(2015.03オリジナル作成)
2016.08記述
パナ、「歴史」を公表
こうしたNECの挑戦を意識してか、パナは2016年6月付で、Let'sNote20周年をうたい、「レッツノートヒストリー」なるカタログリーフを出しています。ヒストリーですから、私の書いてきたものと完全に一致します。大いに興味をそそられますね。
web上にも、「レッツノート20周年記念 スペシャルサイト」というのが公開されています。「法人向け」サイトには、「レッツノートヒストリー」というのもありますが、このカタログリーフと同じではありません。
さて、この公史によると、Let'sNoteの歴史は1996年発売のAL-N1というのに始まるのだそうです。Win95使用で、Pentium120MHz、HDD810MHzで、10.4型SVGA画面、重さ1.47kgというスペックで、「当時画期的」であったそうです。私の買ったCF11はもちろん、この歴史には入れてもらえていません。「プロノートジェットミニ」だったんですから。そして、私が手にしたLet'sNoteとなるCF-A77もCF-A1も、この中ではだいぶ後の世代になってしまいます。「Let'sNote発売開始から3年後」なんですから、機種番号以外特に取り上げられてもいません。ドライブ着脱式の先駆け、CF-A44の方には言及されていますが。
そのへんは、先物買いはしない私の主義(のつもり)からして当然にも思えますが、2002年発売のCF-R1のことは見開きで大々的に取り上げられています。やはり私の印象通り、これこそ「軽量&長時間で、モバイルの定番に」とうたう、まさしくLet'sNoteらしい製品のスタートとされましょう。外観も、「らしさ」の塊と言えます。Let'sNoteへの不動の評価、究極の製品差別化を導いた製品でしょう。そしてその2スピンドル版として発売されたCF-W2も、CF-T1、CF-Y2とともにラインナップを構成したとも。
ただ、以降パナはほとんど国内市場に特化してきた、これも意図あってのことと思うのです。世界では売れない、そういう理解自体は、私自身には疑問に思えるのですが、何より価格でしょうか。
その後10年近く、Let'sNoteの歴史はモデルチェンジと性能アップの繰り返しとなります。OS、CPUなどがアップグレードされ、また省電力と長時間駆動などを向上、耐久性強化などを経ながらも、1から8まで、同じ型式のもとでほぼ毎年ごとに新機種が出されてきたこと、よくわかります。CF-F8という、ハンドル付きの新タイプも2009年に発売され、製品ラインを増やしてはいますが。
しかし、転機は2010年となっています。「多様なモバイルスタイルに合わせて」と、この公史は記していますが、正直にはパナの迷走開始でしょう。スマホの普及により、「モバイルパソコンにも新たな要望が挙がってきました」と書いているけれど、要するにスマホに食われ、PCの存在意義がどんどん奪われ、それに対し、手を変え品を変えて対抗するしかなくなった、そういう読みが正解です。ここの冒頭にあげられているのは、CF-J9という、「小型で携帯しやすく、ジャケットデザインが女性にも人気でした」っていうけど、要は見てくれをいじって、なんとかアピールしようという、世の中でよくある路線です。「今はない」ことを見れば、しょせん大したことなかったということがわかるじゃないですか。中古店の棚に並んでいるのも、その「ジャケット」がどっかいっちゃって、付いてないというのが珍しくありません。そして、Rシリーズのユーザーから失望の声しきりだったのもこれでした。よけいにワイド画面にしてくれたおかげで、字の表示が小さくて見にくい、キーボード手前のスペースが狭くて、キー操作しにくい、等々。電池などの互換性を含め、Rの流れを断ち切ってしまった観でした。
他方では、タブレット様にもなる「コンバーチブル型」のCF-C1とか、これも後継がないですよね。2011年には、フルHDの15.6型画面搭載のCF-B10、これも翌年にB11を出して、おしまいです。F8もそうですが、そんなでかい、持ち歩き無視というのはLet'sNoteの位置づけとは違いすぎ、卓上機用途に食い込もうという意図のみ見えております。
2012年には製品ラインも一定整理し、SX、NXシリーズを出したと記されます。「タフ・クリエイティブモデル」をコンセプトとし、「パソコンのコモディティ化が進む中、ビジネスパソコンには、性能と品質が必要と考えるパナソニックの姿勢を示した」と胸を張っておりますが、それでも製品群としては迷走が続きます。しかしすくなくとも、Let'sNoteは「仕事用」だ、安さで勝負するアマチュア用はもう切る、というポリシーだけは明確になりました。
SXは2スピンドルの標準的なPC、これに対してNXは先にも記したように、同じサイズ、性能だけれどDVDドライブを持たない1スピンドル機で、一般向けにはアピールしないが、業務用に大量に売ることを狙ったものと言えます。実際2010年代には、パナの売り方には店頭よりビジネス用、というスタンスがはっきり現れていました。
これに対し、一般ユーザー向けの製品群にはパナの迷いが顕著です。SXは一般向けにも売れるものの、他社製品に比べて割高、さらにインテルとマイクロソフトが推し進めるウルトラブックのコンセプトにならうものとして出したAXは、なぜかAX1はなくてAX2からで、C1同様の「タブレットにもなる」コンバーチブル型、うえにも書いたように、こうした中途半端なものに消費者は容易に手を出しません。結局AX3で終わっています。この「公史」にもあるように、「光学式ドライブを搭載した2in1が欲しいという声にお応えした」CF-MX3を2014年に出すに至り、AXは宙に浮いてしまいました。このころ、私ももうLet'sNoteを見限ろうかとも思ったところです。R1以来の、小型軽量、フル機能機の流れが見えなくなり、用いているS8やR9の後継が出てこない以上は。
状況をいっきょに変えたのが、2014年秋発売というRZ4です。「小型軽量を突き詰め、タブレットの良さも取り入れた」というか、なにより745gの画期的な軽さ、B5より小さいけれど、ともかく持ち歩きを徹底重視した製品、もちろん機能性能は十分、これはパナの歴史に新たなページを画するものと言えましょう。CやAXと同じ、180度曲げてタブレット状にできますというのも売りですが、それはそれこそ私にはカンケーありません。むしろ使い勝手として、ポインタがなにかのはずみで勝手に動く、勝手に動作するなどに腹が立つところです。ただ、RZシリーズが期待ほど売れているのかどうかは、疑問も感じます。
その一方、並みだけれどコンスタントに売れるポジションにあるSXの「後継」となるのが、2015年冬発売のCF-SZ5と記されています。他社製品と横並びで見られたら割高の、パナ製品としての「らしさ」をここでも発揮して、DVDドライブ内蔵なのになんと1kgを切る929g!これはインパクト大ですね。この「公史」にもSZ5の絵が大々的にページを飾っているうえ、あらためてその仕組みまで「解体新書」として、見開きで図解されております。ていうわけで、私めもRZ4とSZ5を買ってしまった次第、しかも後者は「Win7ダウングレード機」ですから。
結局この5年余で、JだのCだのBだのAだのの名は消えました。いま製品ラインに並んでいるのは、SZ5、RZ5、そしてMX5、LX5という4機種です。MXは上記のように、2スピンドルだけど「タブレットにもなる12.5型」、LXはブルーレイディスクドライブ内蔵もある大型機、まあそのへんの存在意義はビジネス用などであるのでしょう。
パナの迷いはこのPC受難の時代の反映でもあります。PCがこれだけ普及し、日常生活に入り込んでいても、こんどはスマホに取って代わられてしまう、それは当然の成り行きなのでしょうか。もちろん、繰り返し指摘してきたように、スマホで済んでしまう使い道や情報利用は、それをつくり、生かす「仕事」の範囲の現実の狭さを示すものでしょう。要するに「おもちゃ+α」、プラスせいぜい「ケータイテレビ」なのです、非難承知であえて暴言すれば。しかし、「それでいい」とするような生き方を、次の時代を担う学生諸君らに望んではいけない、たとえ狭い世界に見えても、あえて「パソコン使いこなす」ような意欲的な取り組みを期待せねばならないと説き続けるのは、幸か不幸かこの急展開の時代と共に生きてきた、私の責任のうちだと考えるのです。
「ネットブック」が躓きの石?
ことのついでながら、こうした「通史」を読むに、PCに大打撃となったのは、一時大量に出たいわゆる「ネットブック」のせいじゃないかとつくづく思えてきます。インターネットアクセスが広く普及し、あらゆる情報がそちらに流れる時代が来た、このタイミングで、PCメーカー、特にASUSやACERなどの台湾系などが2007年あたりから大々的に売り込んだのがこういうたぐいで、大量生産を背景とする、お手頃価格と手軽さで世界各地でのブームを築きました。日本の市場でも5〜6万円くらいで並んでいましたな。RZ4並みというか、B5サイズ以下のコンパクトさ、いろんなカラーリングやデザインなどで、アクセサリー的雰囲気も演出されていたと思います。実際あの頃は、あまりPCなどにも縁のなさそうな方々が店頭で手にする光景もよく見られました。
ところが、使えないんですよ。もちろん、そもそもPCを操作する、それにはかなりの知識と慣れがいることは否定できません。マニュアル的手順というより、PCというのはどういう装置で、どういう仕組みと流れで動いているのか、PCは主にはなにをさせるのに使うのか、そのへんを頭に入れないと、先に進めないのです。「このボタンを押せば」、インターネットのサイトが写ります、といかないんですな。だからこそ、PCに違和感ありすぎの多くの方々の戸惑いを見て、アップルやグーグルなどが、スマホの時代の方向性を築くきっかけを得た、そういうことなのでしょう。スマートフォン自体は、ブラックベリーなどのつくったコンセプトで、メイルはありでも、インターネットweb接続が前提じゃないのですが。
たとえ仕組みと操作手順は飲み込めても、「ネットブック」は決定的に非力でした。ネットブックの大量普及には、WinXP廉価版の提供とともに、インテルが供給したAtomCPUの貢献が大であったのは周知のところです。グラフィックプロセッサと一体のかたちで、安価であるのが最大の売りでした。けれども、安いだけのことはあり、そんなに高い性能は期待できません。これは同じAtom使用の富士通の超小型モーバイル機で私も十分に実感しました。公称1.6GHzなんていうのはどうにも信じられないような処理反応ぶりです。鉄腕アトムと言うよりは、コバルトの足下にも及ばず、ですな。
これで「ネットブック」での軽快なネットサーフィンを体験しようというのはどうしても無理でしょう。急激に複雑高度化するwebページなどの仕掛けに対応するにも。しかも、それらは値段を抑えるために、内蔵メモリも1GB程度、HDを使っていても小規模なもの、あるいは小サイズのSSD、入れるソフトは最小限、加えてこのちいさなボディに収めたバッテリーでは長持ちするはずもない、つまりPCとしての機能をミニマムにした、それが特徴でさえあったのです。
実例で言うと、たとえばASUSのEeePC S101というのは、2008年11月発売ですからかなり後の製品ですが、10.2型液晶画面、Atom1.6GHzCPU、1GB内蔵メモリ、16GB フラッシュメモリドライブ使用、重さ1.06kg、バッテリ動作時間6時間となっています。これで4万円を切る価格で売られたようです。もちろん無線LAN関係は充実していますが、Windows XP Home Edition使用でも、このドライブサイズではMS-Officeをインストールするのは無理でしょう。
2009年6月発売の東芝dynabook UX/24JBLというのは、10.1型ワイド液晶画面、重さ1.18kgで、やはりAtom1.66GHzCPU使用、1GB内蔵メモリ、ただし160GBのHDを装備し、Windows XP Home EditionにMS-Office Personal Edition 2007 (2年間ライセンス版)をインストールしています。そのへん、PCとしての使い道を重視しているものの、引き替えにかバッテリ動作時間は公称4時間で、かなり厳しいことを伺わせます。実売6万円以上なので、ネットブックに割り切れなかった観もうかがわせますね。
結局、ネットブックは、「これさえあれば、インターネットが見れます、使えますよ」という店頭での売り込み、そして回線接続込みでの抱き合わせ販売の目玉というか、おまけのように機能して、一時期店頭にあふれたのです。しかし、これでは結果として、多くのユーザーの失望とPC離れを促すことになったのではないでしょうか。モーバイルPCとしての利用を期する人たちにはまったく使い物にならないという拒否反応を、また他方でともかくインターネットをという広範な層には、わかりにくく面倒くさい、動きがのろい、扱いづらいという失望感を招いたとせねばなりません。PCは使えんという世評をむしろ定着させたとも言えましょう。ここに、スマホが指先タッチ操作を武器に真っ向切り込んできたのです。皮肉な言い方をすれば、ネットブックがかなり多くの人たちを引き寄せ、インターネット利用に巻き込み、そしてこれをスプリングボードとしてスマホによるインターネット常用に向かわさせたと言えるのかも。「ネットブック捨て石説」です。
嘉悦大学はじめ、大学や教育機関はネットブックを薦めませんでした。こんなものじゃあ、授業などでは活用できないという、当然の判断だったでしょう。そしてパナソニックはこうした危うい製品に手を出しませんでした。だからこそ世界市場を相手にはしなかったというか、少なくとも国内市場に関してはそれが正解だったのでしょう。NECも、東芝も、ソニーもみんな手がけたのですが、いまはみんな手を引いていますな。そして多くの方々の机の中で、何年間も使われないままのネットブックが多数永眠されていることでしょう。