ホテルの建物や内装はきちんとしていますものの、指定された部屋は日本のビジネスホテルより狭く、ベッドとベッドサイドの小机、椅子があるのみ、それで一杯状態で、テレビは天井近くにつるされているほどでした(それでも浴室は欧米水準の大きさでしたが)。いくらダブリンのホテルが全般的に猛烈に高いといっても、これで一泊二万円以上も取るというのはどこでも詐欺に近いと言われましょう。しかもあきれたのは、この部屋の大きさや設備がそれぞれまちまちであったことが判明したのです。私の部屋にはそれでも洋服掛と引き出しのついたクローゼットがベッド脇の壁についていましたが、これもない部屋がありました。あべこべに、クローゼットもライティングデスクもある部屋もあり、私に与えられたところが一番狭いと判明しました。
そしてもっとあきれたのは、チェックアウトの際に、「ミニバーの使用は?」とマニュアル通りに聞かれたことです。私の狭い部屋にはミニバーなんかありません。「そんなものないじゃないか」と答えたところ、「ミニバーのない唯一(?)のところ……」などと聞き捨てならぬことを口ごもっていましたが、この件を追求する前に、下記の重大事が生じましたので、そのままになってしまいました。
上記の件は御社に直接の責任があるものではありませんが、私としては今後御社がこのホテルを紹介しないことをおすすめします。この部屋のいい加減さだけでも、日本の団体旅行客なら怒ってしまうでしょう。
以下は、今回の御社とは関係のない事態ですが、ご参考に記します。この国の「ホテル事情」を示すよい教訓です。
12日5時頃にダブリンからリムリック(Limerick)にレンタカーで向かい、道路事情がよいのと、私がやはりリムリックにも土地勘がありますので、夕刻8時過ぎには市中心部の予定のホテルに着けました。ところがそのホテルのフロントは「そんな予約はない」と言います。このホテルには、現地在住の知人のひとが一ヶ月近くも前に直接行って、私たちの分を予約してあるはずで、それではと電話して聞きますと、当日午後にもこのひとがホテルに電話をし、予約を確認し、午後9時近く到着と伝えてあるということです。ご本人も飛んできて、やり合いましたが、先方は「システムに記録されていない」、「今夜はもう部屋がない」の一点張り、唯一「予約番号がありますか」と逆襲してきます。とりわけフロント担当の女性に至っては、「なにを迷惑なこというんだ」と言わんばかりの態度、「sorry」の一言さえもありません。
ただ、「別のホテルを紹介する」として示してきたのが、「2マイルイン」といいますので、しかも実質的には2マイルどころか5マイルも離れているところ、冗談じゃない、こちらは仕事できているんだからそんなとこは論外、なんでもっと近いところはないのか、とただせば、「市内はどこも満杯ですから」の一言、実際に調べもしていないことは目に見えています。腹が立つのを通り越して、もう絶句するしかありませんでした。
在住の知人が押し問答をし、ともかくマネージャという人間が「apologise」を口にし、あらためて当たって紹介をしてくれたところが、市の中心からはちょっと離れているがというホテル、そこは予定のsingle×4泊とれる、値段も同じといいますので、午後10時過ぎにようやくそのホテルに着けました。もちろん夕食もなし。
多くの旅行者の方々が同じ災難に遭わないよう、このトンデモホテルの名も記さなくてはなりません。
Glentworth Street, Limerick
今回調査の訪問先の公的機関には、しかるべく事情は伝えておきました。この地域は観光業には向いていないだろうなという印象とともに。
紹介されてようやく午後10時過ぎにたどり着けたQホテルは、市中心から順調ならば車で5分程度、2週間前にオープンしたばかりということ、たしかに部屋も広くてきれいであるだけじゃなく、至るところ突貫工事でやっつけたのが見え見え、ドアがきちんと閉まらないとか、工事ゴミが散らかっているとか、かなりひどい状態で、マネジメントも慣れていない様子が見えました。
そのおかげで、まず同行者の一人の案内された部屋が「未清掃」のままの状態、早速にフロントに戻って文句を言えば、「システム上は清掃済みのはず」とのたまいます。見てくれとその部屋まで引っ張って行ってようやく確認されましたが、代わりの部屋を確定するのにもずいぶん手間がかかりました。「システムが掃除をしてくれるのか」というところ。
この彼の部屋とともに私の部屋のブロードバンド接続は、つないでみてもうんともすんとも言わない状態、部屋によってはきちんとつながりますので、これもひどい話しです。結局4泊を終えるまでなんのメンテもされずじまいだった。それどころか彼の方は運の悪いことに、電話も内線も外線もつながらない状態でした。辛うじてロビーで無線LANが使える(もっとも電波がなぜか弱くて時々切れてしまったり)とわかりましたので、完全な情報孤児にはならずに済みましたが、なんともお粗末です。朝食も大したことはありません。まあ、開店価格か、ダブルルームシングル使用で一泊79ユーロに我慢するしかない現実でした(それでも円に直せばずいぶんですが)。
ここでもチェックアウトの朝、一騒動ありました。いま、ヨーロッパではクレジットカード会社が伝票サイン精算を阻止し、「PINナンバーを入れなさい」とやっているようで、これ自体、客にリスクを転嫁しようとする、そして客の側の盗用危険を高めるとんでもない対応と言えますが、このホテルでもいきなりPIN入力を求めてきます。私はそんなものは覚えていない、サインをさせろとしましたが、フロントがあれこれいじっているうちに、同じ操作を繰り返したせいか、「システムがカードを受け付けなくなって」しまいました。またもシステムのおかげです。結局私の持っている英国のクレジットカードで辛うじて支払いを済ませられました。
その晩の宿泊先は決めていませんでしたので、前夜に同行者連中が次の目的地、ゴールウェイ(Galway)のホテルをインターネットで検索し、なんとか確保しようとしたがことごとくダメ、この同じホテルチェーンならとフロントに聞いて貰えば、部屋はある、一泊139ユーロだといいます。それは高いじゃないか、場所も市の中心から遠いですし、インターネット上にはもっと安い値で書いてあるはずと揉め、「ツインルームのシングル使用での部屋あたり週末料金だ」、「いやなら自分で予約してみれば」と言われ、彼らは意地になってやってみましたが、結局ネット上からの予約はできなかったようです。やはり「インターネット予約システム」はそんなにうまくできていないと悟らされ、フロントにお願いしてここを一泊139ユーロで頼むしかありませんでした。
このゴールウェイの同チェーンホテルはリムリックと違って市中心から相当遠く、車でも15分はかかり(公称10分はウソ)、しかもホテルというよりレジャーランドのようで、宿泊客も大部分がスポーツジム利用の家族連れや老人団体客、建物もちょっと古く(ドアのカギは大きなやつで、しかも容易に開かない、閉まらない)、ビジネス向きではありませんでした。インターネットなんてなんのこと、という設備状況でした。唯一の良さは、朝食に生野菜やサラダが豊富に出たくらい(ダブリンでもリムリックでもほとんどなし)、もっともこれらの入れ物にふたがあったため、私以外の同行者は誰も気づかず、食べられませんでした。またその夜はゴールウェイ市内に夕食に出て、帰り道では雨の中かなり迷い、ちょっと危ういことでした。
最後の宿泊地アスローン(Athlone)では、たまたま目の前の川縁にあるのが最大のホテルだと気づき、フロントに行ったら、あっさり宿泊可となりました。日曜夜でもありますから。このホテルは唯一まともなものと言えるところで、それでもシングル一泊130ユーロ、これより高かった前夜とは雲泥の差でした。
このホテルは航空会社の経営で、最近建ったばかりのよう、内装もきれい、設備もよく(無料のブロードバンド接続も良好)、もちろんミニバーも大きなクローゼットもついていました。なにより、スタッフが非常にてきぱきとしていて、当方が宿泊を申し込んだ際がちょうどお昼頃、逆に宿泊客が大挙チェックアウトしていたため相当混んでいましたが、どんどん処理をし、当方はすぐに部屋に入れました。
ただし運の悪い同行者はまたも掃除されてない部屋を割り当てられてしまい、フロントで文句を言えば、これまた「システム上では掃除済みとなっている」と言いだし、悪夢が頭をよぎりましたものの、今回はあっという間に別の空き部屋に割り当てを変更してくれました。また、東欧系と思われるボーイ(いま、アイルランドでは東欧系やアジア系の外国人労働者が著増しています。かつて世界中に移民が流れていったアイルランドにとっては「画期的な」事態です)は不慣れのようであったが親切で、荷物を運んでくれても決してチップを受け取りませんでした。チェックアウトも実に迅速で「ノートラブル」でした。
ただ、このせっかくのよいホテルも場所がメジャーではないためですか、規模を大きくつくりすぎたのですか、あまり経営が楽ではないように見受けられました。立派なレストランがありながら、朝食にしか使っていないようで(野菜など豊富)、もったいないばかりでした。アスローンの町にも工業団地などつくられていますが、ダブリンにかなり近いせいか、いささか活気を欠きました。
アイルランドの美しい山野、海岸、のどかな村々、うまい食べ物飲み物、陽気な音楽やケルト文化の遺跡、それらだけを見れば味わえば楽しい旅でしたし、なにより近年の経済発展めざましいこの国の状況をさまざまな角度から直接目にし、もちろん多くの訪問先で調査情報を収集できたのは大きな成果でした。しかし、「旅にトラブルはつきもの」とはいえ、こんなにたくさんの、特に宿泊関係のトラブルに遭遇したのは、私もいままでにありません。
同行者の人たち、リムリックで世話をしてくれた知人、皆さんともに相当な目に遭わされたわけですが、それでもなお耐えてくれたのは感謝するばかりです。
これを「成長のひずみ」などと片付けるのは簡単ですが、あるいは昔の素朴なりし時代はもっとはるかにひどかったのかも知れませんが、それにしても、なんでも「システムのせい」にして知らん顔をするIT大国には、感心するしかないということでしょうか。
(2024.2)
アイルランドにはその後も何度も行きました。
2008年のリーマンショック後には、かなりの後退もありましたが、全般的には欧州経済の優等生役を務め続けてきている印象です。リムリックにも再訪の機会がありました。以前と同じ成長戦略はとれなくなってきているものの、勢いは継続していました。
皮肉なことは、英国のEU脱退です。これにより、北アイルランドを含め、アイルランド全体の今後がより複雑化したうえ、公用語を「ゲール語」としながらも、事実上英語圏であるアイルランド共和国が、EUの中で唯一の、英語国という存在になってしまったことでしょう。それもあってか、というより、事実上の国際言語である英語を、EUも第一の表記手段にしているままなのです。いまさらエイゴなしには出来ない、それが「国際社会」の現実ですね。