社団法人中小企業研究センター 調査研究報告 No.114
2004年3月刊
(三井逸友、福田敦、高橋範央、大槻典彦 担当執筆)
はじめに
社会の全般的変化と交通・通信手段の発達、生活様式の変化、そして規制緩和などによって、既存の中小小売・サービス・飲食店企業などが形成してきた「商店街」は各地で大きな困難を迎えている。顧客減少と売上不振に悩み、将来に大きな不安を抱える商店街は全体の9割にものぼると推定されている。しかも、大型店や郊外型ショッピングセンター、ロードサイドショップなどが消費者の行動に変化を及ぼしているだけでなく、大部分が家族経営に依拠してきた中小商業側では金融難、後継者難、経営意欲の低下などの問題を抱え、廃業が相次ぎ、商業の地域的集積の利であった既存商店街では「歯抜け現象」が生じ、地域の魅力が低下し、経営の困難が増幅するという悪循環的状況に陥っているところが多い。中小商業数の減少は顕著で、この20年間に40万以上も減っている。
こうした困難に対し、国や自治体も小売商業振興法や特定商業集積法、小規模事業者支援促進法などを活用し、支援策を講じてきた。さらに大店法の撤廃後は、これに代わる大店立地法、中心市街地活性化法、都市計画法などを動員し、TMO(タウンマネジメントオーガニゼーション)を軸にした多様な商店街活性化策を地域ぐるみで実施していくことが期待されている。けれどもまだこうしたしくみからの成果は乏しく、閉塞感は依然強い。
もとより既存商店街は、業種的にも経営的にもさまざまな企業の集まりであり、個々の利害も微妙に錯綜し、さらに一つの空間を共有する運命共同体性と裏腹に、「家業」継承下での経営活力の低下や人間関係をめぐる因縁などの制約も免れない。生業的経営の限界も見えている。また、その存在する地域の経済社会の姿、人口構成と生活の変化、交通網の変化などの影響を全体として被らざるを得ず、現状打開は容易なことではない。
このような厳しい環境下でも、打開策を図っている商店街生き残り戦略の実践例は、最近の『中小企業白書』などでしばしば取り上げられているが、単に「何をなしたか」だけではなく、困難な条件の下でも、どのように打開の道を探り、どのような方法を駆使したのか、その成果が次のどのような展開につながっているのか、詳しく研究してみる必要がある。大型店などとの共存の道、再開発問題とのかかわり、消費者を引きつける努力、魅力ある品揃えやサービス、まちづくり、空き店舗対策、従業員対策など、具体的な問題への対応策の実態がこれまでにもさまざま研究指摘されている。
しかも近年では、個店の積極的経営努力とともに、それぞれの地域ニーズにもとづく、地域社会との共存共栄に向けたあらたなアイディアによる多様な試みが生まれてきている。あるいはまた、「エコマネー」「地域通貨」の活用、地域社会及びそれを構成する諸方面と一体化した新しい関係づくり、「まちづくり」「まちおこし」の運動や事業への積極参加、地域のニーズにこたえるコミュニティビジネスの展開への支援や協力などといった、発想の大胆な転換をはかる機運もある。
こうした先進事例の一つの特徴は、既存商店街内部の経営努力だけによるのではなく、地域社会を含めた、さまざまな関連主体との積極的なつながりの追求と、新しい知恵・アイディア、若い人材活力などを含めた外部経営資源の積極的な取り入れ活用によって発展を図り、中小商店並びに商店街の経営革新につなげようとしている点にある。「地域がよくならないと、商店街も生き残れない」、「地域社会の一員である商店街と中小商業の役割を見直さなくてはいけない」こうした声があちこちで聞かれる。
この調査研究は、外部の主体と資源とのあらたな関係づくりとそれによる自己革新、商店街と地域社会の総合的な再活性化の戦略を実践してきた各地の事例を詳しく調査し、それぞれの特徴を多面的立体的に明らかにし、事例分析の結果を広く参考に供しようとするものである。そのことによってまた、商業集積活用とまちづくり、地域環境問題、地域社会問題への政策に関して、具体的な提言の手がかりを示すものでもある。
調査は、まちづくりと商店街活性化に向けて先進的ないしはユニークなとりくみをすすめている全国の事例研究を中心にすすめられ、全部で16の地域を対象にしている。そこで活動する商店街関係者、行政や商工団体関係者、NPO組織などの関係者への詳細なインタビュー及び関連資料収集分析を行い、その結果を以下で述べている。
第1章では、序論として中小商業をめぐる環境変化と商店街の現状を取り上げ、諸統計や調査結果などをもとに、現在の厳しい状況を解明している。そして打開の道は、限定された商圏としての地域社会との共存にしかなく、その積極的な追求が商店街全体としても、個店としても不可欠であることを指摘している。
第2章では、地域社会と商業集積・商店街とのあらたな関係と外部資源利用を図ることの理論的意義を指摘し、本研究での「外部経営資源」の位置づけ、特徴を示している。
第3章では、調査事例にみるまちづくりと商店街活性化へのとりくみの数々を整理分析し、それぞれの主体の特徴と活用される経営資源、とりくみの具体的特徴を示し、教訓を明らかにしている。そして、資源の外部性/内部性およびまちづくり活動/商店街活動それぞれの重点からの事例類型化を行い、各々の意義を指摘している。
第4章では、これらの事例におけるとりくみを組織・運動・経営資源利用のあり方として分析し、主体の確立、多様性、協働、資源循環という特徴に沿って性格づけ、さらに後継者問題、チェーン店などアウトサイダー問題、テナント化問題などの対応策を述べている。
第5章では、都市、まちづくりと商業の関係性を再評価し、地域商業の再生へのみちすじを展望し、TMOの役割などを含めて政策的な含意を示し、わけても「地域資源循環型プラットフォーム」を実現していく必要を述べている。
巻末には、調査事例の詳しい紹介と事例研究を掲載している。
問い合わせ先.中小企業研究センターのWEBサイトへ
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