「生産性革命論」の批判的検討のための資料


 「テイセイサンセイチュウショウキギョウ撲滅論」などが声高に叫ばれるいま、最低限、過去の「中小企業観」と「中小企業政策」がどのようなことを考え、現状認識とし、何を為すべきとしたのか、そのくらいはきちんと振り返る必要があるだろう。もちろんそれとともに、その背景にあった経済状況、企業経営の状況を客観的に理解することも当然欠かせない。

 
 

 
中小企業庁設置法(1948年)
 「この法律は、健全な独立の中小企業が、国民経済を健全にし、及び発達させ、経済力の集中を防止し、且つ、企業を営もうとする者に対し、公平な事業活動の機会を確保するものであるのに鑑み、中小企業を育成し、及び発展させ、且つ、その経営を向上させるに足る諸条件を確立することを目的とする。」(第1条)
 
 

中小企業基本法(1963年)
 「国民経済の成長発展に即応し、中小企業の経済的社会的制約による不利を是正するとともに、中小企業者の自主的な努力を助長し、企業間における生産性等の諸格差が是正されるように中小企業の生産性及び取引条件が向上することを目途として、中小企業の成長発展を図り、あわせて中小企業の従事者の経済的社会的地位の向上に資する。」(第1条)
 
 

中小企業近代化促進法(1963年)
 「中小企業の実態を調査して、その実態に即した中小企業近代化計画を策定し、その円滑な実施を図る措置を講ずること等により、中小企業の近代化を促進し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」(第1条)
 
 

改正中小企業基本法(1999年)
 「中小企業については、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することにより我が国の経済の基盤を形成しているものであり、特に、多数の中小企業者が創意工夫を生かして経営の向上を図るための事業活動を行うことを通じて、新たな産業を創出し、就業の機会を増大させ、市場における競争を促進し、地域における経済の活性化を促進する等我が国経済の活力の維持及び強化に果たすべき重要な使命を有するものであることにかんがみ、独立した中小企業者の自主的な努力が助長されることを旨とし、その経営の革新及び創業が促進され、その経営基盤が強化され、並びに経済的社会的環境の変化への適応が円滑化されることにより、その多様で活力ある成長発展が図られなければならない。」(第3条)
 
 

中小企業経営革新支援法(1999年)
 「この法律は、経済的環境の変化に即応 して中小企業が行う経営革新を支援するための措置を講じ、あわせて経済的環境の著しい変化により著 しく影響を受けている中小企業の将来の経営革新に寄与する経営基盤の強化を支援するための措置を講 ずることにより、中小企業の創意ある向上発展を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする 。」(第1条)
 
 

「中小企業憲章」(2011年 内閣閣議決定)
 「中小企業は、経済やくらしを支え、牽引する。創意工夫を凝らし、技術を磨き、雇用の大部分を支え、くらしに潤いを与える。意思決定の素早さや行動力、個性豊かな得意分野や多種多様な可能性を持つ。経営者は、企業家精神に溢れ、自らの才覚で事業を営みながら、家族のみならず従業員を守る責任を果たす。中小企業は、経営者と従業員が一体感を発揮し、一人ひとりの努力が目に見える形で成果に結びつき易い場である。
 中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす。小規模企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらす。
 このように中小企業は、国家の財産ともいうべき存在である。一方で、中小企業の多くは、資金や人材などに制約があるため、外からの変化に弱く、不公平な取引を強いられるなど数多くの困難に晒されてきた。この中で、大企業に重きを置く風潮や価値観が形成されてきた。しかし、金融分野に端を発する国際的な市場経済の混乱は、却って大企業の弱さを露わにし、世界的にもこれまで以上に中小企業への期待が高まっている。国内では、少子高齢化、経済社会の停滞などにより、将来への不安が増している。不安解消の鍵となる医療、福祉、情報通信技術、地球温暖化問題を始めとする環境・エネルギーなどは、市場の成長が期待できる分野でもある。中小企業の力がこれらの分野で発揮され、豊かな経済、安心できる社会、そして人々の活力をもたらし、日本が世界に先駆けて未来を切り拓くモデルを示す。
 難局の克服への展開が求められるこのような時代にこそ、これまで以上に意欲を持って努力と創意工夫を重ねることに高い価値を置かなければならない。中小企業は、その大いなる担い手である。」(基本理念)
 
 

小規模企業振興基本法(2014年)
 「小規模企業の振興は、人口構造の変化、国際化及び情報化の進展等の経済社会情勢の変化に伴い、国内の需要が多様化し、若しくは減少し、雇用や就業の形態が多様化し、又は地域の産業構造が変化する中で、顧客との信頼関係に基づく国内外の需要の開拓、創業等を通じた個人の能力の発揮又は自立的で個性豊かな地域社会の形成において小規模企業の活力が最大限に発揮されることの必要性が増大していることに鑑み、個人事業者をはじめ自己の知識及び技能を活用して多様な事業を創出する小企業者が多数を占める我が国の小規模企業について、多様な主体との連携及び協働を推進することによりその事業の持続的な発展が図られることを旨として、行われなければならない。」(第3条)
 
 
 

*中小企業庁編『2003年版 中小企業白書』が指摘する、中小企業の「役割」指摘
 
 1.分業関係、棲み分けと付加価値の生産
      <非資本集約的・多種少量・激しい需要変動分野>
 2.中小企業の成長発展と経済のダイナミズム
 3.経営活力と先進的な製品・サービスの供給
 4.多くの雇用機会の創出と提供
      <民間部門全従業者の70%以上>
 5.新分野進出の努力を通じ、イノベーションを担う
     <1995-2001の日本の全要素生産性成長率平均値では中小企業の方が大企業より大>
 6.地域経済を担い、地域社会へ貢献
 
 「こうした中小企業が多数、活躍する経済−「企業家社会」が日本経済再生につながる。
 そしてこの「企業家社会」は多くの者に事業を通じた自己実現の喜びを与えるものである。というのは、多くの者が事業から自己実現を達成するためには、多くの価値観を認める企業形態が必要であるが、そこに勤める者の価値観が、とかく画一的になりがちな大規模組織が中心となった社会ではそうした条件が成立しにくい。それに対して、中小企業は多様性を容認するものであるからである。」(終章)


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