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目次
はじめに
プログラムのあらまし
心に残る二つのこと
写真
まとめ
先月末(2016年2月28日)、私が所属し、レッスンを受けているハートリー合唱団の第8回コンサートが恒例のフランス料理店 ル・ビューイーゼルで開かれた。決して大きくはないこの会場に、今回も80名以上の方がお越し下さり、晴天に恵まれ、これまでのコンサートの中で最も成功したものではなかったかと思っている。
第1回のコンサートは、2008年2月にこの場所で催された。私はその前年にこのコーラスのメンバーに加えていただき、以来毎月2回、新森美加先生のレッスンを受けて来ている。
私はマンネリが嫌いで、生まれてこの方、同じサークルに3年以上所属したことがない。それは、惰性で群れ合うということが性格的に合わないからだと思う。
その唯一の例外がこのハートリー合唱団で、今年で在籍9年目となる。不思議なことなので、なぜこれほど続いているのか、その理由を考えてみた。
その第1の理由が新森先生のレッスンにあると思う。先生は「音楽とは音を楽しむこと」と心底思っていらっしゃる。このことは、物ごころついた頃から私も思ってきたことなので、音楽に対する根本的な気持ちが同じだということは何よりも大きいことに違いない。
だから、レッスンが楽しく、笑いが絶えない。しかし、音楽的レベルは高く、意識しないで身に付くように指導して下さるのだから願ったり叶ったりである。
昨年のコンサートでは音声記録と動画記録に専念したので、他の出演者の演奏を鑑賞し楽しむ余裕はなかった。成長著しい若者たちの演奏をじっくり鑑賞できないことは口惜しい。そこで、今回は鑑賞に集中することにしたが、素晴らしい演奏が目白押しで、幸せだった。
そういうわけで、今回のコンサートの音声記録、動画記録はないが、その代わりとして私の感想を記録として残すことにする。
このプログラムは、ECC学園高校1年 井上彩希さんの作品である。勉強のために作った処女作だと聞いている。最初の作品としては優れていると思い、若者のこれからの成長を期待している。
第1回から第3回まではハートリー合唱団のコンサートだったが、第4回コンサートから フックラックミュージックとのジョイント・コンサートに変わっている。
会場は天満のOAPタワー1階にある画廊レストラン ル・ビュー・イーゼル にほぼ決まった感じがする。
美味しいフランス料理のランチのあと、プログラムの第1部は12時30分から、第2部は14時から始まった。
第2部は若者たちの熱演の連続で、終了が予定より1時間以上も遅れ、16時45分に大成功の中で終わった。中身の濃い充実したコンサートだった。
年々加速度的にレベルが上がって来ている感じがする。それには若者たちが加わった影響が大きい。第1回から続けて参加してきた者は、恐らく同じ感想を持たれたことだろう。
牧野篤史さんの司会でプログラムは始まった。オープニングは、出演者全員による「明日という日が」の合唱だった。
この曲はもともと、2006年に大阪府池田市で開催された、第30回全日本合唱教育研究会全国大会のために、山本瓔子の詩に八木澤教司が曲をつけたもので、大阪市立 文の里中学校の合唱で初披露された。
2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響により、19日に福島市音楽堂で開催される予定だった、声楽アンサンブルコンテスト全国大会が中止になったことで、出場予定だった仙台市立八軒中学校が、復興を祈願するためこの曲を演奏した。
この曲はホ短調で始まり、終わり近くでハ長調にに転調して、高らかに明日への望みを歌い上げる人生応援歌である。その上、この曲の最高音が男声で1点ホ音、女声で2点ホ音なので、大声で歌うと発声練習を兼ねる効果がある。
第1部の6番目に、私たち守口クラスは、作詞作曲 中島みゆきの「糸」と、阿久悠作詞 森田公一作曲の「あの鐘を鳴らすのはあなた」を混声三部合唱で歌った。歌い慣れたこの曲を全員が楽しんで歌えたのではないかと思っている。
プログラム第2部の2番目は、私たち守口クラスのメンバー川西美枝子さんが、モーツアルトの「トルコ行進曲」をピアノ独奏した。小学校時代に習ったことがあるというピアノを、レッスン再開わずか3ヶ月ばかりで滑らかに弾かれるのに感嘆した。
惜しむらくは、間違いを誤魔化すことを潔しとされない性格のため、所々短い空白と重複が入ったことである。それでもこの曲を聴きながら、遠い昔の懐かしい思い出を存分に楽しむことができた。そう、音楽は楽しむものなのだ。
続いて4番目はGNT5による男声合唱だった。2年前に結成されたGNT4に、今回からもう一人が加わり、男声クインテットに変わっている。
メンバーは、神谷文雄 84歳、野村 望 79歳、内倉和真 23歳、青柳真人 23歳、山本真輔 21歳。祖父世代と孫世代という他に例を見ない構成である。 若者たちはフックラックミュージックに所属している。
演奏したのは歌い慣れた曲ばかりで、誰もが思う存分気持ちよく声を張り上げ、歌を楽しんだのではなかろうか。
続く5番目は、Msハートリーのメンバー4名の内の下條由利子、藤田美紀子さんがデュエットで2曲、最後の曲にはピノ伴奏の新森先生も弾き語りで加わり、トリオで「THE WATER IS WIDE」を熱唱した。
「THE WATER IS WIDE」はスコットランド民謡である。連続テレビ小説「花子とアン」で、カナダ人女性教師の愛唱歌として、また、連続テレビ小説「マッサン」では、スコットランド人であるヒロインが、この曲を口ずさむ場面があった。
この曲も、その前の2曲と同様に美しいデュエットで始まったが、新森先生の逞しいアルトが加わると、ゴージャスなゴスペルソングに一変し、聴き続けるうちに、これはエディット・ピアフの世界ではないかと錯覚してしまった。そして、魂を鷲掴みされたような気持で聴き惚れた。
このあと6番から11番までは若者たちの出番で、11曲をソロやデュエットで歌ったが、ただただ感嘆するばかりのみごとな歌唱であった。
ちょうど2年前のコンサートから彼らは出演している。その時に歌った曲を、内倉和真君と青柳真人君は、今回それぞれ1曲ずつ歌っている。二人の2年間の成長が良く分かると思うのでその歌の感想を述べてみたい。青柳真人君は内倉君と同い年、同じ専門学校の同級生だったと聞く。内倉君はバリトン、青柳君はテノールの声域である。
まずは、内倉和真君の歌った「オンブラ・マイ・フ」。この曲はヘンデルが作曲したオペラの中で歌われ、木陰への愛を歌ったアリアで、「ラルゴ」とも呼ばれる。
彼は2年前でも、既にエンターテイナーの雰囲気を持ち、容姿、ヘアスタイル、服装、身振り、話し方、歌い方までがエンターテイナーのそれだった。今回それがより洗練され、歌唱力はより豊かになり、この「オンブラ・マイ・フ」を格調高く歌い上げた。歌手としての2年間の彼の成長は誰の目・耳にも焼き付いたことだろう。
彼の成長は歌手以外のところにも見られた。それはPA(ピーエー)としての能力の向上で、今回のコンサートというライブの音響環境を巧みに調整し、結果として演奏者と聴衆にとって望ましい音響を創り出した。ちなみにPAとは Public Address の略語で、音響設備のオペレーターを指す。
一方、青柳君は2年前のコンサートで歌った「星は光りぬ」を歌った。この曲はプッチーニの歌劇「トスカ」の中で、間もなく銃殺されるカヴァラドッシが、明け方の星に向い、トスカとの愛を想い、思いのたけを込めて切々と歌うアリアである。
2年前と比べ声量が格段に増し、気おくれするところがなく、堂々と歌うのに魅せられてしまった。2年間の成長は歴然としていて、大喝采を浴びたのは当然であろう。
立派な体躯に恵まれているのに、下を向くことが多かった癖もずい分少なくなり、自信をもって歌う姿勢は見ていて気持が良い。間奏の部分で、歌わず間をとる時の穏やかな表情が、聴くもの観るものの心を和ませた。
若者たちの最後に歌った山本真輔君は、内倉・青柳君より2歳若く、弟分の存在で、兄貴たちに可愛がられている様子をこれまで微笑ましく眺めてきた。
この弟分が2年前に私たちの前に現れた時は、兄貴たちとは違って歌手としては全くの素人に見えた。しかし、この2年間での歌手としての成長の程度とその割合は、3人の中で一番大きかったと思う。
ジャンルやタイプ、テクニックは違うが、歌手として言うなら、もう兄貴たちと同じレベルに達していると思う。今回のコンサートでそれが証明されたと思った。
昨年ピアノの弾き語りで歌った「レット・イット・ビー」を今回は格段に上手く歌ったが、「輝けオーシャン」に一番の成長を感じた。
この曲はミュージカル「らくだのダンス」の代表曲の一つで、ミュージカルでは主役ピータムが歌った。そのピータムに劣らない歌心のある山本君の歌い方に、もう完全に参ってしまった。そして、微笑まれる五代文吾先生の優しいお顔が目に浮かんだ。
五代先生はこのミュージカルの作者で、ミュージカルの中の30曲全曲の作詞作曲者であり、新森美加先生のご夫君である。ミュージカル公演の翌年に先生は亡くなられ、告別式の1時間後に東日本大震災が起きた。だから、私たちの心の中では東日本大震災と五代先生が強く結びついている。
先生は生前「将来を背負って行くこどもたちに、私たちが残しておくことの出来るもの、それが歌であり物語であると思っています。ミュージカル『らくだのダンス』は日本全国の人たちに、そして世界に向かって発信した第一号です」とメールに書かれたが、山本君のこの歌をお聴きになって、先生はさぞ喜んでいらっしゃることだろう。
この若者たちの才能を見つけ、引き出し、素晴らしい成果を出されている新森美加先生を改めて敬服しながら、このような素晴らしい弟子をお持ちになって、お幸せな方だとも思った。
プログラム第2部の最後は、ハートリー合唱団とフックラックミュージックの全員で、五代文吾作詞作曲、竹中雄哉編曲の合唱曲「美しき国・美しき人」を歌った。この曲は「輝けオーシャン」とともに、ミュージカル「らくだのダンス」の代表曲で、主役ピータムの祖父が、流れ者の若者に、生きることのすばらしさを伝える曲である。
エンディングは会場全員でドヴォルザーク作曲の「家路」を合唱して終了した。
このプラグラムの裏表紙には、出演者の名前と新森美加先生のご挨拶が書かれている。
出演者の名前の中で、FLSの木下彩、守口クラスの野村望、司会の牧野篤史は、ミュージカル「らくだのダンス」に出演したメンバーでもある。昨年までは、ミュージカル「らくだのダンス」の主役を務めた藤田剛充さんも、このコンサートに参加していた。
昨年のコンサートは若者たちに対する支援を第一に考え、音声記録と動画記録を最優先して、それに専念した。その結果、プログラムの鑑賞を満足にすることができず、欲求不満が残った。
そこで今回はプログラム鑑賞を中心としたが、これまでの8回のコンサートの中で一番内容が素晴らしく、出演者も鑑賞者も、思いっきりプログラムを楽しむことができたのではないかと感じた。
そのほか、今回のコンサートで二つのことが心に残った。その一つは、山本真輔君の歌唱力の飛躍的な向上であり、もう一つは、新森先生の歌唱の魅力の新発見である。このような機会に遭遇できた幸運に感謝している。
山本真輔君は月1回くらい私たちと一緒にコーラスのレッスンを受けて来た。その彼の発声が3ヶ月ばかり前から突然驚くほど良くなり、聴いていて惚れ惚れするほどになった。何があったのだろうかと考え、何かがきっかけとなって発声のコツが身に付いたと考えるのが当たっているのではないかと思った。
というのは、芸大の声楽科を出てイタリアに何年も留学し勉強を続けたが、ベルカント唱法を体得できなかった人、あるいは数年後にようやくそれを身に付けることができたプロの歌手の著書を幾つか読んだことがあるからだ。その中には声帯を傷め、歌手を断念した人もいるらしい。
人間は「歌う」が「話す」より先にあったとされる。その発声器官の音源はわずか2cm(女性1.7cm)の声帯で、これに直接関与する5種類の内喉頭筋群と、間接的に関与する5種類の外喉頭筋群が、迷走神経の支配下のもとで精巧緻密に連携して、美しい歌を演奏するメカニズムとなっている。
オーケストラに伍して、広いコンサートホールの奥まで、マイクを使わずその美しい歌声を届けることができるとは、何と素晴らしい能力を人間は与えられているのだろう。もう感動するばかりである。
このような能力をトレーニングで獲得するのは、余りにも複雑過ぎて不可能だと思える。トレーニングも少しは関係するかも知れないが、それよりも一種の勘、コツを知ることにより身に付くのではないかという気がするのだ。
それは、ある瞬間から自転車に乗れるようになったり、泳げるようになったりするように、ある時点から正しい音高(ピッチ)、美しい音色、よく響く音量で歌うことができるようになるのではないかという仮説である。
持って生まれたものも関係しているかもしれないが、最も大きく影響しているのは幸運ではないかと言う気がする。今回のコンサートでその仮説が確かめられたと思い、たまらなく嬉しかった。
もう一つの心に残る発見は、新森先生の歌唱の素晴らしさだった。先生はピアノの弾き語りで「THE WATER IS WIDE」の演奏に加わり、トリオで熱唱されたが、その歌い方には得も言われぬ迫力があり、すっかり陶酔してしまった。
私は8年間、この先生のもとでコーラスのレッスンを受けて来て、レッスン中に指導として歌われるのを何度も聴いてきたし、いつかのコンサートで独唱されたのを聴いたこともある。しかし、いずれもクラッシック調の発声で、格別感動したという記憶はない。
また、レッスンでは「大阪のおばちゃんの地声」で歌ってはいけないと、その真似をしてよく注意されるので、コーラスではそうなのかもしれないと納得していた。
ところが、今回心を奪われたのは、その「大阪のおばちゃんに近い地声」で、叩きつけるように激しく歌う歌い方だったのだから困る。気分を害されるかも知れないが、先生の歌唱の真骨頂はここにあると確信したのだ。クラシックばかりが歌じゃない。歌はいろいろなやりかたで人の生き方に関わっている。
この歌を聴いていて、これはエディット・ピアフの世界だと感じたのは、今から60年以上前、高校2年のころ、エディット・ピアフのレコードにのめりこんでいたことがあるからだと思う。人生を逞しく、肯定的に、力いっぱい生きてきた人にしか歌えない歌い方だと思ったが、先生も同じ生き方をして来られたのだろう。
残念ながら、今回は音声記録を取っていないので、私の感想を裏付ける客観的証拠はない。私は感激しやすい情緒的な人間なので、お前は惑わされたのだと指摘されれば抗弁の余地はない。しかし、妻も私と同じ感想だったことを付け加えておく。
このコンサートで、いま申し上げたような、違う種類の心に残る発見が、二つもあったという幸運に感謝している。私にとって、心に残る懐かしいコンサートとなるに違いない。
今回のコンサートでは、私は写真撮影、動画撮影、録音のいずれも行わず、出演のほかは専ら鑑賞に徹した。そのため、それらが全くない記録記事となってしまった。
この度、フックラックミュージックの井上彩希様が撮影された写真を使わせて頂けることになり、「写真」の章を新たに設け、ハートリー合唱団団員が出演している場面の写真を掲載した。(2016.05.15.)
1.演奏の音楽的レベルが毎年高くなっているが、今年はそれが最高だったと思う。
2.その中でも、若者たちのパワーと音楽レベルの高さには、圧倒される思いだった。
3.今回は心に残る二つの発見があった。その一つは一人の若者の歌唱力の飛躍的な成長、
もう一つは、コーラスを指導して頂いている師のエディット・ピアフ的な歌唱だった。
4.故五代文吾先生の作詞作曲された「輝けオーシャン」がこの若者によって歌われ
同じく五代先生の作詞作曲された「美しき国・美しき人」が混声三部合唱に編曲されて
ハートリー合唱団・フックラックミュージックのメンバーによって歌われた。
5.成長を続けるコーラスに、8年間も在籍できたことをありがたく思っている。
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