三井の、なんのたしにもならないお話 その一〇

(2001オリジナル作成/2024.3サーバー移行)

 (22年後の「追跡調査」つき)


 
 
大発掘!10年前の「大予言」は当たったか?

「週刊誌」の効用



 「10年たったら」、正確には9年なのですが、ま、四捨五入でいいじゃろ。「millennium」もホントは2001年からじゃないと計算が合わないはず、と思えど、世界中が2000年で雪崩を打っちゃったくらいですから(これについては、私の「予言」通り、欧米では「21世紀の幕開け」の方はとんと盛り上がりませんでした。ロンドンなんか、2000年末の話題は、「ミレニアムドーム最後の日」であったくらいですから− できすぎの話し −!)。
 
 その2001年、21世紀を迎えて、新たな「旅立ち」に、20年かかってごみためと化した研究室を少しは掃除しなくちゃと、むなしい努力をしていたら、古い週刊誌が出てきました。『○○デー毎日』1992年1月19日号(第71巻2号)てんで、それだけでも、いかに地層の堆積がすすんでいたか判明します。もちろん、決して「どっかからもってきて、こっそり埋めた」わけじゃなく、地層のうちに、ひっそりと「化石保存」されていたのです。
 
 この現物が世に出てちょうど9年、文字通り「隔世の感」ありの中身を実感しました。バブル期じゃない、「失われた10年」の'90年代はじめの刊行なのですから、いかに世の中変わったか、これだけでも証明できます。
 
 


 中をあけると、いきなり「ミセスサッチャー」の写真が大写しの色刷り全面広告ページ、これがなんと、「○の華」の「福△法源」氏との対談なんですな。ここでは「地球環境問題にとりくむ」エコロジストの肩書きの「法源」氏、いまじゃあ、「詐欺罪に問われた」という冠詞がつくので、まず第一の「様変わり」です。ミセスサッチャーは「法源」氏の「著作」をお持ち帰りになって「読ませていただく」そうでしたので、いまのご感想はどうでしょうか。私なんか、この際いくらぐらい懐に入れたのか、それも知りたいところですが。
 
 週刊誌定番記事の、「あの人はいま」、も載っています。「藤圭子」とかいう人のことが取り上げられ、二度の引退後いまはNYへ子連れ旅、そのうち演歌でカムバックも期待、とあって、そのつけたりに、「五十七年に結婚した宇多田照美さんとの間に、光ちゃん(八つ)という女の子がいる」と記されていては、誰もが感極まれり、です。この、ありがちな「特集」(ヒマ時の穴埋めものともいう)で再登場の、「キャロライン洋子」とか、「ゴールデンハーフのエバ」とかは、以来またまた幾星霜、どうなっちゃったでしょうか。「伊藤咲子」というのは、最近見たTV版「あの人はいま」で、この9年前と同じ、カラオケスナックのママでしたな。
 
 「'92年のホープ」として、グラビア第1ページをかざっているのは、「ルー大柴」、あっという間にメジャーになり、あっという間に駆け抜けちゃって、近頃はめったに見かけません。「ダウンタウンやウッチャンナンチャンに続くのは」という見出しが、いかにも寂しくなります。その裏は「浅草キッド」二人組、これはまだまだしぶとい。
 
 カタいところでは、中曽根が宮沢や小沢に説教という、これは9年たっても全然変わらないパターン、まさに「怪物」です。

 
 『毎日』得意の「受験記事」、そこで「臨定」増員で「ねらい目」が駒澤大学、と書かれては、嬉しいと申すべきか、「こんなこと書きやがって」と、いまは怒るべきか、複雑なところです。
 
 


 この手の「隔世の感」ものはきりがありませんが、圧巻は、これには「'92年にちなんで」(安直な企画)、今年はどうなる、「92年の92大予測」というのが、それぞれ「その道の達人」のご意見として、ずらり8ページも載っていることです。ぜんぶ「達人」の名前入りだから、言ったご本人のいまの「ご見解」も是非うかがいたいところ、それで「10年前の予言、当たったか外れたか」という企画がまた一丁できると思うのですが、これにはみんな「応じてくれない」かも。
 
 冒頭、「宮沢りえ、今年の衝撃パフォーマンスは」が第一問で、回答者は和田勉氏、「あとはもう太るしかないよ」とあっては大はずれでした。そう、あの「一世を風靡した(淫靡した?)」『サンタ・フェ』発売は、91年のことだったのです(ここでクイズ、その撮影者は誰だったでしょう?)。
第五四問「若貴、大関はどっちが先?」(「横綱」の間違いではありません、念のため)とは、むろん全然関係づけられてはいません(回答は飯星景子氏)。
 
第六七問「1ドル=110円台になるか」、第六八問「東証株価は3万円台に回復するか」あたりは、あまりに月並みすぎ、おまけに、「将来はありうる」とか、「2万円割れも覚悟はいる」などと回答が結構当たっていて、おもしろくはありません(前者は水谷研治氏、後者は生井俊重氏)。
第一四問「日本の銀行にも倒産はあるか」は、当たりすぎで不気味です。「一部の第二地銀あたりは、倒産の危険性が出てくるところがあるでしょう」、しかし、最終的には、「何らかの動きが出てくるとは思いますが」、これが笹淵金二氏(誰や、それ)のこたえでした。
 


 おもしろくないので、とりあえず、ぜんぜんはずれ組のこたえをあげていきましょう。
第三問「雲仙普賢岳は大噴火するか」、いや、「今年中に沈静化するでしょう」(白石一郎氏)。
第二三問「小沢派の旗揚げはあるか」、「もちろんない」(早坂茂三氏)。
第二九問「鈴木亜久里、F1で初優勝?」、「亜久里さんなら絶対やってくれます」(川井一仁氏)。
第四四問「グリコ森永事件は解決するか」、「きっと解決します」(河内屋菊水丸氏)。
第五一問「長嶋一茂は今年こそレギュラー定着か」、「今年はやるでしょう」(関根勤氏)、同業者になるまでは読めなかった?
第五八問「ブッシュ大統領に勝つのは誰」、「いません、再選ですよ」(ケント・ギルバート氏)、これは八年先までの「深読み」なら、大変な大予言ですが。
第六〇問「山本リンダ後の流行は」、「たとえばキャンディーズ」、ほかに、「南沙織や木之内みどりも”逆襲”してほしいなあ」(中谷彰宏氏)。これは難しすぎたというより、いまとなっては、「え、山本リンダが”流行”していた?」というところ。
第七二問「景山民夫はベストセラーを出せるか」、「出ます」(内藤陳氏)、まったくひとの運命だけは予測不能とせねばなりません。
 
 一方、第四三問「バルセロナ五輪、マラソンで日本選手が金メダル?」、「ボクが出場したら」、いやそれが無理なら、「有森裕子さんがとりますよ」(間寛平氏)、これは惜しかった。はずれとは言えないかも。
第七六問「ゴルバチョフの政治生命は終わりか」、「よみがえる可能性はありますね。確率は五分々々でしょ」(秋野豊氏)、これは「予言」云々より、合掌黙祷するしかありません。
 


 当たりすぎで気味が悪いのが、
第九二問「皇太子妃は決まるか」、「私は春にご婚約、秋にご成婚だと思うのですが」(河原敏明氏)、こういうのは、「インサイダー情報」とすべきでしょう。
第五二問「脳死による臓器移植は行われるか」、「行われます」(加賀乙彦氏)。
第二一問「ビッグ3の一角が消えるか」、「いつかはわからないが、確実に消えるだろうね。一番先はクライスラーですね」(徳大寺有恒氏)。これはすごい、でも「将来、三つとも消えるかもね」は、口の滑りすぎ?
第四〇問「フセイン暗殺は発生するか」、「ないでしょう」、「暗殺して得するのは誰ですか」(船戸与一氏)、たしかに。「湾岸戦争一〇周年」で、なにも変わらず、変わったのは、「国際社会」の包囲下に日々死んでいく、あるいは米英軍の爆弾で殺される、イラクの市民だけです。
第八二問「辰吉丈一郎は復活できるか」、「大丈夫」(森恒夫氏)。
第七〇問「プロ野球にフリーエージェント制は導入されるか」、「早くて三年先ですね」(有本義明氏)。
第七四問「芸能界は告白本ブーム?」、「はやると思う」(塩田丸男氏)。
第八五問「ポスト山田邦子は誰」、「なんでみんなが山田邦子を有り難がるのか、わからないんですよ」、「ポスト山田邦子はいない」(ナンシー関氏)。いい線ですね。
第八七問「『笑っていいとも』がテレビから消える?」、「今年いっぱいはもつだろうね」、「これからは引き際も大切。無理して居座ると、大橋巨泉になっちゃうね」(石堂淑朗氏)。これははずれたのではなく、ホントに「大橋巨泉になっちゃった」のでしょう、ただしその本家は、「セミリタイア」で逃げたけれど。
 


 「賞味期限一年間」の「予言」には所詮無理がありましょうが、さすが「卓見」と思わせるものもあります。
第七八問「週休3日は普及するか」、「『時短』は進まず、過労死がもっと増える」(岡村親宜氏)。「時短時短」で明け暮れたあのころ、まさに隔世の観ありです。
第三七問「公明党は自民党に吸収されるか」、「吸収されることはないです」、「独自の政党を維持しつつ、政治的には自民党に接近するでしょうね」(森田実氏)。この9年間に、たしかに一度「公明党」は消えたけれど、すぐ復活、いまは「大接近」ですから、あたりでしょう。
 でも、ビックリなのは、第二五問「宗教ブームはまだまだ続く?」、「もうブームは終わっていますよ」、「ただし、創価学会は急激には崩れません」(島田裕巳氏)でしょう。惜しいのは、”バブル宗教”を批判したおのれに、とんでもない火の粉がやがて降りかかって来ちゃったことで、このときはまだ、「日本女子大助教授」の肩書きでした。

 
 
 みなさん、週刊誌はとっておくと、いろいろ御利益があって楽しめますね。でも、くれぐれも二階の床が抜けない程度に抑えること。


 

続き


このお話の後日談。


 いよいよ本格引っ越しのために引っかき回していて、再びうえの週刊誌を目にしたら、その巻頭に感無量でした。

 巻頭カラーグラビアページを4ページにわたって飾っていたのは、「92年のホープ 実業家・斎藤澪奈子のすべて」でありました。どの写真でも、大迫力のポートレイトの目線がこっちを見据えています。「ゴージャス系」の元祖ですな。彼女のつくった流行語、「ポジティブ・シンキング」が全ページ連発されていますが、いまは誰が覚えているんだろ。

 斎藤氏の紹介は、「実業家。1956年、東京・目白生まれ。ロンドン大学物理化学科、フィレンツェ大学美術科を卒業。10年間のヨーロッパ生活で、上流社会の華麗なライフスタイルを得て85年帰国し、斎藤オフィス設立。 …… 英仏独伊西語に堪能。趣味はセーリング、乗馬、マーシャルアーツ。著書に『ヨーロピアン・ハイライフ』『愛のポジティブ・シンキング』。独身。」、かくのごとしであります(原文のまま)。

 このころから、荒唐無稽、ばかばかしい嘘八百を堂々並び立て、それで世に出る、マスコミのうけをとる。どんなことでも自分自身が信じ込めば、どんな格好でも恥ずかしげもなくすれば(どこが「アッパー」なんだ、「アッパッパ」の間違いじゃないか −これは古すぎて誰もついていけまい)、もうそれでOK、こんな生き方がまかり通るようになったのでしょう。何でも言っちゃった方、やっちゃった方が勝ちよ、と。


 しかしいまはここでも、合掌黙祷するのみであります。時の流れはあまりに無情です。

   ま、考えようによっては、斎藤女史の言うように、先のことなんか悩まず、「信じたことは必ず真実になる」と、ポジティブに生きられればそれでいいのかも。「運命や宿命が私達の人生を支配しているのではない」、いい言葉です。






2014年の再確認

 
 
 
 出てから丸二十二年も過ぎれば、「当たったかどうか」よりも、「予言」したご本人たちの辿ったさだめの方が気になります。もううえの「感想」を記した時点で、他界された人たちも少なくなかったのですが、いまいちど、百人の「予言者」のことを確認しました。

 
 和田 勉
 白石一郎
 玉置 宏
 ドクトルチエコ
 磯村英一
 小森和子
 藤本義一
 立川談志
 早坂茂三
 梨元 勝
 細川隆一郎
 室伏哲郎
 江畑謙介
 広岡敬一
 周 富徳
 平島祥男
 志賀信夫
 内藤 陳
 秋野 豊
 ナンシー関
 森 毅
 石堂淑朗
 
 
 「予言」を匿名としているひともいるので、正確な計算にはなりませんが、百人中二十二人の方がすでに故人となられています。
 二十二年にして、むしろずいぶん多くの人たちが健在、活躍されているよという見方もできるかも知れません。また、若くして他界された人々は、自分の「さだめ」を予言できなかったなどという誹りは不謹慎でしょう。誰にも、私自身にもそんなことわかりはしません。ただ、一年に一人ずつの計算、偶然にしてはできすぎでしょうか。


 
 それでも、秋野豊氏、ナンシー関氏など、若くして活躍中に不慮の死を遂げた方々には悔やまれます。秋野氏のことにはすでに言及もしましたが、外務省から国連監視団に派遣され、研究対象でもあったタジキスタンで活動中に襲撃を受け、無念の死を遂げられたのです。1998年、48才の若さででした。もちろん今もって真相はわからず、命を奪った者たちものうのうとしています。今日世界のいたるところで起こっている事態の嚆矢とも言えましょう。誠に悼ましいことです。

 
 ナンシー関氏は週刊誌に連載を持つ「消しゴム版画作家」で、個性あふれた画風と、芸能人らへの鋭い突っ込みで知られていました。独特の風貌、TVなどメディア業界への風刺の効いたコメント、得難い異才だったのですが、39才で急逝してしまいました。

 「事務所」と「ギョーカイ人」たちにいいように仕切られ、見え見えの仕掛けと「上からの指示」でのみ動くいまどきのマスメディアの世界に、誰にも遠慮なく、言いたいままを言う、そんな人がいなくなってしまったのはたしかに惜しんでもあまりある損失です。
 「ポスト山田邦子は誰」、というより、みんなお粗末な操り人形しかいない、いま生きておられたら、そう記すでしょうね、もっと鋭い一言で。




 
 なお、この『サンデー毎日』1992年1月19日号のほかの特集記事、「ふと思い出す『元祖』の女性たち」には、記したように藤圭子の名もありました。この人ももうこの世にいない、寂しいことです。並んで取りあげられていた安西マリアも今年、急の病で世を去りました。

 巻頭グラビアを飾った斎藤澪奈子氏、カラー広告記事で福永○源氏と「対談」したマーガレットサッチャー女史、いずれももう冥界に去られました。全然変わらず元気なのは、中曽根康弘御大です。

 
 一方、巻末グラビアで特集されていた、「いま売り出し中」の○淵◇保という女性、某鉄道会社のCMのキャラに抜擢され、いよいよ順風満帆という描き方でしたが、二十二年後のいま、誰も知りません。どこで何をしているのかもわかりません。
 「シンデレラストーリーはまだ、始まったばかりだ」、こう記事は結ばれています。シンデレラのカボチャの馬車は、ガラスの靴も残さず走り去っていってしまいました。この業界で生き残るのはどんなに大変なことか。
 
 「その点、学界なんて楽だよね、▽△方さんみたいなことでもやらない限り大丈夫なんだから」という、誹りの声も聞こえてきそうです。

 
<訂正>


 失っっつ礼いたしました。

 「92年の92大予測」で、百人の予言じゃなかったですね。
 22/92ですから、サバイバルレートはだいぶ下がります。




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