【12月1日(火)】


「ワイルド・シングス」「ビッグ・ヒット」「ラッシュ・アワー」でインターネット・アスキーの映画原稿を書く。
 あとはひたすら横溝賞一次通過作品を読みつづける。



【12月2日(水)】


 11時、「星界の紋章」第一話のアフレコを見学に、渋谷のAPUスタジオへ。
 今月25日(大阪)と28日(東京)に予定されている試写&トークライブ(入場無料。葉書で応募とかするんだと思った。詳細はSFマガジン今月号参照)で司会をする仕事を受注したので、挨拶をかねて――というよりは、主演声優の顔を見に来たというほうが正解かも。
 全話にアーヴ語のナレーションが入るため、原作者が発音指導を担当しているのがおかしい。まあ、森岡さんしかチェックできないもんな。なんかリエゾン(のような発音)とかあって声優さんもたいへんです。
 しかし森岡さんは助言を求められたときしか反応しないので、ついつい細かいチェックを入れちゃってすいません。でも「アーヴ人」はないよね。
 絵が動いてるカットはまだ半分ぐらいだったし、ラフィールはほとんど出てきませんが、少年ジントはかわいかった。かなり期待できそうな感じ。

 アフレコ終了後、森岡さんと昼飯を食いにおなじビルの喫茶店に入ったら、長岡監督以下、スタッフの人々もやってきて、しばし星界談議。進行はきつそう。



【12月3日(木)】


 4時、九段下のグランドパレスで横溝賞最終候補決定会議。イチ押し作品を残すべく徹底的に戦う覚悟をかためていたのだが、その作品を推す予選委員が意外に多くてびっくり。しかし諸事情があって編集部預かりとなった模様。あれが残らなかったらグレてやる。
 前々回につづき、今年も一次でオレの引いた箱はあたりだったらしくて、残した3本のうち2本が最終4本に残り、もう1本が次点扱いという結果。まあ、ホラーのほうはハズレだったので、バランスがとれてるというべきか。

 茶木さんはあいかわらず末期的状況がつづいているらしく、今日は麻雀もなし。みんなすばやく去ってしまったので、角川のM浦嬢とふたりティールームでお茶飲んでから西葛西にもどり、SFマガジンのスタージョン、Graveyard Readerの翻訳を猛然と開始する。これが終わらないと京都へ行けないもんなあ。
 40枚弱の短編だし、残りは25枚ぐらいなので楽勝――のはずだが、スタージョンの英語はたいへん。一人称の人称代名詞をどうするかに最後まで迷いながら、どうにかこうにか最後まで漕ぎ着ける。まだ「日本語にしただけ」という段階ですが。

《メフィスト》到着。「宮本武蔵なみの動体視力」の意味がやっと判明する。こんな新作があったとわ>河内さん
 京都に持っていくのは重すぎるので、とりあえず「ぼうぼう森」だけ読む。いや、今回は完璧にネタがわかりました。犯人が紹介される最初の一行でどんぴしゃり、みたいな。こんなにツボにハマったのは珍しい。喜国さんは「完敗!」だったらしいので、勝ったなフフ。
 千街晶之「ニューウェーブ・ミステリへの提言」には、9月10日付けの狂乱西葛西日記に書いた内容に対する反応あり。
 SFと本格ミステリの対置に関しては、オレの言葉が足りなかったかもしれない。オレが「SF」というとき、無意識のうちに念頭に置いているのは「本格SF」なんですね。ハードSFとイコールじゃなくて、そこにはシェクリイやブラウンやブラッドベリも含まれる。トリックを核に据えたのが本格ミステリだとすれば、アイデアを核にしたのが本格SFだと言っちゃってもいいんじゃないか。ミステリはトリック小説、SFはアイデア小説と考えればわかりやすい。アイデアの比重が低くなるにつれて本格から遠ざかっていく、と。
 アイデアの占める比重がかぎりなく低い小説(よその惑星が舞台になってるだけ、とか)を場合によってSFに含めちゃうのはダブルスタンダードのそしりを免れない気がするので、「広義のSF」と「本格SF」はなるべく区別して語るようにしたい。

「選考委員をそこまで呆れさせるようなレヴェルの応募作」問題に関しては、当該作品を読んでいないからこそ、「客観的傍証」となりうるのだ、という主張。ではなぜその作品が最終選考にまで残ったのか、という疑問を置き去りにしている観は否めない。考えられる理由としては、「応募作のレベルが低かった」「予備選考委員・編集部に鑑識眼がなかった」のどちらかだろう。百歩譲って、『選考委員を含む、それを読んだ複数の人物が呆れ返った』というのが「客観的事実」だとしても、「呆れ返った」ことが当然の反応だったかどうかを検証するためには読んでみるしかないのではないか。

 「選考委員を呆れさせる応募作が最終候補に残ったこと」がジャンルの危機の傍証となるのであれば、たとえば今年の日本ホラー小説大賞についても同じことが言える。《本の旅人》98年6月号の選考座談会を読めば、選考委員たちがそろって最終候補作に呆れ返っているようすを目のあたりにすることができる。こういう「ホラーもどき」(しかも複数)が最終候補に残ったのだから、日本のホラーは危機なのか? いや、そうではない――と、選考委員を呆れさせた候補作すべてを読んでいるオレは断言できる。呆れるほうがまちがいだというのは、オレにとってはほとんど客観的事実なのである。
 もちろん、千街晶之が問題にしている作品は読んでいないから、選考委員が呆れたことが正しいかどうか、オレにはわからないし、千街晶之にもわからない。選考委員のひとりから内容をくわしく聞き、選評を読んだ範囲では、呆れるには呆れるだけのもっともな理由があるという印象を抱いているのだが、そういう「印象」をもとに仮説を構築する勇気はとてもない。

 千街原稿は、そのあと一ページにわたって福井健太批判がつづく。詳細は当事者の日記(12月1日付)を参照。なんか「ほんとうの『子供の喧嘩』を見せてやる」って感じですね。
 これについては、「おたがいに嫌いなんやったら電話なんかするなよ」という我孫子武丸説がいちばん正しいかも。こういう原稿にチェックが入らないのがメフィストのメフィストらしいところで、豪華同人誌への道を一直線にたどっている。「一般読者」なんか気にしないでこの調子でがんばってほしいものである。

 メフィストネタでもうひとつ。京極夏彦の『百器徒然袋・鳴釜』を読んだんですが、これってもしかして匿名座談会ネタ? 被害者は加害者の顔が暴かれることを望んでるという話? 人数は合ってて、ひとりだけ許してもらってるんですごく気になるんですけど(笑)。 京極さんはきっとしらばっくれるだろうな、でも。

 日記に書くのをすっかり忘れていたが、スティングレー深上鴻一くんから、ついに完成した国産特撮データベースCD-ROM、『全特撮』をいただきました。おなじスティングレーの『全洋画』は、携速95でハードディスクにまるごとインストールして超べんりに使ってるので(これがないと『リメイク』は翻訳できないし、映画の原稿も書けない)、『全特撮』にも期待大。しかし全然ヒマがないのでまだ中身をチェックしてないのだった。詳細はいずれ。



【12月4日(金)】


 夕方起きて、Graveyard Readerのβ版翻訳原稿をメールで送り(イラストレーター用の見本)、《本の雑誌》書評用の本をカバンに詰めて京都へ出発。ホテルとってないけどまあなんとかなるでしょう。
 新幹線の中ではひたすら本を読み、京都着は午後9時半。ぶらぶらしようと思ったら雨が降ってきたんで四条木屋町の喫茶店に避難してると、水玉さんから電話。水玉さんは全日空ホテルを予約しているらしい。
 この時間から全日空に泊まるのも損な気がするので(笑)、さいとうよしこが持ってたガイドブックで適当に近くのホテルを見つくろい、京都カードで2000円割引という烏丸御池のハートンホテルを予約。ふたりで12,500円。
 11時ごろ水玉さんと合流してから、タクシーに同乗して、いったんそれぞれのホテルへチェックイン。ハートンホテルはシティホテルとビジネスホテルの中間クラス。新しくてきれいだし、これでこの値段なら御の字でしょう。14時チェックインの12時チェックアウトだし。
 部屋に入って一服してから、全日空ホテルへタクシーでさいとうを連れていき、オレはてくてく歩いてハートンホテルにもどり、午前6時までかかって、マキャフリイ『フリーダムズ・ランディング』とカード『奇跡の少年』と田中啓文『蒼白の城XXX』を読み終える。XXXは『大脱走』というより『フェイス/オフ』の前半ですね。主人公、頭悪すぎなんでは。これは続巻待ち。



【12月5日(土)】


 死にそうに眠い。が、きのう新幹線に乗ってるとき、堺三保から「SFオンライン用の京フェスレポートを書け」という電話がかかってきたので、やっぱり昼間の企画は最初から見なければならんのではないか。
 と思ってなんとか11:00には会場入りしたものの、すでに最初の企画ははじまってました。喜多哲士の「さらば架空戦記」。途中からだけど、よく知らない話なので面白かった。分類の話とか。詳細はぼやき日記参照。「あ・じゃ・ぱん!」批判の話を聞き損ねたのは残念。

 眠くて食欲がないのでお昼は下でコーヒーを飲み、午後は福江純の「SF/アニメを天文する・ライブ」。これも福江さんのホームページに詳細なレジュメあり。ネタは面白いんだけど、WWWで予習してからだとかえって新鮮味がなかったかも。おかしかったのは福江さんの異常なまでのおたくぶりのほうですね。アニメ業界と距離の遠い業界にいる分、憧れがそのまま純粋培養されているのだろうか。
 ガイナックスの武田さんが来てたので、見なきゃだめだと教えてあげたんだけど、そのころにはもうエヴァとトップの話は終わってて残念でした。

 その武田さんからは、脱税事件の顛末を真っ先に聞く。
「いやもう、さっぱりわやですわ。クルマ買おうと思うてせっかく貯金してたのにねえ。しゃあないから定期くずして税金十億円払いましたわ。わっはっは」
 というようなネタを用意しているかと思ったら、さすがにもうちょっと切実らしい。
「せっかく自社ビル建てたろ思うてたのに。くそー。まあ、おまえらに自社ビルはまだはやいいうこっちゃろうな」とか。いや、儲かるとたいへんですわ。

 3本目は「関西在住若手SF作家放談」。出演は小林泰三・田中哲弥・田中啓文・牧野修。企画は田中啓文仕切りだったのに、はじまってみるとなぜか司会は小林泰三。いちばんつっこみに近い立場ということか。なにしろ自分でボケたい人たちばっかりなので、話が全然進まない。前に出ても声が大きくならないし、声が小さいので会場の聴衆は必死に聞き耳を立てている状態。
「小さい声でぼそっとおもしろいことを言う」「一度言ったことはつづけてくりかえさない」「ボケが連鎖して拡大する」「忘れたころにネタが反復される」……というスタイルなので、マイクがないのとツッコミ用の専任司会者がいないのはちょっとつらかったですね。合宿とかで発揮される実力の半分ぐらいしか出てなかった感じ。でもじゅうぶん面白かったけど。

 じっさい、はじまる前の廊下では、
「ほんまSF作家いうても、ぼくら科学とかさっぱりわからんしね」
「ラグランジュ点とかねえ」
「ああ、あの、蠅になるやつね」
「それはランジュランやて。そやのうて、ほらデパートとか巡回してる……」
「ああ、ラクランジュ展ね。いま、そごうでやってますな」
「はいはい、わたし、大丸で見ましたわ。ラグランジュ展。ごっつい人出でしたな」
「親子連れで満員で。みんな蠅のまわりに群がってうるさいうるさい」
「せやからそれはランジュラン」
 とか、そういう会話が聴衆もいないところで自然に交わされていたり。

 最後の企画は、最後に決まった「アメリカSF再考」。なんだかよくわからないが懐かしい企画だった気が。オレ的には、ひさしぶりに見た水鏡子と大野万紀のかけあいが面白かったんですが、こういう伝統芸能を楽しむための教養(笑)を持っているひともめっきり少なくなっているのかも。


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