21世紀の日本産業とサプライヤシステムのあり方
 −自動車工業サプライヤ中小企業の動向を中心に




 
 

             社団法人中小企業研究センター 調査研究報告 No.110

                                2003年3月刊



 
 (三井逸友、遠山恭司、大片政人 担当執筆)


 
 はじめに −研究の課題と方法

 
 
 従来日本産業の発展を支えてきた自動車、電機・電子、機械工業などの下請サプライヤシステムは1990年代に激変の時代を迎えた。かつては効率的な分業生産体制として世界の注目を浴びたこの仕組みは、急速な経済のグローバル化と日本企業の海外事業展開・現地生産化の進展、さらに国際規模での競争の激化、米国ビッグスリーをはじめとする海外ライバル企業の復活、東アジア産業の台頭、中国の経済的プレゼンスの高まり、バブル崩壊以降の国内市場の停滞と「価格破壊」の進行といった環境変化の波が襲い、加えて、世界経済のボーダレス化・情報化を背景に進められた欧米企業の世界規模の生産体制とサプライヤシステムの編成、「サプライチェーンマネジメント」といった新しい管理方法の推進が多大な影響を及ぼしてきた。
 
 こうした状況の一方で、自動車産業では完成車メーカー同士の競争における業績格差が広がり、90年代末には国際的なメーカー間の系列関係の再編成が一挙にすすみ、経営の悪化したメーカーの外国有力メーカー傘下への統合、それに伴う大規模なリストラの実施、欧米的サプライヤシステム管理の導入、グローバル購買化などが顕著となり、業界地図が大きく塗り変わった。
 
 このような大きな環境変化と変貌は、一方では従来の「日本的サプライヤシステム」の限界の指摘、その解体論を呼ぶし、他方ではその過半を担ってきた数多くの中小企業の状態に多大の影響を及ぼす。中小企業のうちでは、従来型の経営基盤を脱却し、「脱下請」化をすすめ、新分野への転換をなした例も少なくない。あるいはまた、自立した部品メーカーや組立専門企業への脱皮をすすめ、多様な企業と取引し、独自の地歩を固めつつある企業もある。けれども、我が国の自動車産業は依然、年間生産額14兆円、総従業者700万人の巨大産業であり、これに関わる中小企業も4万社以上になるものと推定できる。
 
 
 当センターでは、従来から分業生産体制と中小企業の地位、外注管理の展開といった課題について数々の調査研究を重ねてきた。『自動車部品工業の現状と問題点』(1968年)、『わが国における外注・下請管理の展開 (機械工業を中心として)』(1976年)、『自動車産業における外注管理の新たな動向 (生産体制との関連性をめぐって)』(1979年)、『生産財マーケティング戦略とユーザーの購買行動』(1981年)、『電子部品工業における構造変化と 80 年代の生産・分業体制』(1981年)、『下請中小企業の新分野進出に関する研究』(1988年)、『構造調整下における電機関連中小企業の生産システム変化と今後の課題』(1990年)、といった各報告書等がこれまでに刊行されている。また、生産分業体制の国際比較の先駆けとなった、『昭和55年版 中小企業白書』の記載も、当センターの調査にもとづくものである。サプライヤ中小企業の状況の調査研究は、日本の中小企業研究の重要な柱である。
 
 
 本調査研究では、こうした当センターの調査研究の成果と到達点を踏まえ、また80年代から90年代にかけて活発となった、日本型システム評価の諸理論を念頭におきながら、今日の環境変化のもとにあって、自動車産業における生産分業体制としてのサプライヤシステムの求心力と機能がどこにあり、効率性・競争優位性がどこまで維持可能なものか、またそのなかでのサプライヤ中小企業の地位と存立基盤がどのように変わり、どのような経営が志向されているのか、従来の諸議論や将来予測、今日的な評価論、自動車産業の実態把握、そして自動車部品サプライヤ企業事例への詳細な調査を手がかりに、21世紀を迎えた段階での現状と展望を検討考察するものである。
 
 
 
 本報告書は以下のように構成される。
 
 第1章 「日本的サプライヤシステム」の形成と展開、その役割
 
 第2章 自動車工業をめぐる急激な環境変化と国際的再編成
 
 第3章 大手自動車メーカーの生産システム変革と購買外注政策の動向
 
 第4章 自動車産業サプライヤシステム及びサプライヤ企業の現状
 
 第5章 まとめ
 
 事例研究

 

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