狂乱西葛西日記98年12月16日〜12月21日

【12月16日(水)】


 年末進行で軒並み締切がはやくなっている各種原稿に着手。レイモンとスタージョンの短篇が入ったおかげで、Remakeの翻訳がすっかりストップしているのだが、まあこの山を越すまでお預け。

 ファンタジーノベル大賞受賞作3冊の書評用献本が到着。『オルガニスト』『ヤンのいた島』は、どっちも一次でオレの箱だったから原稿で読んでいる。ので、とりあえず、涼元悠一『青猫の街』を読みはじめる。
 開けてびっくり、四六判なのに横書き。新潮社で四六判文芸書の横書きははじめてじゃないの。その昔、たしか河出書房新社から出た乗越たかお『アポクリファ』っていうチャット小説(傑作)がやっぱり横書きで、これは全編チャットのログという体裁だった。あと横書きっていうと、文春のメール小説『エドガー@サイプラス』ですか。
『青猫の街』は、とくに横書きじゃなくても成立する小説だと思うけど、考えたらべつに小説だから縦書きじゃなきゃいかんてこともない。縦書きにこだわる作家/翻訳家には縦書きエディタやワープロを使ってる人もいるけど、オレの文章製作環境はぜんぶ横書きだし。縦書きの中に1バイト文字の横書きが混じるのはみっともないって考えかたも当然あるでしょう。オレの場合、全角アルファベット縦書きは嫌いなので(4文字までなら許容する)、コンピュータ系ノンフィクションの翻訳では半角横書き混在させてますが。
 じっさい、版型から考えて、縦書き一段組よりは横書き一段組のほうが合理的。改行の多い一部のヤングアダルトなんか、横書きにしちゃうとページ数が減って安くなるのでは。

 というわけで、読みはじめてしまうと横書きにも全然違和感はない。
 失踪した友だち(GATEWAY 2000ユーザ)の部屋に、なぜか9801VMが1台ぽつんと残されていた――という導入は最高。主人公はシステム開発の人なんですが、同僚との会話とか、めちゃめちゃリアル(エヴァに関する議論も笑える――異論はあるけど)。
 メインアイデアのみ、若干SF的なテイストがありますが、全体的には非常によく書けたPC青春小説サスペンス仕様という感じ。
 帯には「新しい小説が登場した」みたいなことが書いてあるけど、オレ的にはむしろノスタルジックなテイストでしたね。時代設定は96年末なので、PC的には一昔前。新しいとか先鋭的とかいうんじゃなくて、すごく自然体なところが気持ちいい。
 インターネット文芸新人賞の三上真璃「架空庭園の夜」も似たタイプの小説で、これからこういうのが増えるかも(というか、すでに増えているのだが、今までは全然板についてないものが多かった)。

 ちなみにこの本の刊行に合わせて、「涼元悠一WebPage」も開設されてて、FAQがサポートされてます。




【12月17日(木)】


 「世界選抜×イタリア代表」の試合がはじまる朝4時45分まで寝るつもりだったのに、なぜか午前0時30分に目が覚めてしまう。しょうがないのであちこちの掲示板を見ているとすぐに時間がたつ。まあしかし「掲示板のことは掲示板に書く」主義なので。

 寝床でホラー大賞の原稿読んでるうちにまた眠くなってきたが試合がはじまっちゃったので見る。前半だけでしたね。いくら顔見せ興行とは言っても、フォワードばっかりあんなに入れるか>世界選抜。あんな中途半端な出方するぐらいなら、中田はいっそセンターバックでもやればよかったのに。イチローが投げるオールスター、みたいな。

 ハーフタイムに睡魔が襲ってきたのをがまんしてたらそのまま眠れなくなり、えんえん原稿を読みつづける。午後1時就寝。



【12月18日(金)】


 途中一回起きたけどまた寝たので、けっきょく目が覚めたのは午前2時半。いいのか、こんなに寝て。
 年末進行で原稿がわさわさたまってるので、寒い中をジョナサンまで。冬はポークキムチ鍋に限る。
 体があたたまったところで、アニメージュのF.F.N.原稿(宮部さんがゲストの分)と書評、小説すばるの書評を書き上げ、映画秘宝ベストテン号の『神様の愛い奴』原稿に着手。
 さらにミストラルに移動して、アニメージュの特集用の「終末SFベスト5」原稿を書く。これで年内の締切はだいたいクリア……ってまだ3本あるか。

 多少ゆとりができたので、カレカノ9話以降をまとめて見る。つばさちゃんの声はすごすぎ。10話は爆発してましたね。コナン×ジムシーの対決を思い出したり。いや、すばらしい。12話のUNOはもっと長くてもよかった。あれだけで15分とか。だれが勝ったのかちゃんと教えてほしいことである。

 久々にリンクページを更新。基本的に、気がついたときにブックマークしたサイトをまとめてるんですが、全然フォローが追いつかない。全面的に分類からやりなおして、リンク切れを追放しなきゃいけないんだけど……。

 さいとうよしこはナンジャタウンのファミ通忘年会に出かけるが、オレはしばらく考えたものの眠いのでパス。ちょっと出かけてくるにはサンシャインは遠いのだった。ちなみにタニグチリウイチもいたらしい。

 さいとうよしこと言えば、着メロ本大ヒットのおかげで今や150万部ライター(笑)なんですが、もちろん原稿は買い取り。印税0.1パーセントでももらっとけば左ウチワだったのになあ。まあ自分で企画した本のほうは全然売れなかったので自業自得か。  着メロ本は後追いで講談社からも出てるんだけど、帯が爆笑。「東京一週間で人気沸騰!」はまあいいとして、「類書を圧倒!」だって。せめて「本家を圧倒!」と書け。

『鉄道員』映画化記者発表に広末を見にいこうと思っていたのにすっかり忘れていた。ちぇ。




【12月19日(土)】


 昼ごろ寝て、午後5時起床。
 馬場に出て、ユタの例会に顔を出してから、なぜか時の人・福井健太といっしょに早稲田通りを歩き、明治通りを越してすぐの店で、村上和久(ミステリマガジン前編集長)&黒沢哲也(コンバットコミック前編集長)を励ます会へ。ワセミスの会なので、現役・OBとりまぜてワセミス出身者多数。
 曽根さん(奇想天外社→大陸書房→マガジンマガジン)とか、潮出版のU田さんとか、ひさしぶりのひともいろいろ。
「奥のほうで匿名座談会やってますよ、Oさん」と言われて覗くと、AさんとかBさんとかDさんとかがいました。オレを記号なんかで呼ぶな! とかそういう感じ。この人たちと仲良くしているとろくなことがないので、なるべく仲良くしないようにしようと思っているのだが。
《このミス》千街原稿にはむっとしている人もいるらしい。茶木さんは、「千街の立場もわかるからなあ」とかそういう感じ。
 オレ的には、「大きなお世話だ」発言に爆笑したので、あれはすべてオッケーなんですが。若者はああじゃないとね。だからこそメフィストで福井健太叩いたりしてちゃいかんでしょう。
 司会の霞流一氏に呼ばれて、なんかしゃべれとマイクをわたされたので、「人間、名前で呼ばれているうちが華です」とかそういう話をする。
 締めのあいさつは曽根さんで、「伝説の《奇想天外》編集長、曽根さんです」と紹介されてました。そうか、もはや伝説なのか。ということは、オレも伝説の雑誌に連載してたわけね。いや、といっても、第三期の《小説奇想天外》ですが。考えてみればこれを書いてたのはもう10年以上前で、当時のオレは今の千街晶之ぐらいの年だったのね。と思ってこれとか読み返してみると、いやあ若い若い。10年で成長はしないが年はとるものである。

 一次会が終わったところでユタにもどり、SF組といったん合流。最近いつも、タダの馬場駅前稲門ビル2Fの牛タン屋《ねぎし》で飯食ってるんだけど、ワセミス宴会の二次会は同じビルの5階なのだった。ユタ組は三村・小浜・添野・山岸・藤元・林・雑破・高橋とか。
 9時をまわったところで小浜といっしょに5階の《満腹亭》に上がり、ワセミス二次会に合流。
「新本格の足をひっぱったことなんか一回もないのに、どうしてオレばっかりいぢめられるんだ」と怪気炎を上げる茶木則雄。いや、そういう問題じゃないと思うんですけど。
 その茶木さんの相手をずっとしていたのだが福井健太だが、茶木さんが麻雀に去ったとたん、例によってがんがん飛ばしはじめる。「だいたいいまどきインターネットも見られないようなやつなんかみんな×××なんだから、無視しとけばいいんですよ」とか。
 対・千街では自分が有利と見て調子こいてる模様。いや、口が悪いのはいつものことですが。どうでもいいけど、ごはんと食べるときは口を閉じたほうがいいと思う。と、これはさいとうよしこの意見。

 日下三蔵は『宝石泥棒II』秘湯事件を知らなかった。見本を確認してなかったらしい。「ゲラで直したのに」と泣いてましたが、もうこれは歴史的事実なので。秘湯冒険小説の名付け親として、日下三蔵は長く記憶されるであろう。

 三次会は《いろはにほへと》。T内Y一が受け皿に注がれた日本酒を泣きながら飲み干してました。若いなあ。でも高瀬美恵嬢は、おなじものを顔色ひとつ変えずに飲み干したのでもっと若い。白石朗の本質を三分で見破ったりしてたので、人間を見る目もあると思います。
「レガイア伝説」ヒットで笑いがとまらない柴尾さんは来年の減税の恩恵をフルに受ける模様。日ごろの行いがよほどよかったに違いない。

 現役学生の柴山くんから、SFセミナーのミステリ版のようなものをやりたいんですがと相談を受ける。「やればいいのに」と言った立場上、SF系コンベンションの仕組みについてひとしきり話をしましたが、考えてみるとワセミスって、現役会員だけで80人もいるんだよな。会員とOBだけであっという間に百人規模のイベントが開けるサークルの場合、むしろ「いかに客の人数を適正に保つか」が問題になるのかも。贅沢な悩みである。
 まあ、あとは三村道場に弟子入りすれば、大会ぐらいすぐ開けるでしょう。全ミス連と関ミス連が機能してるだけでも、いまやSFより足腰が強いかもしれない。

 けっきょく午前3時まで《いろはにほへと》にいて、白石朗とタクシー帰り。
 晴海・ホテル浦島のSFクリスマスに行ってたさいとうよしこは堺三保といっしょにタクシーで帰ってきたらしい。SFクリスマスは17年ぶりだったそうで、そういえばあのころは……とか考えはじめるのがSFファンダムの歴史の重みってやつですか。いや、オレはクリスマス出たことないけど。



【12月20日(日)】


 お昼に寝て、午後9時起床。
 WOWOWでフィオレンティーナ×ペルージャ。前節につづいてインジャリータイムで得点するあたり、ホームではほんとに強いね。あのPKはちょっとかわいそうだと思ったけど、相手がフィオレンティーナだからいいや。

 あとはホラー大賞の原稿をひたすら読みつづける。3200枚と2800枚があるので読んでも読んでも終わらない。



【12月21日(月)】


 寝て起きて原稿を読みごはんを食べ原稿を読む。ときどきソニック。さすがに家にいるのに飽きたのでミストラル。
 中田が一面のスポニチ読んでると携帯が鳴る。
「角川春樹事務所のM松ですが……」と解説の原稿依頼。1月15日締切で光瀬龍の『宇宙航路』。『たそがれに還る』『喪われた都市の記録』と来て、三冊めが『宇宙港路』とわ。せめて『派遣軍還る』では。
 と思いつつ引き受けると、5分後にまた携帯が鳴る。
「角川春樹事務所のK岡ですが……」と解説の原稿依頼。1月15日締切で山田正紀の『人喰いの時代』。
 あの……さっきM松さんから同じ締切で同じ月のべつの本の解説頼まれたんですけど……。
「えっ、そうなんですか。ちょっとM松と相談して調整してみます」と言われたものの、けっきょく両者譲らず、おなじ月に二本書くことになった模様。同じ月の同じ文庫の解説を書いたのは角川文庫の清水義範『アキレスと亀』いしかわじゅん『吉祥寺探偵局』以来かも。
 山田さんのほうは、こないだ獏さんのパーティのときに直接ご本人から頼まれて、「いや、『人喰い』は、新本格系作家にファンが多いから、ぼくじゃないほうが……」と言ったような記憶が。まあでも、関ミス連のときの話では、あのころはまだ、「SF作家がミステリを書いてみた」という意識だったそうなので、「SFの解説を書く人間がミステリの解説を書いてみた」という解説が要求されているのかも。というか、考えたら幻冬舎文庫の《女囮捜査官》シリーズの解説で新本格作家を総動員してしまった、という事情が大きいのかも。
 しかし『宇宙航路』はなあ……。タイトルは『猫柳ヨウレの冒険』からオリジナルにもどすんだそうですが。徳間に入ったとき改題したのは、奇想天外社倒産のあおりで『宇宙航路』の印税が一銭も入らなかったという悪い思い出を払拭するためだったらしい。新井さんも『あたしの中の…』の印税が入らなくてたいへんだったという話をしてましたが、当時は大事件だったんだろうな。オレも最初に翻訳したディッシュのショートショートは(最後の)別冊奇想天外用だったので、この原稿料はもらってないな、そう言えば。でもまああれは出ないの覚悟だったので。
 しかし考えてみると、オレは第二期奇想天外で翻訳者デビューして、第三期奇想天外で書評家デビューしたのか。曽根さんに足を向けて寝られない道理である。

 ここに書いて宣伝するのをすっかり忘れてましたが、京フェスで水玉螢之丞画伯からじきじきに、神麻嗣子ちゃんフィギュア(アボくんつき)塗装済みバージョンをいただいたんでした。発売元は海洋堂。めちゃめちゃ出来がいいので、西澤ファンはマストバイでしょう。これが売れると新本格系フィギュアががんがん出るかも。色は中国の工場で塗ってるんだそうで、模型の国の住人じゃない人も安心して買えます。冬コミで販売するらしい。カメラの電池が切れたんで写真は後送。うまく撮れるかどうかわかりませんが、とりあえず、これこれこれこれ4ポーズぐらい見本をあとで入れておきます。

 忘れていたネタもうひとつ。作家クラブのサイトで、「日本SF新人賞」の設立が正式発表。主催は日本SF作家クラブで、後援は徳間書店。要するに日本SF大賞の新人賞版ですね。たしか、笠井さんの発案がきっかけで設立されたんだと思った。第一回の原稿締切は、1999年7月31日。400字詰め換算350〜500枚って枚数は、ちょっと短すぎるんじゃないかと思うけど、まあ1回目だし。
 公募の長編SF新人賞は史上初かも。SF作家志望者には朗報ですが、「ハードSFだから」というような理由で落とされた他の賞の応募原稿が相当あるはずなんで、1回目のハードルは高いだろうなあ。


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