があるようで、テープをうまく巻き付けない、あげくに引っかかり、テープカセットを取り出せなくなる、さんざんです。そうした際にはケースの蓋を開け、中で引っかかったテープを手で引っ張り出すのみです。テープは傷みますが、緊急措置です。これが生じるマシンなど危なくて仕方ないのですが、最後の頼みの綱です。だましだまし使うしかありません。これも、繰り返し使っていると、ローディングメカも「なじんでくる」のを心中願って。それで、いま必死に、PALテープのコピー保存を試みているところです。NTSCビデオデッキも、もう市販はされていないのですが、まだ動くのがありますから(過渡期の、ビデオBDレコーダーなどこれ向きのを含めて)。


 ただ、アナログディスクレコードのデジタル保存は基本致しません。これはやはり、プレーヤーで再生しての音なのですね。デジタルメディアに移すと、弱点ばかり目立って、聞くに堪えなくなります。だからプレーヤーを買ったりするのです。上記のように、私そんなにレコードも持ってませんし。一方でオープンリールテープはあまりにでかく、重く、場所とりますから、最近せっせとCDにコピーしております。テープデッキへの装着操作も大ごと、またテープの劣化も目立ってきています。だいたい40年ものですし。もちろんオープンリールテープデッキなど、いまの入手はもっと困難です。唯一の、これまた40年もののアカイデッキGX630Dを用いていますが、これが信じがたいほど丈夫なのですな。とっくに消えたメーカーですが、感謝の限りです。

 ちなみに、そちらで困ったのは、「テープ鳴き」現象でした。回していると、テープがキーキーピーピー言い出し、どうにもならないし、それが再生音声にもモロ出るのです。まったくもって聞くに堪えません。そんなの保存しても仕方ありません。どうもテープ同士の摩擦から、異常振動が起こるようです。なんとかならんものかとweb検索していたら、同じ事態に直面したという声が見つかりました。それによると、この原因は「バックコーティング」テープの劣化によるものなのだそうで、どうにもならないようです。アマチュア向けの市販テープに余計なことするからだ、という意見、ごもっともです。一見高級そうに見せて売った、そのなれの果てがこのざまです。これは諦めるしかないようです。まあ、40年持たせるかどうかなんて、考えもしなかったのでしょう。


 前言さっそく訂正。


 これを書きながら、はてと思い当たることあり、それを一夜明けて、早速に試してみました。見事的中、そんなにオンキョーをくさしてはいけません。

 カートリッジの出力があまりに低い、音があまりに貧弱、それはいくら何でもいまどきないのではと考え、思い当たったのです。このシェル付カートリッジを包装から取りだし、アームに着ける際に、針カバーを忘れずにまず外してとやったら、針ごと外れてしまいました。MMカートリッジの針は簡単に交換できるようになっているのでって、簡単すぎです。それを元に戻し、取り付け設定をしたつもりだったのですが、もしこの針の取り付けが完全でないと、間隔が広すぎてコイルに生じる電流が低い、動きが悪くて十分な再生にならない、これはあり得ることだと考えたのです。針についたマグネットが針と共に動き、まわりのコイルに誘導電流が生じるというのが、MMムービングマグネット型ピックアップカートリッジの原理なので。


 翌朝に試すに、やはり針部の取り付けが完全ではありませんでした。えいやとやれば、軽くパチンと嵌るところがありました。そのへんの感触がちゃちであることは否定できませんが、そうしたところに職人芸が生きるような時代でもなく、そんな値段の品でもありません。それで再生を試せば、十分な音量、見事にいい音で鳴ってくれます。少なくとも、いままでのオーディオテクニカカートリッジに引けを取るところはありません。迫力をもって、ワグナーが鳴り響きます。
 ま、これで、さらにカートリッジも新しく買わなくちゃという事態は避けられました。ものごと、慎重に扱うべきだという結論でした。



(2018.07)


 CP-50は以来快調であります。前のに比べだいぶ安かったわけですが、十分に聞けます。アナログレコードの良さをあらためて実感します。トラブルがないせいかも。

 快調でないのはメーカー・オンキヨーの方で、なにより時に店をのぞいても、オンキヨーのカタログさえ見当たりません。製品は並んでいないこともないので、「消えた」わけでもないのでしょうが、カタログさえ新しく作れない?残念なことです。

 
猛暑のなかで苦闘していて、がっかりの結論。カセットテープはダメだあ

(2018.7.22)

 こうしたアナログ音源保存の、空しい努力のなかで、オープンリールテープの方はテープ鳴きトラブルなどを除き、かなりできたのですが(と言っても、1/10くらい?)、カセットテープでえらいことがわかりました。私はもともと、カセットテープを音楽音源に使う意図はほとんどなく、主には調査取材や会議記録などの手段で、もちろんそれもいまではデジタルICレコーダーに取って代わられています。マイクロSDメモリ一枚、あるいはそれを転写したDVDディスクで終わりです。

 ただ、音楽の記録再生に用いたものがないことはありません。その多くは、いまから30年余前の在英時に買ったので、当時はカセットテープ全盛でした。デジタルオーディオの噂が聞こえだしたくらいで、店頭に並んでいたのは、主にはアナログディスクレコードとカセットテープでした(私が自分でCD買うようになったのは、87年の帰国後のこと)。なんといってもカセットは小さく軽く、扱い簡単なので、ソニーのウォークマンを嚆矢としたケータイオーディオや車載オーディオの完全な主流となっていました。私も当時はけっこうカセットプレーヤーを持ち歩いてもいたので、そちらにコピーをした「エアチェック」音源やレコードのコピーも作ってはいましたが、在英中には比較的珍しいものなど含め、店頭で買ったカセットテープ商品もかなりあったのです。レコードを買って帰る勇気はなかったし(いまにしては、その方が正しかったかとも感じます)、もちろん英国での住まいにレコードプレーヤーはありませんでしたから。持っていって使っていた「ワープロ」のデータ記録さえ、カセットテープだったんですから。


 ところが、これらのカセットテープがいま使えない事態が続出しているのです。CDにコピーしてデジタル保存しようかと思えば、うまく回らないのです。もちろんその前に、カセットプレーヤー自体のトラブルにも直面しました。過去に、壊れたカセットデッキがもう2台あります。メカがきちんと動作しないのです。テープを入れる以前の故障です。

 その一台、いまでも手元にある(ずっとどこかに収まっていたらしい)ソニー製のTXD-RE210というのは、CDプレーヤーとカセットデッキが一緒になった、ある時代の典型的な製品(CDで買った音源をカセットテープにコピーして、持ち歩いて聞くため)だったのですが、買ってからもう19年、CDプレーヤーはいまもちゃんと回るのに、カセットメカがまず、ボタンを押しても前に出てこないのです。どんなに力を入れても、微動だにしません。そこにテープを入れる仕組みなので、まったく使えません。

 19年前の製品ですから、もちろんメーカーでは修理もしてくれないし、どうもテープローディングだけではなく、カセットテープのトランスポートメカなどというのは、概してほとんど壊れているようという悲報ばかり聞こえます。いろいろ調べるに、TXD-RE210に関しては、押しボタンにつながるメカが引っかかったとか、歪んでいるとかのレベルではなく、そのテープローディング部自体が概してモーター駆動で(それが「高級」の証とされた)、その動力を伝えるところのリールベルトがほぼ間違いなく、経年劣化でアウトになっているらしいのです。テープトランスポートの方はメーカーが力を入れたせいか、世評に反してまだ生きているものもあるようですが、このローディング部をメカ化したのはもうダメのようです。もちろんベルトが劣化したり切れたりしているのなら、メカをバラしてベルト交換することで生き返るという「知恵」もあちこち公開されていますが、そういう「腕」も道具もない私には無理、かといって「専門業者」の方に依頼すれば、相当額を取られますので、そこまでして生き返らせる意味がありません。たぶん直るんでしょうけど。


 これがダメなら、かつて愛用したケータイカセットプレーヤー(レコーダー)はどうだと、探し出してみるに、ソニー製が三台も出てきました。これらはテープローディングは完全手動(手でセットするだけ)なので、何とかなるかと思えば、そろいも揃って、どうにも動作しません。電源ランプもつきません。テープトランスポート自体、ひいてはメカ全体がいかれてしまっているので、完全アウトです。そんなものと諦めるのみです。



 それでもわが方には「最後の手段」があります。今さらですが、数年前に新たに買った、TEAC製のCDプレーヤー+カセットデッキの製品AD800があるので、これが最後の頼みです。うえのソニー製とほぼ同じ機能、ただ新しいだけに、デジタル変換でUSBメモリにMP3記録する機能もついております。TEACだけはこういったオーディオコンポーネント製品を、ダブルカセットデッキも含めて、いまも出し続けてくれているのです。

 これがあるからいいだろ、と言うところですが、これが万一いかれたらどうするんだという心配は断てません。TEACもいつまで出し続けてくれるのか(私にも、これは二代目で、前記のように、だいぶ前に初代TEACはいかれました)。それにさらに代わる頼みに、ソニーのカセットデンスケD5Mというのも持っているのです(「デンスケ」というのは、戦後に生まれた通称で、携帯用のテープレコーダーがそう呼ばれるようになりました。この理由には諸説あります。ともかく、放送や新聞などの業界の取材用の必携機器になりました。ずいぶん後になって、ソニーは得意のカセットレコーダーの高級携帯用を発売、「カセットデンスケ」と称したのです)。カセットテープ全盛期の象徴のような製品で、録音用の機能を重視した、携帯用とはいえ相当の大きさ重さの代物です。正直、あまりこれが活躍しないうちに、デジタルオーディオの時代になってしまったので、本領発揮はほとんどできなかったのですが、値段もかなりで、5.5万円しました。いまだあるそれにせめて頑張って欲しいと思うものの、アナログ音源のメインにつないだのに、音が出ません。実は当初、これを組み込んで、アナログ音源のデジタル記録保存用としたつもりだったのですが、音が出なくてはなんにもならず、急遽TEACのAD800に組み替えた次第でした。


 カセットデンスケもアウトか、とがっかりしたのですが、これはテープローディングは手動セットで問題ないうえ、テープはちゃんと回っています。スピーカーがついているので、そこから音は出ており、ヘッドフォンをつなげば、ステレオ再生になんの異常もありません。要はLINEOUTに出力が来てないのです。テープデッキ系のトランスポートメカはさすがにタフで、問題なく動いているので、いまいましいことこの上ありません。30年物ながらタフそのものです。非常措置で、生きているPHONEジャックにLINEOUT代わりをさせる接続も検討しましたが、そのうちになんと、LINEOUTに音が出始めました。やれやれですが、こういうトラブルが起こること自体、もう寿命の観ありです。



 ともあれ、AD800とD5Mという二台が、いまだカセットテープの再生に働いてくれるので、やれやれと思いながら、30年前の音楽テープの再生と保存にかかったところが、えらいことがまた発生しました。セットしたテープが回らず、シャットオフしてしまう、AD800だと勝手にリバース再生になってしまう、これの繰り返しなのです。テープが順調に送られないのです。カセットの故障かテープ切れかと思っても、手で回すと回ります。要は、デッキメカとして順調にテープを送ることができないのです。それが一つといわず、相次ぎ発生します。どうにもお手上げです。いちばん情けなかったのは、英国で買ったDGGのクーベリック/バイエルン放送響によるマーラー交響曲第8番二本組、いい演奏だという世評も高いものだったので、デジタル化をしようと回し、順調にテープが進んでさすがDGGは大丈夫かと思っていたら、一本目の最後に来て、突然シャットオフしてしまいました。そのへんなんどもテープの送り戻しを繰り返し馴らしても、いざ再生すると、やっぱりアウトになるのです。完全お手上げです。こういう事態が何本ものテープで起こるので、基本的に経年変化か劣化で、もうダメと判断するしかありません。カセットの仕組みや出来に、30年という寿命は想定されていないのでしょう(特に欧州製品?)。見たとこ別に異常もないのですが。


 最後のあがきは、早送り巻き戻しを繰り返し、馴らしてなんとか回りやすくするという手立てです。おそらく効果ないでしょうけれど。しかし、生き残っているAD800やD5Mにそうした犠牲は強いたくはない、テープ無理に回そうとしていたら、本体がいかれちゃったなんてなったら、目もあてられません。かといって動くカセットメカはもうほかにないとなると、考えられる選択肢は、いまさらながらカセットレコーダー買うか、です。

 ご存じの方もあるでしょうが、いま結構、カセットレコーダーやラジカセは売られているのです。一時これも絶滅かと思われたのに、ダイハードの代表格です。レコードプレーヤーに似た現象です。特にCDラジカセ、つまりラジオとCDプレーヤーとカセットレコーダーを組み合わせた製品は、パナやソニーや東芝等、大メーカーからも堂々売られています。あまり聞かないメーカーのものも多々店頭に並んでおり、わが従弟が再生に賭けているAIWAの製品もあります。もっとも、各社のものが結構似ているんですけど。それらだけでなく、懐かしのカセットレコーダー単体もあるし、逆にレコードプレーヤーやアンプやスピーカーまで「全部載せ」のワンセットオーディオ機まで店頭に出ており、通販などでも結構人気のようです。これ一台でなんでも聞けます、というのが売り。私のように、いまだ30年40年前の音源を抱えている老人向けなんでしょう。天下のTEACさえ、そういうのを出しているのです。同社のLP-R550USBというのは「ターンテーブル/カセットプレーヤー付CDレコーダー」で、私がやっているように、アナログ音源をデジタル化し、CD-Rに記録する用途で、じゃあこれ買えば、一台でぜんぶできるよ(カセットテープへの録音はできないのですが)、というところなのですが。


 それを買おうと思わないのは、重さ11kgと相当で、持ち歩くどころじゃないうえ、これ以上老後の負の遺産を増やしたくないのに当然抵触します。値段も5万円超もします(もっと安い、軽い、チョーてんこ盛りオーディオセットもありますが)。それに、回らない、進まないカセットテープには結局同じ事態になる可能性大で、意味がありません。それなら安いカセットレコーダーやCDラジカセならいいだろ、捨てた気でも惜しくない値、3〜4千円前後から並んでいるし、ともなりません。それだけでなく、最後の決め手は、実に細かい機能にあります。それは、「Dolby NR」なのです。もう多くの方々の記憶から消えつつあるでしょうが、カセットテープ全盛時代には、これにできるだけのハイファイを期待する、そのうえでどうにも消えない高音でのヒスノイズ(高いサーという音)に対処するため、このノイズリダクションシステムを組み込むのが、「高級オーディオ機器」の必須になりました。要するに、ある基準で録音時に高音を強調して記録する、それを再生時に抑えるという原理で、これを規格化したDolby Laboratoriesというのは、世界中で天文学的な稼ぎをしたはずです。

 カセットテープの衰退とともにDolbyの稼ぎもほかにシフトし、規格自体どっかにいっちゃった観です。それで、いまの市販カセットレコーダーやプレーヤーには、まずこれは組み込まれていません。ところがよせばいいのに、私のカセット録音音源はほとんどDolby Onで記録されているうえ、30年前の市販カセットテープもほぼ、Dolby 付なのです。だから、今日日のカセットレコーダー等で再生するには躊躇われるのです。もちろん、30年前のD5MにはちゃんとDolby On/Off スイッチがありますし、AD800でさえそうです。だからこだわっていると言えるわけですし、TEACは今後もカセットデッキを売るのであれば、おそらくDolby On/Off スイッチをつけてくれるのでしょうが(いま売っているダブルカセットデッキW1200というのにもついている)、もうそれが最後の砦になります。


 DolbyNRなんていうのにいまもこだわっている私がチョー時代遅れなんでしょうが、まあ、いよいよ心中間近ですな。それとも再生は無視して、「カセットテープ回し馴らし」用に安いレコーダーでも買いましょうか。なんかバカバカしいけれど。






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